上 下
130 / 140
めいでぃっしゅへようこそ! 編

130. 【余話】ゆう坊とお姉ちゃん①

しおりを挟む
 深夜───いや、もはや空が万遍なく明るくなり始めているので、早朝と言うべきか。
 誰しもがいまだ夢の中にあるこのような時間に、ユーゴの部屋に忍び込もうとする影があった。
 影はゆっくりとドアを開けて身を滑らせるようにして侵入。
 床に這うように身を屈めて、ユーゴが眠るベッドへ近づいていく。

「キミは本当に罪作りな男だよ、ユーゴ。聖女であるボクにこんな行動をとらせてしまうのだからな」

 侵入者───フィールエルが呟いた。

「さっきのキミの行動で ボクは確信したぞ。キミはボクを嫌っていない。むしろ大切に思っている。だったらここで一気に勝負をかける。覚悟を決めるためにこんな時間になってしまったが、もうここまで来たら後には退けないぞ」

 緊張を紛らわす為か、心の声が思わず漏れてしまっている。
 シーツに完全に包まってしまっているので様子が伺えないが、幸いにも寝息は途切れていない。
 スタイルの良い肢体が薄く透けて見えるネグリジェと艶っぽい下着を身に着けたフィールエル。
 ごくりと生唾を飲み、意を決してシーツを剥ぎ取った。

「えい! ………………え?」

 しかし現れたモノにパチパチと目を瞬かせる。

「ええええええっ!?」

 そして本館にまで大絶叫が響き渡り、他の住人たちは目を覚ました。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「一体、何が起きたのかと思いましたわ」

 襦袢姿の雪が軽くため息をついた。
 フィールエルの悲鳴で飛び起きた雪は、急いでユーゴの部屋に駆けつけたのだ。
 もちろん他のメイド達やネル、パレアも集まっている。
 フィールエルのあられもない姿を目撃して赤面した鉄太だけは、輝星の理不尽な鉄拳制裁を食らって部屋から締め出されたが。

「す、すまない。あまりのことにビックリして、つい……」

「それにしても、一体誰よ、こいつ?」

 パレアがフィールエルの悲鳴の原因を見ながら言った。

「いや、ボクにも誰だか……。ユーゴのベッドで寝ていたんだ。ユーゴはいなかったけど」

「……何故こんな時間にそんな格好でユーゴさんの部屋にいたのかは後でじっくり聴取しますが───」

「う……」

 ジト目でフィールエルをたじろがせたネルは、次に悲鳴の原因に視線を転じる。

「───あなたのお名前は? どうしてこのお部屋にいたのですか?」

 ネルが質問したのは、そう───年端もいかない人間の子供だった。
 不安そうな表情をした茶髪の少年は、成人男性用のシャツだけを身に着けており、てるてる坊主のように見える。

