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めいでぃっしゅへようこそ! 編
108. めいでぃっしゅへようこそ
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「お帰りなさいませ、御主人様ぁ!」
小首を傾げながら入店したユーゴ達を愛らしく出迎えたのは、長身で栗色の巻髪をしたメイドだった。
「まさか……ユーゴ、まさかコレは!?」
フィールエルが戦慄きながら、ユーゴに尋ねた。
「ああ、間違いない。コレを造ったやつは、やりやがったぜ。そいつはこの世界に持ち込みやがったんだ。オーバーテクノロジーでも、舌がとろけるような料理でもない───”萌え” という概念を!」
「な、なんだって───!」
ガガーン! と九十年代少年誌風の顔つきで、ショックを受けるフィールエル。
「ええっと?」
そんな二人を見て困惑する案内係のメイド。
ちょっと困ったさんな御主人様やお嬢様が、来店になったのかもしれない。
どうしたものかと戸惑っていると、
「ああ、大丈夫。その五人はうちのお客様だから。鉄太はいる?」
「あ、メイド長。はい、支配人なら奥にいるはずですよ」
「そ。ありがと」
そして輝星は、ユーゴ一行を奥へと案内する。
「店内はどうやら、飲食店のようね。客層は男の比率が高いわ。女の子もいるみたいだけど、少ないわね」
「ええ。それにしては給仕がメイドなのが奇妙ですね。もしかしてここは、どこかの貴族のお邸では?」
「私、庶民の茶屋はほとんど利用したことがないので詳しくはありませんが、どこもこのように内装が凝っているものなのですか?」
店内は広く、入口とは反対側の奥に一段高い半円形のステージが設えており、そこ以外のスペースには十五卓の席が満員御礼状態である。
殆どがおひとりさまで、店員のブリブリな接客に顔面が緩み切っている。
内装は白とピンクを基調としたファンシーな造りになっており、そこかしこにハート形のクッションやらオブジェやらが散見され、甘ったるい匂いが漂っている。
パレア、ネル、雪は初めて訪れる異様な空間に、また別の異世界へ移動してしまったのかと、一瞬錯覚してしまったほどだ。
「まぁすぐに判る。いや、やっぱり説明されないと理解出来ないか?」
店内を横切ってステージ脇を通り、”関係者以外立入禁止” と書かれたドアを潜ると、
「おう、おかえり輝星。どうやった?」
奥のテーブルで事務仕事をしていたスーツ姿の少年が、輝星に声を掛けた。
「ただいま鉄太。ごめん、負けた」
「は……?」
輝星の返答を耳にした瞬間、鉄太の指からペンが落ちた。
「ま、マジか? 嘘やろ? お前を負かす奴とかおるんか!? てか輝星、怪我とかしとらんやろうな!?」
血相を変えて輝星に詰め寄り、彼女の安否を確認している鉄太。
そんな彼に照れくさそうにして、輝星は礼を言う。
「うん、大丈夫。ありがと」
「そっか。それならいいや」
「でもごめん。負けちゃったから、あの約束……」
「いや、お前さえ無事ならいいっちゃ。それに、その件は昨日、終わった。それにしても輝星が負けるとか、相手はどんなゴリラ野郎なん? あ、もしかしてあのカルロのおっさんか!? まぁあれなら有り得るか……」
「いや、違くて……ウチに勝ったのは、この人なんよ」
そう言って輝星は、後ろに居たユーゴを振り返って手で示した。
「あ、どうも。お宅の大事な妹さんを負かしちゃった、ゴリラ野郎です」
「あー……いえ、こちらこそどうも。てかお兄さん背ぇ高いっすね。羨ましいっすわ」
「毎日キノコ食えば、背が伸びるぞ。ちなみに俺は、シイタケを食ってこうなった。スーパーマルコブラザーズと同じだな」
「ゲームかよ。途中までは信用し……ん。スーパーマルコ?」
ユーゴの言葉に引っかかりを覚えた鉄太に、輝星は「うん」と頷いた。
「そ。聞いて驚きぃよ? 実はこの人たち、日本から来たらしいよ」
「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」
律儀に身を仰け反らせて、鉄太は驚きの声を上げた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いやー、さっきは叫んだりしてスンマセンでした」
ユーゴ達は鉄太の案内で【めいでぃっしゅ】から五軒隣の民家へ入った。
そこはどうやら隠れ家的な喫茶店のようで、席が五つ並べられていた。
さらに、その奥にドアがあり、その中は長テーブルと八脚の椅子が置いてある。
「いや、まぁ驚くよな」
ユーゴが答えた後、テーブルより少し背が高いだけの幼女が、ぷるぷるした危なっかしい手付きで注文した飲み物を乗せた銀盆をテーブルに置いた。
「ごめんな、リコーナ姐さん。突然押しかけて」
「いいのよ。てった君のたのみだもの。ここはこえがもれないから、おもいっきりおはなししてね」
舌っ足らずな幼い声でそう言った後、リコーナと呼ばれた幼女は退室した。
姐さん? 幼女なのに姐さんとはコレ如何に?
