上 下
19 / 139
英雄と聖女 編

019. コイバナ

しおりを挟む
「ネルさん。ゼストさんのこと、どう思っているの?」

 椅子に腰掛けるなり、スウィンはいきなり本題を切り出した。

「どう……とは?」

 いきなりの質問にネルは戸惑いを隠せない。

「ごめんなさい。こんな時にこんな話をして。でも、聖都に行けば必ず激しい戦いが起こる。正直、今度は全員が無事でいられる保証はないわ。でも、私は絶対に生き残ってゼストさんを振り向かせてみせるわ」

 やはり、話だった。

 何となく分かっていた。スウィンがゼストに好意を持っていることを。
 もちろんピアはゼストへの好意を隠そうとしないし、ここにはいないゼストの仲間の少女たちも、押し並べてゼストに惚れている。
 それも仕方ないと思う。ゼストは容姿端麗で、女性には優しい紳士だ。それだけでなく強さも折り紙付きで、数々の武功を上げている。しかも貴族で家柄もよく、王の信頼も厚いとなれば、放っておく女性の方が少ないだろう。
 国中の貴族令嬢だけではなく、第二王女も熱を上げているという噂だ。

 私はゼストさんのことをどう思っているんだろう?

 ネルは考えた。
 たしかにネルはゼストと一緒にいると安心する。穏やかで落ち着いた物腰で、話していると心が暖かくなる。
 これが恋なのだろうか?
 かつて自問したことがあるが、未だ答えは出ていない。だが───

「私は……」

「もし違っていたらごめんなさい。気になってるんでしょ、ユーゴのこと」

 そう。数日前、ユーゴが現れてからネルの心は理解不能の感覚に見舞われていたのだ。

「……わかっちゃいますか?」

「それはそうよ。だって、ずっと彼のことを見ているんだもの。まぁ、ムチャクチャだけど悪い人ではないみたいだし。少なくとも、私たちにとっては」 

 苦笑しながら、スウィンはユーゴのことをそう評価した。
 それはネルも同感だ。むしろその事が判ったからこそ、ネルの中をユーゴが占める割合が大きくなった。

「そう…ですね。やることなすこと破天荒で、言動はお世辞にも上品とは言えないですし、悪人相手には平気で暴虐の限りを尽くします。でも、ゼストさんに匹敵する戦闘力と、この世界には存在しないアイテムを操りながらも、あの方は決してご自分のことを語ろうとはしません。幼い頃住んでいた村の男の子たちとも、王宮にいた男性貴族や神殿にいた男性信徒たちとも全く違う、はっきり言って、いままで私が見たことのないタイプの男性です。だからでしょうか、確かに私は、あの方のことが気になっています」

 最近は彼の雇用主だという女性のことを考えると、何故か焦りが生じ、先ほどなどはユーゴが他の女性を目で追っているのを見て、ネルとしてはとても珍しいことだが、イラッとしてしまった。

「旅の道中、ユーゴさんは飄々とした態度を取りながらも、私たちのことを常に気にかけて下さっていました。獣人の村では、こっそり私の危機を救ってくださいました。それを誇ること無く、素知らぬ顔で、です。私を不安にさせたくなかったのでしょう。私はユーゴさんの想いを汲み、知らないふりをしていますけど」

 自分のことは語ろうとしない。
 だがときおり見せる寂しそうな笑みや、憂いを帯びた眼差しは、彼の人生が決して良いことばかりではなかったことを悟らせる。
 そう思った時、ネルは心臓をぎゅっと掴まれたような気がしたのだ。

「別に牽制しようとか思っていたわけじゃないけれど……。ネルさんは私の恋敵ではなかったみたいね。安心したわ」 

 スウィンは立ち上がった。

「変な話をしてごめんなさい。さ、もう寝ましょう」

 そう言ってスッキリした表情で自分のベッドに引っ込んでしまい、すぐに寝息を立てだした。
 対してネルには、睡魔がなかなか訪れなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌朝。早くに宿を引き払った一行は、ミロンドに向かって出立した。

「ユーゴ。昨日言ってた考えって何なんだ?」

 ゼストが問うた。

「その前に、ちょっと地図を見せてくれ」

 ゼストから地図と受け取ったユーゴは聖都と本山の位置を確認すると、【千里眼ワールドゲイザー】を発動した。
 目的地までの直線方向と、その間の地形をざっと眺める。
 ほぼ平地で凹凸の少ない地形。間に一筋川が流れているが谷にはなっておらず、緩い土手があるだけだ。

「まぁ、これなら問題なさそうだ。人目もないしこの辺りで構わないな」 

 そう言って予告なしに、ユーゴの姿が消えた。
 例のユーゴの亜空間、【無限のおシークレットもちゃ箱フロンティア】の中に這入ったのだ。
 ややあって。
 一台の車が現れた。
 トレーラーハウスではない。もっと小さいサイズだ。
 小さいと言っても、普通の乗用車よりも少し大きいくらいだ。
 ランドローバーのようなシンプルかつスタイリッシュなエクステリアだが、剛性は地球上のあらゆる軍用車よりも遥かに上である。
 特筆すべきはタイヤで、そのサイズは乗用車と比べてボディとの対比が大きく、ボディを支えるサスペンションは競輪選手の太腿ほどのゴツいものである。

「これは……馬のいらない馬車だと思えば良い。さぁ、乗ってくれ」

 聞いても理解できないと思ったのか、この車のことについては最早なにも突っ込まず、女性陣は恐る恐る後部座席に乗り込み、ゼストは助手席に座った。
 ユーゴがスタートボタンを押してエンジンを起動すると、スウィンは「ひゃあぁぁぁっ⁉︎」っと悲鳴を上げた。

「な、なに。この音っ⁉︎」

「馬だってくだろ。それと似たようなもんだよ」

「そ、そういうものかしら?」

 どこか釈然としないものの、納得せざるを得ないスウィン。なにせ神代の遺産である。彼女の理解の範疇にない。

「じゃあしっかり捕まっていろよ。行くぞ」

 ユーゴはギアをドライブに入れ、アクセルを踏んだ。


──────to be continued

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

お読みいただき誠にありがとうございます。
この作品が
「面白い」 「続きが読みたい」 「推してもいい」
と少しでも思って頂けた方は、

①お気に入り 登録
②エールを送る(アプリ版のみ)
③感想を書く
④シェアする

をして頂ければ、作者のモチベーションアップや作品の向上に繋がります。
※お気に入り登録して頂きますと、新エピソードが投稿された際に通知が届いて便利です。
アマチュアである作者は皆様に支えられております。
この作品を皆様で盛り上げて頂き、書籍化やコミカライズ、果てはアニメ化などに繋がればいいなと思います。
この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜

平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。 26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。 最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。 レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...