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からくり奇譚 編
064. 魔王ちゃんとの取引
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「アタシに……」
「ん?」
「アタシにアンタの卵を産ませなさい!」
「はぁ?」
チャキ。スッ。
ユーゴは間抜けな声を出した。
そしてフィールエルは剣の切っ先を、ネルは杖の重くて太い先端を攻撃対象へ向けた。
すなわちユーゴの方へと。
「ユーゴさん? 説明を」
「ユーゴ、お前、ボクたちがいない所で一体なにをしたんだ?」
「お前ら、氷系の神聖術とかいま使うなよ。え、使ってない? おかしいな。寒くなってきたぞ。…おい、痛い痛い。フィールエル、切っ先で頬をツンツンするな。ネル、ちょっ……脛はまじでやめて。ガチの急所……」
「「 はやく答えて 」」
「いや、まじで何のことだか……」
「ユーゴ、お前そういえば、冥海の魔王軍と戦った後、一日近く行方を眩ませていたな」
「私達には異空間内で休憩していたと仰っていましたが、誰と、どのように休憩を?」
自分たちが放つ言葉でさらにボルテージを増していく聖少女たち。
命の危険を感じたユーゴが鬼神鎧装の起動を真剣に検討していると、
「ちょ……アンタ達なにしてんの!? 仲間なんでしょ? ユーゴ・タカトー、アンタその娘たちになにしたのよ!?」
「いやむしろ俺がお前に何かしたっけ? てかお前、何を急に言いだしたんだ?」
「あ、いや……」
ユーゴの質問にたじろぐ魔王少女。確かにいきなり現れて「お前の卵を産ませろ」は性急過ぎたかもしれない。これでは痴女。いや、痴魚だ。
「その、さっきのは違くて……」
「……? まぁ違うならいいや。ちょうどいい、お前に二つ、頼みがあるんだよ」
「アタシに? なに?」
パレアはきょとんとして、自分の顔を指差した。
「ああ。まずは確認だが、お前って確か海の支配者だとか言っていたな?」
「ええ、そうだけど?」
「てことは、海の魔物とかはお前の言う事を聞くわけだよな?」
「そうね。言うことを聞かないやつは三枚に下ろすわ」
「そうか。いや、実はな、俺たちはヨウゲン国に向かう旅の途中なんだが、お前の仲間が船を襲っているらしくて、出港が出来ねぇんだよ。何とかならないか?」
「アタシの臣下たちが? おかしいわね。アタシ、そんな命令出してないわよ……」
不審に思ったパレアはくるっとターンすると、海に向かって集合の超音波を発した。
すると、
ゴゴゴ……ザッパーン!
海が盛り上がり、なんと大中小、大きさも種類も様々な海の生物が海面に姿を表した。
「おお、パレアちゃんだ!」
「まじか! なんでこんなところにパレアちゃんが!?」
「パーレーアーちゃーん!」
海人、海獣、人魚。パレアを見つけた海の生き物が漏れなく歓声を上げた。
「アンタたちうるさい。ちょっと黙りなさい。この海域の責任者は誰?」
「私です」
パレアの呼びかけに、一尾の人魚が前に進み出た。
なんとおっさんの人魚だ。胸毛が無駄に立派なのが、得体の知れない恐怖を誘う。
「ねぇ、このあたりの船を襲ってるって聞いたんだけど、なんで? アタシ、そんな命令は出してないわよ」
「そ、それは…」
言いよどむおっさん人魚に対し、パレアは優しく語りかける。
「怒らないわ。なにがあったのか話して」
「はい、実は……」
その人魚によると、一年ほど前にはるか西の海域で、人魚の子供が数人、拐かされたという。
西の海人族は総出で探し、陸に上がった者から報告があった。
どうやら、さらったのは人間で、人魚の子どもたちは陸路で大陸を横断し、ヨウゲン国に向かっているようだと。海人族を警戒したのだ。
そこで動ける者はこの大陸の東の海域と南の海域へ集まり、ヨウゲン国への航路を進む船を片っ端から沈めていったのだ。
船が沈んでも、海の中で生きている子供がいれば、それは人魚であるからだ。
パレアがそのことを知らなかったのは、戦争の準備をしていたので周囲が気を利かせて知らせていなかったからだという。
このことをパレアが知れば気もそぞろになるという配慮だった。
「なるほどね。話は理解ったわ」
「ちょっといいか。俺が聞いた話では、最近はヨウゲン行きだけじゃなくて、全ての船が被害にあってるってことだが?」
「なんだ、人間? 貴様に話すことなど無い」
ユーゴが横から口を挟んだが、男の人魚はけんもほろろだった。よほど人間が憎いらしい。
「良いから答えなさいよ。アタシも知りたいわ」
「はい。実は……パレアちゃんには言いにくいのですが、先日の戦の敗残兵たちがこっちの仕事に手を貸すと言い出しまして。ところがそいつら、関係のない船まで……」