ユーゴ一行は頭上に大きな疑問符を浮かべたが、鉄太達は気付かず、それについては触れられずに話は進む。
「それで、お兄さんたちが日本から来たっていうのは……」
「本当だ。正確には日本から来たのは俺一人だけだがな。俺はユーゴ・タカトー。で、こいつらは地球やこの世界とはまた別の世界から来た、フィールエル、ネル、パレア、雪だ」
ユーゴがそれぞれを示しながら紹介すると、鉄太と輝星は雪を見た。
「え、その黒髪のお姉さんも、地球人じゃない!? 服装やら雰囲気やらで、てっきり……あ、でも確かに少し顔立ちは日本人よりも西洋人っぽいか」
「鉄太。そんなジロジロ見たら失礼ばい」
「おっと、これは失礼。じゃあ今度は俺たちの紹介やな。俺は佐久間鉄太で、こっちはもう知っとるやろうけど、俺の義妹の佐久間輝星。日本の福岡県出身で、ある日突然、この世界に迷い込んでたんスよ。ユーゴさんたちも?」
「いや、俺はちょっと特殊でな。幾つも異世界を渡り歩いてるんだ」
「異世界を渡り歩く……? それって、どういう……」
佐久間兄妹の疑問に答えるため、ユーゴはカールにしたものと同じ説明をした。
「───で、そのカールって男の頼み事を叶えるため、日本に行く途中だったんだ」
ユーゴの説明を聞き終わり、佐久間兄妹が顔を見合わせる。その顔は、宝くじに当選したような喜びと期待に満ち溢れている。
「てことはユーゴさん。あんたもしかして、自力で日本に帰れる手段があるんスか!?」
「ああ、ある。だが……」
「だが?」
「この世界に迷い込んだ時に、何故か日本に行けなくなったんだ。いや、日本だけじゃなく、この世界から他の世界への移動が出来なくなったんだ」
「ま、まじか……」
「うそ……」
膨らんでいた風船が萎むように、身を乗り出していた鉄太と輝星は椅子に座り直した。
「だがまぁ、いままで普通に出来ていたことが急に出来なくなったんだ。俺はこの世界に何らかの秘密があると思う。そこさえ解決すれば、また日本へ行けるだろうな」
「……あんた達、この世界で行く宛はあるんスか?」
「いや、ない」
「じゃあ、ウチで働かないスか?」
鉄太の突然の提案に、ユーゴ達は目を瞬かせた。
小首を傾げながら入店したユーゴ達を愛らしく出迎えたのは、長身で栗色の巻髪をしたメイドだった。
「まさか……ユーゴ、まさかコレは!?」
フィールエルが戦慄きながら、ユーゴに尋ねた。
「ああ、間違いない。コレを造ったやつは、やりやがったぜ。そいつはこの世界に持ち込みやがったんだ。オーバーテクノロジーでも、舌がとろけるような料理でもない───”萌え” という概念を!」
「な、なんだって───!」
ガガーン! と九十年代少年誌風の顔つきで、ショックを受けるフィールエル。
「ええっと?」
そんな二人を見て困惑する案内係のメイド。
ちょっと困ったさんな御主人様やお嬢様が、来店になったのかもしれない。
どうしたものかと戸惑っていると、
「ああ、大丈夫。その五人はうちのお客様だから。鉄太はいる?」
「あ、メイド長。はい、支配人なら奥にいるはずですよ」
「そ。ありがと」
そして輝星は、ユーゴ一行を奥へと案内する。
「店内はどうやら、飲食店のようね。客層は男の比率が高いわ。女の子もいるみたいだけど、少ないわね」
「ええ。それにしては給仕がメイドなのが奇妙ですね。もしかしてここは、どこかの貴族のお邸では?」
「私、庶民の茶屋はほとんど利用したことがないので詳しくはありませんが、どこもこのように内装が凝っているものなのですか?」
店内は広く、入口とは反対側の奥に一段高い半円形のステージが設えており、そこ以外のスペースには十五卓の席が満員御礼状態である。
殆どがおひとりさまで、店員のブリブリな接客に顔面が緩み切っている。
内装は白とピンクを基調としたファンシーな造りになっており、そこかしこにハート形のクッションやらオブジェやらが散見され、甘ったるい匂いが漂っている。
パレア、ネル、雪は初めて訪れる異様な空間に、また別の異世界へ移動してしまったのかと、一瞬錯覚してしまったほどだ。
「まぁすぐに判る。いや、やっぱり説明されないと理解出来ないか?」
店内を横切ってステージ脇を通り、”関係者以外立入禁止” と書かれたドアを潜ると、
「おう、おかえり輝星。どうやった?」
奥のテーブルで事務仕事をしていたスーツ姿の少年が、輝星に声を掛けた。
「ただいま鉄太。ごめん、負けた」
「は……?」
輝星の返答を耳にした瞬間、鉄太の指からペンが落ちた。