「ぼ、僕はさいおんじゆうごです」

 震える声で少年は答えた。

「さ、さいおんじ?」

「ゆうご?」

「どういうこと?」

「旦那様と同じ名ですわ」

「でも名字は違うよ」

「そういえば、この子になんとなくユーゴさんの面影があるような」

 室内にいる者達は疑問と推測を交わし、ややあってフィールエルが代表するように徐ろに口を開く。

「もしかしたら、この子は本当にユーゴなのかもしれない」

 そして昨夜の出来事を話しだした。
 フィールエルの傷を無かった事にしたこと。そして、その反動が何か起こるかもしれないということを。

「じゃあその反動で、ユーゴは子供になったかもしれないってこと?」

「おそらくは……」

 自信なさげに、フィールエルはパレアに答えた。

「でも、そんなデタラメなことってある?」

  ユーゴの非現実的なデタラメさを理解していない “めいでぃっしゅ” のメイド達は、フィールエルの推論に猜疑的だ。

「ユーゴは変態王って呼ばれるくらい変態なのよ。えっちぃ方向にだけじゃなく、あらゆく面で変態的な行動をするから変態王なのよ」

 蝶が子供 (蛹)から大人 (成体)になる事を変態という。
 であるならば、大人から子供になるのも、逆方向の変態と言えるのではないだろうか。

「変態の定義とは何かを考えさせられるけど、確かにそう言われれば納得できるかもしれないわ」

 ユーゴが聞いたら三枚に下ろされそうなパレアのセリフに、 メイド達は納得したのだった。

「では、この状態はずっと続くわけではないんですね?」

「ユーゴの口ぶりでは、たぶんそうだと思う」

 ネルに答えたフィールエルは、ゆうご少年を見た。

「それにしても、このユーゴはなんだか大人しいな」

「もしかして旦那様は、記憶や精神年齢も子供になってしまっているのでは?」

 雪の指摘で全員の視線を一斉に浴びたゆうご少年は、ビクッと縮こまった。

「たしかにこの反応、いつものユーゴさんらしくありません。姓も『サイオンジ』でしたし、記憶ごと後退しているかもしれません」

「というか、なんだか可愛いな」

「あのユーゴの子供の頃って、てっきりすごく捻くれたガキだと思ってたから、調子狂うわね」

「逆に、何があってあのユーゴさんに成長したのか気になります」

 ゆうご少年の主観では、朝目覚めたら知らないお姉さんたちに囲まれているという状況である。怯えるのも無理もない。

「あ、あの……ここはどこですか? ママは?」

「ママだって! 可愛いー!」

「あ、あの? ……わぷっ!?」

 そのか弱さに母性本能を刺激された女性陣は、ゆうご少年に群がって代わる代わる抱きしめていった。
 ただしパレアだけは可愛がりの輪から外れ、遠巻きに傍観していた。
 そんなパレアに雪が話しかける。

「パレアさんはよろしいんですの?」

「アタシ、ガキって苦手なのよね」

 ホクホク顔の雪に、パレアは興味なさげに答えた。
 苦手の原因は同族嫌悪なのかもしれない。子供っぽさの。
 しばらくして、お姉さんたちにもみくちゃにされたゆうご少年がぐったりしたのを潮に、この子の面倒をどうするかという話になった。

「今日は皆シフトに入ってるよね。入ってないのは……パレアちゃんだけか。じゃあゆうごくんの面倒をお願いね」

「えっ!?」

 輝星の言葉に、面食らうパレア。まさか自分に白羽の矢が立つとは思わなかったのだ。

「そうだな。よろしく頼んだよ、パレア」

「私達も休憩時間になったら様子を見に帰ってきますね」

「え? あの……ちょっと」

 もうすっかり夜は明け、皆、出勤の準備をするために、ユーゴの部屋から出て行ってしまった。

「……ええ~?」

 目を回しているゆうご少年と共に取り残されたパレアは、途方に暮れていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

染髪マン〜髪色で能力が変わる俺はヒーロー活動を始めました〜

仮面大将G
ファンタジー
金髪にしたらヒーローになっちゃった!? 大学生になったから髪を染めてみよう。そんな軽い気持ちで美容室に行った染谷柊吾が、半分騙されてヒーロー活動を始めます。 対するは黒髪しか認めない、秘密結社クロゾーメ軍団!黒染めの圧力を押しのけ、自由を掴み取れ! 大学デビューから始まる髪染めヒーローファンタジー! ※小説家になろう様、カクヨム様でも同作品を掲載しております。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

神様のサウナ ~神様修業がてらサウナ満喫生活始めました~

イタズ
ファンタジー
定年を機に、サウナ満喫生活を行っていた島野守。 極上の整いを求めて、呼吸法と自己催眠を用いた、独自のリラックス方法『黄金の整い』で、知らず知らずの内に神秘の力を身体に蓄えていた。 そんな中、サウナを満喫していたところ、突如、創造神様に神界に呼び出されてしまう。 『黄金の整い』で得ていた神秘の力は、実は神の気であったことが判明し、神の気を大量に蓄えた身体と、類まれなる想像力を見込まれた守は「神様になってみないか?」とスカウトされる。 だが、サウナ満喫生活を捨てられないと苦悶する守。 ならば異世界で自分のサウナを作ってみたらどうかと、神様に説得されてしまう。 守にとって夢のマイサウナ、それが手に入るならと、神様になるための修業を開始することに同意したとたん。 無人島に愛犬のノンと共に放り出されることとなってしまった。 果たして守は異世界でも整えるのか? そして降り立った世界は、神様が顕現してる不思議な異世界、守の異世界神様修業とサウナ満喫生活が始まる! *基本ほのぼのです、作者としてはほとんどコメディーと考えています。間違っていたらごめんなさない。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

処理中です...