「はーん。つまり憂さ晴らしをしてるってことね?」
チロッ。チロッ。チロッ。
「うっ……」
事情を知る三人の少女の視線が刺さるのをユーゴは感じた。
「な、なんだよ。別にそれは俺のせいじゃないだろ」
「まぁそうね。アンタに負けたからって、関係ない人間を襲うのは筋が違うわ。とはいえ、人魚の子供たちを攫ったのも人間。これは私もやめろとは言えないわね」
その時、パレアはキュピーンと閃いた。頭に電球が灯ったかのようで、初めてチョウチンアンコウの気持ちが解った気がした。
「ユーゴ・タカトー。取引しましょう」
「あ? どういうことだ?」
「アタシはこいつらに人間を襲わせるのを止めさせる。その代わり、アタシはヨウゲン国に行って犯人を突き止めて子供たちを取り返すから、アンタはそれを手伝いなさい」
「な、何ぃっ!?」
ユーゴは寝耳に水だった。人魚相手だけに。
「いいじゃない。アンタどうせヨウゲン国に行くつもりだったんでしょ?」
「……わかった。フィールエル、ネル、お前らもそれでいいか?」
「うん。攫われた人魚の子供たちを取り戻すんだな」
「私も大丈夫です。子供たちが心配ですね」
ユーゴたちがパレアに協力することを決めた時、港に大勢の人間が現れた。
「見ろ! 通報通り、海獣や冥海の魔王軍の兵士が!」
「なんてことだ。攻めてきたのか!?」
「いますぐ戦えるものを集めろ!」
港の海を埋め尽くす海の魔物たちに、街中の人間が駆けつけたのだ。
その中には、冒険者ギルドの受付嬢もいた。
「あ、貴方はさっきの!?」
受付嬢はユーゴを見つけて、驚きの声を上げた。
「よう。さっきぶりだな。あ、そういえば船が出向できるようになったみたいぞ。こいつが何とかしてくれるってさ」
ユーゴがパレアを指差した。
「まずはこっちが約束を守るわ。アンタ達、邪魔だからこの海域から撤退しなさい。人間の船は襲わないように」
「はーい!」
パレアの指示に、海の魔物たちは三々五々散っていく。
それを町の住人たちは信じられないという表情で眺めていた。
「あ、あの…貴女はいったい……?」
勇気を出して、受付嬢がパレアに話しかけた。
「アタシ? 冥海の魔王、パレア・シンクロンよ!」
「ええっ!?」
衝撃の自己紹介に、住民たちはマサオさんジャンプで飛び上がって驚いた。リアルガチで十センチメートルは浮いていた。
──────to be continued
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すなわちユーゴの方へと。
「ユーゴさん? 説明を」
「ユーゴ、お前、ボクたちがいない所で一体なにをしたんだ?」
「お前ら、氷系の神聖術とかいま使うなよ。え、使ってない? おかしいな。寒くなってきたぞ。…おい、痛い痛い。フィールエル、切っ先で頬をツンツンするな。ネル、ちょっ……脛はまじでやめて。ガチの急所……」
「「 はやく答えて 」」
「いや、まじで何のことだか……」
「ユーゴ、お前そういえば、冥海の魔王軍と戦った後、一日近く行方を眩ませていたな」
「私達には異空間内で休憩していたと仰っていましたが、誰と、どのように休憩を?」
自分たちが放つ言葉でさらにボルテージを増していく聖少女たち。
命の危険を感じたユーゴが鬼神鎧装の起動を真剣に検討していると、
「ちょ……アンタ達なにしてんの!? 仲間なんでしょ? ユーゴ・タカトー、アンタその娘たちになにしたのよ!?」
「いやむしろ俺がお前に何かしたっけ? てかお前、何を急に言いだしたんだ?」
「あ、いや……」
ユーゴの質問にたじろぐ魔王少女。確かにいきなり現れて「お前の卵を産ませろ」は性急過ぎたかもしれない。これでは痴女。いや、痴魚だ。
「その、さっきのは違くて……」
「……? まぁ違うならいいや。ちょうどいい、お前に二つ、頼みがあるんだよ」
「アタシに? なに?」
パレアはきょとんとして、自分の顔を指差した。
「ああ。まずは確認だが、お前って確か海の支配者だとか言っていたな?」
「ええ、そうだけど?」
「てことは、海の魔物とかはお前の言う事を聞くわけだよな?」
「そうね。言うことを聞かないやつは三枚に下ろすわ」
「そうか。いや、実はな、俺たちはヨウゲン国に向かう旅の途中なんだが、お前の仲間が船を襲っているらしくて、出港が出来ねぇんだよ。何とかならないか?」
「アタシの臣下たちが? おかしいわね。アタシ、そんな命令出してないわよ……」
不審に思ったパレアはくるっとターンすると、海に向かって集合の超音波を発した。
すると、
ゴゴゴ……ザッパーン!