「ま、マジか? 嘘やろ? お前を負かす奴とかおるんか!? てか輝星、怪我とかしとらんやろうな!?」
血相を変えて輝星に詰め寄り、彼女の安否を確認している鉄太。
そんな彼に照れくさそうにして、輝星は礼を言う。
「うん、大丈夫。ありがと」
「そっか。それならいいや」
「でもごめん。負けちゃったから、あの約束……」
「いや、お前さえ無事ならいいっちゃ。それに、その件は昨日、終わった。それにしても輝星が負けるとか、相手はどんなゴリラ野郎なん? あ、もしかしてあのカルロのおっさんか!? まぁあれなら有り得るか……」
「いや、違くて……ウチに勝ったのは、この人なんよ」
そう言って輝星は、後ろに居たユーゴを振り返って手で示した。
「あ、どうも。お宅の大事な妹さんを負かしちゃった、ゴリラ野郎です」
「あー……いえ、こちらこそどうも。てかお兄さん背ぇ高いっすね。羨ましいっすわ」
「毎日キノコ食えば、背が伸びるぞ。ちなみに俺は、シイタケを食ってこうなった。スーパーマルコブラザーズと同じだな」
「ゲームかよ。途中までは信用し……ん。スーパーマルコ?」
ユーゴの言葉に引っかかりを覚えた鉄太に、輝星は「うん」と頷いた。
「そ。聞いて驚きぃよ? 実はこの人たち、日本から来たらしいよ」
「な、なにぃぃぃぃぃぃっ!?」
律儀に身を仰け反らせて、鉄太は驚きの声を上げた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いやー、さっきは叫んだりしてスンマセンでした」
ユーゴ達は鉄太の案内で【めいでぃっしゅ】から五軒隣の民家へ入った。
そこはどうやら隠れ家的な喫茶店のようで、席が五つ並べられていた。
さらに、その奥にドアがあり、その中は長テーブルと八脚の椅子が置いてある。
「いや、まぁ驚くよな」
ユーゴが答えた後、テーブルより少し背が高いだけの幼女が、ぷるぷるした危なっかしい手付きで注文した飲み物を乗せた銀盆をテーブルに置いた。
「ごめんな、リコーナ姐さん。突然押しかけて」
「いいのよ。てった君のたのみだもの。ここはこえがもれないから、おもいっきりおはなししてね」
舌っ足らずな幼い声でそう言った後、リコーナと呼ばれた幼女は退室した。
姐さん? 幼女なのに姐さんとはコレ如何に?
ユーゴ一行は頭上に大きな疑問符を浮かべたが、鉄太達は気付かず、それについては触れられずに話は進む。
「それで、お兄さんたちが日本から来たっていうのは……」
「本当だ。正確には日本から来たのは俺一人だけだがな。俺はユーゴ・タカトー。で、こいつらは地球やこの世界とはまた別の世界から来た、フィールエル、ネル、パレア、雪だ」
ユーゴがそれぞれを示しながら紹介すると、鉄太と輝星は雪を見た。
「え、その黒髪のお姉さんも、地球人じゃない!? 服装やら雰囲気やらで、てっきり……あ、でも確かに少し顔立ちは日本人よりも西洋人っぽいか」
「鉄太。そんなジロジロ見たら失礼ばい」
「おっと、これは失礼。じゃあ今度は俺たちの紹介やな。俺は佐久間鉄太で、こっちはもう知っとるやろうけど、俺の義妹の佐久間輝星。日本の福岡県出身で、ある日突然、この世界に迷い込んでたんスよ。ユーゴさんたちも?」
「いや、俺はちょっと特殊でな。幾つも異世界を渡り歩いてるんだ」
「異世界を渡り歩く……? それって、どういう……」
佐久間兄妹の疑問に答えるため、ユーゴはカールにしたものと同じ説明をした。
「───で、そのカールって男の頼み事を叶えるため、日本に行く途中だったんだ」
ユーゴの説明を聞き終わり、佐久間兄妹が顔を見合わせる。その顔は、宝くじに当選したような喜びと期待に満ち溢れている。
「てことはユーゴさん。あんたもしかして、自力で日本に帰れる手段があるんスか!?」
「ああ、ある。だが……」
「だが?」
「この世界に迷い込んだ時に、何故か日本に行けなくなったんだ。いや、日本だけじゃなく、この世界から他の世界への移動が出来なくなったんだ」
「ま、まじか……」
「うそ……」
膨らんでいた風船が萎むように、身を乗り出していた鉄太と輝星は椅子に座り直した。
「だがまぁ、いままで普通に出来ていたことが急に出来なくなったんだ。俺はこの世界に何らかの秘密があると思う。そこさえ解決すれば、また日本へ行けるだろうな」
「……あんた達、この世界で行く宛はあるんスか?」
「いや、ない」
「じゃあ、ウチで働かないスか?」
鉄太の突然の提案に、ユーゴ達は目を瞬かせた。
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