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第1話 カードショップでの出会い
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怒涛の残業続きから解放された増谷真也は、地元の商店街を歩いている途中だった。
彼の周りには、買い物袋を抱えた主婦や、部活帰りの学生、そして仕事帰りのサラリーマンがうじゃうじゃいる。
それなりの規模感のこの商店街は、スーパーや本屋、ゲーセンそして飲み屋に至るまで地域の住民の心を満たしてくれる存在だ。
この中で、今日の真也の目的地になるのが、商店街の中心から少し離れたところにある穴場のような居酒屋である。
安月給の真也に経済的に優しいだけでなく、料理も酒も旨いこの居酒屋は最近の行きつけになっていた。
いつも通り商店街の大通りを進んだところで、左手にファストフード店を発見した。
この店の角を曲がって進み、右手にお目当ての居酒屋が見えてくる。
高鳴る気持ちを抑えて歩いていると、ふと違和感を感じてある建物の前で立ち止まる。
「こんなところにカードショップなんてあったか?」
真也の記憶では、この辺りは居酒屋などの大人な店が多くひしめき合う一方で、カードショップのような子どもたちも集まるお店はなかったように思える。
だが、その違和感もすぐにどうでも良くなってしまった。
なぜなら、彼の目には、なつかしさを覚えるカードが映ったからである。男子なら誰もが通るカードゲームだが、真也も例外ではない。
「パンデモニウム・ドラゴンじゃん!やっぱかっけぇな。これ出すために、よくサーチしたわ」
興奮しながらカードを熱いまなざしで眺めていると、かつての欲しさが湧いてくる。社会人になってからプライベートタイムがなかなか取れなくってしまったためか、カードを買うことすらなくなっていたが、もともと真也にはかなりのコレクター根性があった。
加えて、パンドラは結局ゲットできなかったという悔しい思い出も相まって、カードスリーブについた値札に自然と目線が移る。
「えーっと、いくらかな…って2万かよ?!あれから時間経ってんのに、こんなに値段すんのか。流石パンドラ…」
ちらっと自らの財布の中身を確認する。幸いお目当てのカードを買っても、今月はなんとかしのげそうな懐具合だった。
そんなわけで、資金も十分ということで買うことを決意した青年は入店する。
店内は全体的に暗く、カードの入ったショウケースだけがほのかな照明で明るくなっていた。
「すいませーん」
声をかけるも店員らしき返答はなし。
「あれ?誰もいないのか?」
ショウケースの間を縫って、誰かを探そうとしたその時、
「あ・・・も・たした・・・りか・・をえ・・・の?」
くぐもった音が、どこからともなく聞こえてくる。不気味さを感じるも、好奇心が彼の心の中で上回る。
出どころを探すと、音の発生源らしき段ボールを発見する。
「ラジオでも入ってんのか?」
相変わらず先ほどと同じ音が店内に響く。近くにあった箱前にしゃがんで、中身を覗いてみると、大量のカードが無造作に散りばめられていた。
ごそごそと中を探ってみるも、音源のようなものはなく、箱の中はカードだけである。
いつの間にやら音も止んでいる。
「・・・あれ?気のせいか?」
耳を澄ませてみるも、先ほどのような音は聞こえないままだったので、詮索を止めて立ち上がろうとした瞬間、
「ねえ」
「っ?!?!?!」
突如後ろから声をかけられた真也は驚き、カードの箱を転がしてしまう。結果、大量のカードが床に散らばる。
「あはは!肩ビクってなってた」
声の主の方へ振り返ると、帽子を目深にかぶった子どもが無邪気に笑っていた。
恨めし気な視線を送る真也に対して、
「ゴメンって。驚かすつもりはなかったんだ。ただ、何やってんのかな?って思ってさ」
「ああ、何か音が聞こえて探してたんだけど」
「音?どこからさ?」
「この辺の箱から」
そう言って、近くの箱を真也が指差す部分を、帽子の少年はじーっと覗き込む。
「何も聞こえないけど…。というより、カードそのままじゃマズくない?」
「やべ」
少年の言葉に箱をひっくり返してしまったことを思い出した真也は、急いでカードを手に取る。
