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英雄と聖女 編
005. 英雄ゼスト
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「ユーゴさんに、ボク達の旅に同行してもらいたいんだ」
「「「「 えっ⁉︎ 」」」」
ゼストの爆弾発言を受け、仲間の少女たち&部外者は異口同音に驚いた。
「みんなに相談せず、勝手にこんなこと言ってごめん。けど、さっきみたいなトラブルはこれからより多くなるだろうし、護衛の増員は必要だと思う」
「いやいや待て待て。お前らの事情はちょっとだけ理解したが、急に言われても困るぞ。こっちにも都合ってもんがある」
何しろつい先程知り合ったばかりだ。藪から棒にも程がある。
「ユーゴさんは記憶喪失で数日前にこの町に来たって言ってたよね。もし同行してもらえるなら旅の道中に何かが刺激になって、記憶が戻るかもしれない。もちろん費用はボクが持つ」
ゼストたちには、カールにしたものと同じような説明をしていた。
「簡単に言うがな、大の男一人の旅費は安いもんじゃないぞ。目的地がどこか知らないが、近くはないだろ?」
「大丈夫だよ! おにーちゃんは英雄だから、王様からお金たくさん貰ってて、お金持ちだから」
元気いっぱいに答えたのはピアだった。
「英雄?」
お金持ちはともかく、英雄という部分は気になった。
「そうよ。英雄ゼストっていったら、近隣諸国にも鳴り響いている雷名よ。まぁ貴方は記憶喪失みたいだから、知らないのも無理はないでしょうけれど。神話に出てくるような巨人兵を何体も斃したり、前人未到の高難度ダンジョンをいくつも攻略したり、戦争では敵国の総大将の首を獲ってフルータル王国を勝利に導いたり。その活躍はもはや伝説級よ。数えれば十指に余るわ」
「そりゃ凄まじいな。英雄ってのも納得できる」
驚嘆の声を上げながら、ユーゴはふと思った。
もしかしてこいつ───。
「英雄は大げさだよ」
謙遜するゼストにスウィンは追い打ちをかける。
「いいえ。全部本当のことだもの。ゼストさんは英雄と称されるに値するわ」
「まぁ旅費の件は置いておくとして、俺なんか信用しても良いことないかもしれないぞ。それに今回のことにしても、俺がひったくりを捕まえなくても、ゼストがなんとかしただろ?」
実はひったくりを成敗したとき、ユーゴはゼストが路上を疾風のごとく掛けてくるのを認めていた。しかも人混みをするするとすり抜ける身のこなしは英雄の称号に恥じぬ達人級のものだった。
ユーゴが指摘するように、あと数秒後には犯人を捕まえていたに違いない。今回は偶さかユーゴが近い場所にいただけだ。
「そうかもしれない。でも今回は聖璽が狙われただけだけど、もしそれがネルの命だったらボクは間に合わなかっただろうね。だから単純に護衛に当たる頭数は多いほうが良い。それがユーゴさんほどの実力があれば尚更だ。動きに無駄がない、素晴らしい身のこなしだった」
「私もそう思うわ。私達で充分って言いたいところだけれど、実際事件は起こっちゃったし。それに私も目撃したわ。ユーゴさん、貴方、その位置から犯人のいる屋上まで、刹那の間に移動していたわね。私の目でも残像すら捉えられなかった。普通の人なら突然現れたように錯覚するはずよ。空間移動の神聖術か呪怨術でも使ったみたいに。そんな真似ができるのはゼストさん以外に知らないわ」
迂遠な言い回しだったが、スウィンが褒めてくれているのはユーゴにも分かった。
「私もこの方は信じられると想います。救っていただいたのは勿論ですが、何より私になんの見返りを求めずに立ち去ろうとしました。そんな方が悪い人であるはずがありません。私からもお願いいたします。ユーゴさん、どうか私達の旅についてきていただけませんか?」
「ピアはどう?」
「ピアはおにいちゃんが決めたなら良いよ。私の耳を見ても嫌そうな表情をしなかったし」
ゼストに水を向けられてピアが答えた。
他の異世界で見慣れていたためユーゴはスルーしていたが、ピアは猫の獣人のようだった。言葉ぶりから、獣人は迫害を受けているようだと察した。