海が盛り上がり、なんと大中小、大きさも種類も様々な海の生物が海面に姿を表した。
「おお、パレアちゃんだ!」
「まじか! なんでこんなところにパレアちゃんが!?」
「パーレーアーちゃーん!」
海人、海獣、人魚。パレアを見つけた海の生き物が漏れなく歓声を上げた。
「アンタたちうるさい。ちょっと黙りなさい。この海域の責任者は誰?」
「私です」
パレアの呼びかけに、一尾の人魚が前に進み出た。
なんとおっさんの人魚だ。胸毛が無駄に立派なのが、得体の知れない恐怖を誘う。
「ねぇ、このあたりの船を襲ってるって聞いたんだけど、なんで? アタシ、そんな命令は出してないわよ」
「そ、それは…」
言いよどむおっさん人魚に対し、パレアは優しく語りかける。
「怒らないわ。なにがあったのか話して」
「はい、実は……」
その人魚によると、一年ほど前にはるか西の海域で、人魚の子供が数人、拐かされたという。
西の海人族は総出で探し、陸に上がった者から報告があった。
どうやら、さらったのは人間で、人魚の子どもたちは陸路で大陸を横断し、ヨウゲン国に向かっているようだと。海人族を警戒したのだ。
そこで動ける者はこの大陸の東の海域と南の海域へ集まり、ヨウゲン国への航路を進む船を片っ端から沈めていったのだ。
船が沈んでも、海の中で生きている子供がいれば、それは人魚であるからだ。
パレアがそのことを知らなかったのは、戦争の準備をしていたので周囲が気を利かせて知らせていなかったからだという。
このことをパレアが知れば気もそぞろになるという配慮だった。
「なるほどね。話は理解ったわ」
「ちょっといいか。俺が聞いた話では、最近はヨウゲン行きだけじゃなくて、全ての船が被害にあってるってことだが?」
「なんだ、人間? 貴様に話すことなど無い」
ユーゴが横から口を挟んだが、男の人魚はけんもほろろだった。よほど人間が憎いらしい。
「良いから答えなさいよ。アタシも知りたいわ」
「はい。実は……パレアちゃんには言いにくいのですが、先日の戦の敗残兵たちがこっちの仕事に手を貸すと言い出しまして。ところがそいつら、関係のない船まで……」
「はーん。つまり憂さ晴らしをしてるってことね?」
チロッ。チロッ。チロッ。
「うっ……」
事情を知る三人の少女の視線が刺さるのをユーゴは感じた。
「な、なんだよ。別にそれは俺のせいじゃないだろ」
「まぁそうね。アンタに負けたからって、関係ない人間を襲うのは筋が違うわ。とはいえ、人魚の子供たちを攫ったのも人間。これは私もやめろとは言えないわね」
その時、パレアはキュピーンと閃いた。頭に電球が灯ったかのようで、初めてチョウチンアンコウの気持ちが解った気がした。
「ユーゴ・タカトー。取引しましょう」
「あ? どういうことだ?」
「アタシはこいつらに人間を襲わせるのを止めさせる。その代わり、アタシはヨウゲン国に行って犯人を突き止めて子供たちを取り返すから、アンタはそれを手伝いなさい」
「な、何ぃっ!?」
ユーゴは寝耳に水だった。人魚相手だけに。
「いいじゃない。アンタどうせヨウゲン国に行くつもりだったんでしょ?」
「……わかった。フィールエル、ネル、お前らもそれでいいか?」
「うん。攫われた人魚の子供たちを取り戻すんだな」
「私も大丈夫です。子供たちが心配ですね」
ユーゴたちがパレアに協力することを決めた時、港に大勢の人間が現れた。
「見ろ! 通報通り、海獣や冥海の魔王軍の兵士が!」
「なんてことだ。攻めてきたのか!?」
「いますぐ戦えるものを集めろ!」
港の海を埋め尽くす海の魔物たちに、街中の人間が駆けつけたのだ。
その中には、冒険者ギルドの受付嬢もいた。
「あ、貴方はさっきの!?」
受付嬢はユーゴを見つけて、驚きの声を上げた。
「よう。さっきぶりだな。あ、そういえば船が出向できるようになったみたいぞ。こいつが何とかしてくれるってさ」
ユーゴがパレアを指差した。
「まずはこっちが約束を守るわ。アンタ達、邪魔だからこの海域から撤退しなさい。人間の船は襲わないように」
「はーい!」
パレアの指示に、海の魔物たちは三々五々散っていく。
それを町の住人たちは信じられないという表情で眺めていた。
「あ、あの…貴女はいったい……?」
勇気を出して、受付嬢がパレアに話しかけた。
「アタシ? 冥海の魔王、パレア・シンクロンよ!」
「ええっ!?」
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