「僕も手伝うよ。元はと言えば僕が悪いし」
「ありがとう」
手に取ったカードを戻していると、少年は真也に問いかけてきた。
「お兄さんは、カード好きなの?」
「ん?ああ、好きだけど」
「やっぱりそうなんだね」
「やっぱり?」
「うん。だって、すごく丁寧にしまってるからさ。ほら」
少年は青年に微笑みかけながら、手元の箱を指す。真也は若干照れ臭くなりながら返答する。
「昔の癖が抜けなくてな。適当に入れてカード傷んだらやだろ」
「そうだね。でもさ、ここにあるカードって全部ノーマルカードっぽいよ?レアカードならまだ分かるけどさ。ノーマルをそこまで丁寧に扱う必要もないんじゃないんの?しょせんノーマルでしょ」
この言葉にカチンときた真也は手を止めて、お仕置きをしてやろうと少年の方に向き直る。そう。ノーマルカードの大切さを骨の髄まで教えてやろうと。
でも、少年の瞳と視線があった瞬間に、真也はぐっと黙ってしまった。少年の声こそからかい交じりに聞こえたが、彼の表情は至って真剣な表情だったためである。
ふざけた反応がしにくい空気になっていたため、真也は真面目に答える。
「…確かにノーマルカードは使えないカードもあんだけどな。だからって、適当に扱って良いわけじゃないと思うんだよね」
「物は大切にしなさい的なこと?」
「まあ、それもあんだけど。どっちかっていうと、ノーマルカードも使い方次第で超強くなるし」
真也の言葉を吟味するかのように腕を組む少年。
「で、でも、あくまでもノーマルカードが強いって言っても、レアカードのサブって意味でだよね?」
「そうゆうサポート特化のカードもあるけど、組み合わせるとレアカードよりも強いのあるぞ」
「じゃあさ、お兄さんだったらノーマルカードだけでレアカードたちを打ち負かせる?」
「できるね。これでも、伊達にカードに青春時代捧げていないからな」
ドヤ顔を少年に向けると、輝いた瞳で大声を上げる。
「見つけた!僕らのリーダーを!」
「え?どゆこと?」
少年は興奮してそれどころじゃないらしく、真也の言葉は届かない。
「じゃあ、お兄さん。少しの間辛抱してね♪」
そう言って少年は真也の手をとる。瞬間、真也の身体は店内から消滅した。
彼の周りには、買い物袋を抱えた主婦や、部活帰りの学生、そして仕事帰りのサラリーマンがうじゃうじゃいる。
それなりの規模感のこの商店街は、スーパーや本屋、ゲーセンそして飲み屋に至るまで地域の住民の心を満たしてくれる存在だ。
この中で、今日の真也の目的地になるのが、商店街の中心から少し離れたところにある穴場のような居酒屋である。
安月給の真也に経済的に優しいだけでなく、料理も酒も旨いこの居酒屋は最近の行きつけになっていた。
いつも通り商店街の大通りを進んだところで、左手にファストフード店を発見した。
この店の角を曲がって進み、右手にお目当ての居酒屋が見えてくる。
高鳴る気持ちを抑えて歩いていると、ふと違和感を感じてある建物の前で立ち止まる。
「こんなところにカードショップなんてあったか?」
真也の記憶では、この辺りは居酒屋などの大人な店が多くひしめき合う一方で、カードショップのような子どもたちも集まるお店はなかったように思える。
だが、その違和感もすぐにどうでも良くなってしまった。
なぜなら、彼の目には、なつかしさを覚えるカードが映ったからである。男子なら誰もが通るカードゲームだが、真也も例外ではない。
「パンデモニウム・ドラゴンじゃん!やっぱかっけぇな。これ出すために、よくサーチしたわ」
興奮しながらカードを熱いまなざしで眺めていると、かつての欲しさが湧いてくる。社会人になってからプライベートタイムがなかなか取れなくってしまったためか、カードを買うことすらなくなっていたが、もともと真也にはかなりのコレクター根性があった。
加えて、パンドラは結局ゲットできなかったという悔しい思い出も相まって、カードスリーブについた値札に自然と目線が移る。
「えーっと、いくらかな…って2万かよ?!あれから時間経ってんのに、こんなに値段すんのか。流石パンドラ…」
ちらっと自らの財布の中身を確認する。幸いお目当てのカードを買っても、今月はなんとかしのげそうな懐具合だった。