「ということで、こちらは全員の了解はとれた。もしユーゴさんの都合さえ良ければ、お願いしたいんだけど」
ゼストは改めてユーゴに申し出た。
「少し考えさせてくれ」
「もちろんだ。ユーゴさんの都合もあるだろうし。ボク達は明日の昼前に出発する。もし仲間になってくれるなら、北の門まで来て欲しい」
「わかった。じゃあ俺は行くぜ」
ゼストたちと別れて、ユーゴはすぐにデニス邸の自室へと戻った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その夜。
ユーゴはベッドの上で、昼に収集した情報を含めてゼストの誘いをどうするかを考えていた。
一番有力な情報は遠い南にあるという ”自動で動き喋る機械人形” だ。
ユーラウリアは言っていた。ただ強いだけではダメだと。ユーラウリアのような上位の存在───いわゆる神の導きによって異世界に移されたものを探せと。
なぜそんな条件なのかは判然としないが。
ゼストの強さが誇張されたものでなければ、彼はもしかしたら異世界からの転生者なのかもしれない。だが強いということがすなわち異世界転生者ということの証明にはならない。
その点、南の国の噂は元地球人の可能性が高い。なぜならば南の国の機械人形を造ったものがいたとして、その者が地球の技術を使って技術革新をオーバーテクノロジーレベルで引き起こした可能性が高いからだ。
ゼストたちの目的達成を手伝った後に南の国へ行くのもいいが、そうするとゼストが ”被転送者ではなく、ただべらぼうに強いだけの人間” だった場合、大幅なタイムロスになる。
さてどうするか───。
ユーゴが思案にくれていると、不意にデニス邸の屋根の上に人の気配を感じた。
物盗りだろうか。
ベッドの上に寝転がったまま、ユーゴが屋根の上を見ると、そこには見知った人物がいた。ただしデニス家の者ではない。
侵入者は物音を立てず、しかも全く迷う素振りもなくユーゴの部屋の上まで進むと、なんとふわりと身体を宙に浮かせて窓の前まで来た。
コンコン。
侵入者はバルコニーに降り立つと、窓ガラスをノックした。
ユーゴは侵入者の姿を見て声を掛ける。
「よう。確か待ち合わせは明日の昼に、北門の前って話じゃなかったか?」
「やあ。夜分遅くに押しかけて申し訳ない。少し大事な話があったんだ」
真夜中の訪問者。それはゼストだった。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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この作品が
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「ユーゴさんは記憶喪失で数日前にこの町に来たって言ってたよね。もし同行してもらえるなら旅の道中に何かが刺激になって、記憶が戻るかもしれない。もちろん費用はボクが持つ」
ゼストたちには、カールにしたものと同じような説明をしていた。
「簡単に言うがな、大の男一人の旅費は安いもんじゃないぞ。目的地がどこか知らないが、近くはないだろ?」
「大丈夫だよ! おにーちゃんは英雄だから、王様からお金たくさん貰ってて、お金持ちだから」
元気いっぱいに答えたのはピアだった。
「英雄?」
お金持ちはともかく、英雄という部分は気になった。
「そうよ。英雄ゼストっていったら、近隣諸国にも鳴り響いている雷名よ。まぁ貴方は記憶喪失みたいだから、知らないのも無理はないでしょうけれど。神話に出てくるような巨人兵を何体も斃したり、前人未到の高難度ダンジョンをいくつも攻略したり、戦争では敵国の総大将の首を獲ってフルータル王国を勝利に導いたり。その活躍はもはや伝説級よ。数えれば十指に余るわ」
「そりゃ凄まじいな。英雄ってのも納得できる」
驚嘆の声を上げながら、ユーゴはふと思った。
もしかしてこいつ───。
「英雄は大げさだよ」
謙遜するゼストにスウィンは追い打ちをかける。
