ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神

文字の大きさ
上 下
129 / 144
めいでぃっしゅへようこそ! 編

129. きずあと

しおりを挟む
 ドネルが攻めて来たその日、めいでぃっしゅは休業、ユーゴも欠勤することにした。
 輝星はフィールエルを医師の元へ連れていき、戦闘に参加したネルと雪は休息をとることにした。
 非戦闘員であるメイド達は、庭の片付けを行っている。

「悪いな、鉄太。庭を無茶苦茶にしちまった」

 寮の本館。そのリビングでサンドイッチを摘みながらユーゴは謝罪した。

「仕方ないことスから、気にしないで下さい。元を正せば、悪いのはドネルの野郎なんスから。まぁでも、アイツもこの件でとうとう終わり。せいせいしたっスよ。それよりもユーゴさん、エクスブレイバーだったんスね」

 鉄太の言葉に、ユーゴは飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。

「ゴホッゴホッ。……お前、なんでその名称をしってんだよ。てか日本での俺の事を知ってんのか、もしかして?」

「そりゃSNSとかに画像やら動画やら拡散されまくってるッスからね。てか自分のことなのにそれを知らなかったってことに驚きッスよ。エゴサとかしねーんスか?」

「まさか自分の事が噂になってるとか思わねぇしな。だいたいエクスブレイバーってのは通称で、正式名称は違うんだよ」

「まじスか? じゃあ正式名称は何て言うんスか?」

「企業秘密だ」

「残念。てか企業秘密って、なんかビジネスライクっすね」

「仕事だからな。金を貰わなきゃやってられるか、あんなこと」

「なんか世知辛いッスね。ヒーローの知りたくない部分を知っちまったっス」

「別に俺はヒーローをやっていたつもりはない。他の連中はどうか知らんけどな」

 あまり過去をほじくり返されたくないユーゴがそろそろこの話題を打ち切ろうとしたとき、玄関に続くドアが開いた。輝星とフィールエルが帰ってきたのだ。
 フィールエルの頬には大きなガーゼが貼られていて、痛々しい。
 パレアと共にユーゴと鉄太のやり取りをぼんやりと見ていた雪。戻ってきた二人を見て、弾かれたように立ち上がった。

「フィールエルさん……」

「ああ、雪。ただいまだ」

「その……傷のお加減は?」

 フィールエルは気まずそうに怪我をしていない側の頬を書いたが、やがて意を決して口を開く。

「すぐに分かってしまうことだから言うけれど、数針縫った」

「そんな……っ!」

 その返答に、雪は衝撃を受けた。
 縫合したということは、抜糸すれば傷跡が残ってしまうということだ。
 雪は女性の顔に傷痕が残ることが、どんなに悲惨か知っている。
 同じ女性であるフィールエルの心中は、察するに余りある。

「そんな泣きそうな顔をしないで欲しい、雪。さっきも言ったと思うけれど、気にしないで欲しい。ボクは雪が無事だったことが嬉しいんだ」

 フィールエルの言葉に、雪は大粒の涙をぼろぼろと零しだした。

「なんと……なんと気高く優しいお方なのでしょうか。それに較べ、私は己の浅ましさが恥ずかしい。意中の殿方の気を引こうと張り合うことばかり考えて……」

「こう見えてボクはけっこう挑発に乗せられやすいから、そういうのは出来れば控えてもらうと助かる……って、ええ!?」

 瞳を潤ませながら、雪がフィールエルの手を両手で包み込んだ。感極まっての行動らしい。

「私、いままでの態度を改めますわ。フィールエルさん、いえ、フィー。お友達になりましょう! 私、貴女の事が大好きになりました!」

「あ……う、うん。改めてよろしくだ、雪」

 箱入りお姫様然としたストレートな感情表現にたじたじとなるフィールエルに、雪は更に追い打ちをかける。

「ええ! 私、貴女ならば、私と同じ正妻となることを許せそうですわ」

「ちょ……ちょっと待って欲しい! そういう話は相手の承諾もあってのことで……っていうか正妻って二人同時になれるものなのか!?」

 話が予期せぬ方向へ飛び火しそうになり、ユーゴはリビングを出ることにした。
 ネルは仲間の少女たちの仲直りに感動している。

「正妻の話には物申したい気分ですが、なにはともあれ良かったです。お二人の友情に幸あれ。主よ、感謝します」

 パレアの方は両手を腰に当て、やれやれといった風情だ。

「雨降って地、固まるってやつね」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その夜。
 フィールエルは自室のテラスから月を眺めていた。
 月と言っても、地球のような月ではない。
 この世界にある、色違いの太陽三つが光量を絞って一重に重なった時に白い月のようになり、この世界に夜が訪れるのだ。