そんなわけで、資金も十分ということで買うことを決意した青年は入店する。
店内は全体的に暗く、カードの入ったショウケースだけがほのかな照明で明るくなっていた。
「すいませーん」
声をかけるも店員らしき返答はなし。
「あれ?誰もいないのか?」
ショウケースの間を縫って、誰かを探そうとしたその時、
「あ・・・も・たした・・・りか・・をえ・・・の?」
くぐもった音が、どこからともなく聞こえてくる。不気味さを感じるも、好奇心が彼の心の中で上回る。
出どころを探すと、音の発生源らしき段ボールを発見する。
「ラジオでも入ってんのか?」
相変わらず先ほどと同じ音が店内に響く。近くにあった箱前にしゃがんで、中身を覗いてみると、大量のカードが無造作に散りばめられていた。
ごそごそと中を探ってみるも、音源のようなものはなく、箱の中はカードだけである。
いつの間にやら音も止んでいる。
「・・・あれ?気のせいか?」
耳を澄ませてみるも、先ほどのような音は聞こえないままだったので、詮索を止めて立ち上がろうとした瞬間、
「ねえ」
「っ?!?!?!」
突如後ろから声をかけられた真也は驚き、カードの箱を転がしてしまう。結果、大量のカードが床に散らばる。
「あはは!肩ビクってなってた」
声の主の方へ振り返ると、帽子を目深にかぶった子どもが無邪気に笑っていた。
恨めし気な視線を送る真也に対して、
「ゴメンって。驚かすつもりはなかったんだ。ただ、何やってんのかな?って思ってさ」
「ああ、何か音が聞こえて探してたんだけど」
「音?どこからさ?」
「この辺の箱から」
そう言って、近くの箱を真也が指差す部分を、帽子の少年はじーっと覗き込む。
「何も聞こえないけど…。というより、カードそのままじゃマズくない?」
「やべ」
少年の言葉に箱をひっくり返してしまったことを思い出した真也は、急いでカードを手に取る。
「僕も手伝うよ。元はと言えば僕が悪いし」
「ありがとう」
手に取ったカードを戻していると、少年は真也に問いかけてきた。
「お兄さんは、カード好きなの?」
「ん?ああ、好きだけど」
「やっぱりそうなんだね」
「やっぱり?」
「うん。だって、すごく丁寧にしまってるからさ。ほら」
少年は青年に微笑みかけながら、手元の箱を指す。真也は若干照れ臭くなりながら返答する。
「昔の癖が抜けなくてな。適当に入れてカード傷んだらやだろ」
「そうだね。でもさ、ここにあるカードって全部ノーマルカードっぽいよ?レアカードならまだ分かるけどさ。ノーマルをそこまで丁寧に扱う必要もないんじゃないんの?しょせんノーマルでしょ」
この言葉にカチンときた真也は手を止めて、お仕置きをしてやろうと少年の方に向き直る。そう。ノーマルカードの大切さを骨の髄まで教えてやろうと。
でも、少年の瞳と視線があった瞬間に、真也はぐっと黙ってしまった。少年の声こそからかい交じりに聞こえたが、彼の表情は至って真剣な表情だったためである。
ふざけた反応がしにくい空気になっていたため、真也は真面目に答える。
「…確かにノーマルカードは使えないカードもあんだけどな。だからって、適当に扱って良いわけじゃないと思うんだよね」
「物は大切にしなさい的なこと?」
「まあ、それもあんだけど。どっちかっていうと、ノーマルカードも使い方次第で超強くなるし」
真也の言葉を吟味するかのように腕を組む少年。
「で、でも、あくまでもノーマルカードが強いって言っても、レアカードのサブって意味でだよね?」
「そうゆうサポート特化のカードもあるけど、組み合わせるとレアカードよりも強いのあるぞ」
「じゃあさ、お兄さんだったらノーマルカードだけでレアカードたちを打ち負かせる?」
「できるね。これでも、伊達にカードに青春時代捧げていないからな」
ドヤ顔を少年に向けると、輝いた瞳で大声を上げる。
「見つけた!僕らのリーダーを!」
「え?どゆこと?」
少年は興奮してそれどころじゃないらしく、真也の言葉は届かない。
「じゃあ、お兄さん。少しの間辛抱してね♪」
そう言って少年は真也の手をとる。瞬間、真也の身体は店内から消滅した。
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