「いいえ。全部本当のことだもの。ゼストさんは英雄と称されるに値するわ」
「まぁ旅費の件は置いておくとして、俺なんか信用しても良いことないかもしれないぞ。それに今回のことにしても、俺がひったくりを捕まえなくても、ゼストがなんとかしただろ?」
実はひったくりを成敗したとき、ユーゴはゼストが路上を疾風のごとく掛けてくるのを認めていた。しかも人混みをするするとすり抜ける身のこなしは英雄の称号に恥じぬ達人級のものだった。
ユーゴが指摘するように、あと数秒後には犯人を捕まえていたに違いない。今回は偶さかユーゴが近い場所にいただけだ。
「そうかもしれない。でも今回は聖璽が狙われただけだけど、もしそれがネルの命だったらボクは間に合わなかっただろうね。だから単純に護衛に当たる頭数は多いほうが良い。それがユーゴさんほどの実力があれば尚更だ。動きに無駄がない、素晴らしい身のこなしだった」
「私もそう思うわ。私達で充分って言いたいところだけれど、実際事件は起こっちゃったし。それに私も目撃したわ。ユーゴさん、貴方、その位置から犯人のいる屋上まで、刹那の間に移動していたわね。私の目でも残像すら捉えられなかった。普通の人なら突然現れたように錯覚するはずよ。空間移動の神聖術か呪怨術でも使ったみたいに。そんな真似ができるのはゼストさん以外に知らないわ」
迂遠な言い回しだったが、スウィンが褒めてくれているのはユーゴにも分かった。
「私もこの方は信じられると想います。救っていただいたのは勿論ですが、何より私になんの見返りを求めずに立ち去ろうとしました。そんな方が悪い人であるはずがありません。私からもお願いいたします。ユーゴさん、どうか私達の旅についてきていただけませんか?」
「ピアはどう?」
「ピアはおにいちゃんが決めたなら良いよ。私の耳を見ても嫌そうな表情をしなかったし」
ゼストに水を向けられてピアが答えた。
他の異世界で見慣れていたためユーゴはスルーしていたが、ピアは猫の獣人のようだった。言葉ぶりから、獣人は迫害を受けているようだと察した。
「ということで、こちらは全員の了解はとれた。もしユーゴさんの都合さえ良ければ、お願いしたいんだけど」
ゼストは改めてユーゴに申し出た。
「少し考えさせてくれ」
「もちろんだ。ユーゴさんの都合もあるだろうし。ボク達は明日の昼前に出発する。もし仲間になってくれるなら、北の門まで来て欲しい」
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ユーラウリアは言っていた。ただ強いだけではダメだと。ユーラウリアのような上位の存在───いわゆる神の導きによって異世界に移されたものを探せと。
なぜそんな条件なのかは判然としないが。
ゼストの強さが誇張されたものでなければ、彼はもしかしたら異世界からの転生者なのかもしれない。だが強いということがすなわち異世界転生者ということの証明にはならない。
その点、南の国の噂は元地球人の可能性が高い。なぜならば南の国の機械人形を造ったものがいたとして、その者が地球の技術を使って技術革新をオーバーテクノロジーレベルで引き起こした可能性が高いからだ。
ゼストたちの目的達成を手伝った後に南の国へ行くのもいいが、そうするとゼストが ”被転送者ではなく、ただべらぼうに強いだけの人間” だった場合、大幅なタイムロスになる。
さてどうするか───。
ユーゴが思案にくれていると、不意にデニス邸の屋根の上に人の気配を感じた。
物盗りだろうか。
ベッドの上に寝転がったまま、ユーゴが屋根の上を見ると、そこには見知った人物がいた。ただしデニス家の者ではない。
侵入者は物音を立てず、しかも全く迷う素振りもなくユーゴの部屋の上まで進むと、なんとふわりと身体を宙に浮かせて窓の前まで来た。
コンコン。
侵入者はバルコニーに降り立つと、窓ガラスをノックした。
ユーゴは侵入者の姿を見て声を掛ける。
「よう。確か待ち合わせは明日の昼に、北門の前って話じゃなかったか?」
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