「眠れないのか?」


 そんな彼女に中庭の方から声をかける者がいた。
 フィールエルが中庭を見下ろすと、そこにはユーゴの姿。
 彼は大きく跳躍すると、フィールエルの真横に着地した。

「こんな夜更けに淑女の部屋に断りもなくやってくるとは、無礼な男だな」

 詰るようなセリフとは裏腹に、フィールエルの声音に棘はない。

「無礼千万傍若無人は今さらだろう」

「傍若無人は言ってないぞ。それで何の用だ? この傷の事か?」」

 フィールエルはくすっと笑い、ガーゼに手を当てて言った。

「なんだ、バレバレか」

「普段はボクたちと自分からコミュニケーションを取ろうとしないお前が、わざわざボクの部屋に来たんだ。まさか雑談ということもないだろう」

「まぁな。で、お前、本当に後悔していないのか?」

「していないさ」

 月を観ながら、フィールエルは答えた。

「後悔はしていない。ベルーナ遺跡で言ったはずだ。お前についていくなら何があっても構わない、と。でも……」

「でも?」

「お前にだけは、この傷ついた顔を見られたくはない」

 じわりとフィールエルの瞳が滲み出した。

 ”お前にだけは”。

 この意味が分からぬほど、ユーゴは朴念仁ではない。
 以前からユーゴに向ける態度から、フィールエルの気持ちには気付いていた。

「俺は誰ともそういう関係になるつもりはないぞ」

「理解っているさ。お前は何か大きな目標に向けて進んでいるし、それしか見ていない」

「そうだ。この旅だってその目的を達成するためのステップだ。いや、もしかしたら、この仕事が終われば手が届くかもしれない。だから俺は、他の事に気を向けられない」

「ああ」

 フィールエルは理解していた。
 自分が……いや、自分たちがユーゴの眼中に無いことを。
 自分の想いが届かないかもしれないということを。
 だが、追いかけなければもう二度と会えない可能性もあった。
 だから一緒にいられればそれで良いと思っていた。

「だから、その目的達成の成功率を上げるためにも、戦力であるお前のモチベーションの低下は防ぐ必要がある」

「……なんの話だ?」

 フィールエルの疑問には答えず、ユーゴは自身の中にある【鬼神核】へ念じる。
事象革命パーフェクトリライト】───発動。

 ユーゴは時間を遡行し、事実を書き換えた。
 そして能力を終了させると、フィールエルの頬のガーゼを剥ぎ取った。

「ちょっ!? ばか、止め……」

「いいから、頬を触ってみろよ」

「……え?」

 手術跡の引き攣った感触が消えていた。それを不審に思い言われた通り触ってみると、僅かな引っ掛かりもない。
 傷が跡形もなく消えていた。

「ど……どうなってるんだ?」

「俺の能力【事象革命パーフェクトリライト】で現実を書き換えた。”お前は傷を負ったが、傷を負う前の肌を取り戻した”ってな。

「ネルを生き返らせた、あの能力か……」

「そうだ。二十四時間以内に起こった事象になら干渉して、好きなように現実を変えられる。まぁ理屈に合わないことほどその反動もでかいが」

「……そんな危険リスキーな能力をボクに使って良かったのか? 以前言っていたじゃないか。しばらく能力を仕えなくなって体力が低下したって」

「まぁ今回はネルの時ほどデタラメじゃないから、反動もそれほどじゃないだろ。それに言っただろ。これは俺の目的の為だ。お前は戦力としては使える女だからな。傷ごときでもしものときのリスクを増やしたくないんだよ。あと、これは俺の気まぐれだ。いつもやってやるとは限らねぇぞ」

 プイと横を向いてユーゴは言った。

「ふふ。お前は本当に露悪的というか、ツンデレだな」

「はぁ? 俺に変な属性をつけるんじゃねぇよ、馬鹿。もういい。俺は帰るぞ」

「ああ、ありがとうユーゴ。おやすみ」

 ユーゴが中庭に飛び降りた後、フィールエルは再び月を見上げた。

「お前は本当に罪作りな男だよ」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 月の下。めいでぃっしゅ寮から離れた時計塔の頂上に立つ人影があった。
 月光に輝く白銀の女性。彼女は別館に歩いて戻っていくユーゴを見つめながら呟く。

「事象───世界の過去ログに干渉できる能力まで与えているのか」

 彼女は眼を細めた。

「これで確信したぞ。奴らの目的が。あの男は危険だ。前に始末せねばな」

 そして彼女───とある女神は、ゆらりと蜃気楼に溶けるように姿を消した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...