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eruption
They meet with a disaster①
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「不夜城くん、いまから?」
放課後。俺は教室を出て軽音部の部室である音楽室に向かおうとした時、声をかけられた。
小柄な身体にベースバッグを背負った同級生の女子。
同じ軽音部の鈴木ましろだ。
「ああ。鈴木もこれからか?」
「うん───って言いたいところだけど、今日はサボろうかなって」
「へぇ。珍しいな。鈴木がサボりなんて」
「えへへー。実はね、彼氏から一緒にライブ行こうって誘われちゃって」
そんな理由かよと思ったが、不興を買いそうな気がしたため胸の裡にしまっておいた。代わりに「いいな。誰のライブだ?」と当たり障りのない質問をした。
「CRIMSON EARTH PARK だよ」
「C.E.Pか。驚いたよな。C.E.Pとかも聴くのか」
クリムゾン・アース・パークは同県出身の、そこそこ名の売れたバンドである(あくまでも県下や同ジャンルのシーンでの話だが)。
元々はJ-POPやJ-ROCK寄りの万人受けしやすいバンドだったのだが、いつの頃からかゴリゴリのHR/HMに転向し、メジャーデビューを一度蹴ってまでも方向転換を押し通したというバンドだ。
「それは彼氏の趣味でね」
「あーね」
「あ、でもでも、芸の肥やしにはなると思うし」
惚気に呆れかけた俺に、弁解する鈴木。
「まぁ、確かにいろんな音楽を聴くのは為になる」
「それにね、今日シークレット・ゲストであのゼノがくるらしいよ」
「マジでか。来日してたのか」
今日一番のトピックスだ。
ゼノ───フルネームは公開されていないが、洋楽ロック界において欠かすことの出来ない人物だ。
今から二十年ほど前にデビュー。ARTIFICIAL EDENというバンドのギタリスト/ヴァーカリストとしてデビューしたのち数年後ソロに転向。それからの躍進は目覚ましく。ヒットチャート上位の常連だった。
スーパーギタリストにしてヴォーカリスト。さらにそのカリスマ性から『皇帝』などという二つ名まで付いている。
「なんか、最近ずっと日本にいるみたいだよ」
「そうなのか。そういえば親日家なんだっけ」
「みたいだね」
「それにしても、ゼノみたいなスーパースターが、日本のメジャーデビューもしていないバンドのゲストとして出るのもおかしな話だよな」
「あー、それだよね。なんかね、今度C.E.Pがメジャーデビューするらしくて、それがゼノと同じレコード会社なんだって。しかもC.E.Pはゼノの大ファンらしくて」
「そうなのか」
いまいち腑に落ちないが、大人の社会では大人の法則が働く。大人の事情というやつだろう。
「ていうか鈴木、事情通だな」
「あはは。私も彼氏の受け売り」
なんと、鈴木の彼氏は音楽ライターらしい。彼氏は年上の社会人か……。やるな鈴木ましろ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
鈴木と別れた俺は、音楽室へ向かった。
「ちゃーす」
そして扉を開けて中に入った俺を待っていたのは、部員の好奇心に満ちた視線だった。
居心地の悪さを感じつつも、いつも通りギターやエフェクター類などのセッティングをする。
その間も背中に好奇の視線を受け続けている。針の筵とはこのことだろうか。
とりわけ強い視線の先には三人の女子がいた。
ヴォーカル・パート三年の草尾雪乃先輩、同じくヴォーカル・パート一年の香山せいら、ドラムス・パート一年の高梨りんごだ。
「何だ?」
あくまで『勉強でわからないことでもあったのかい?』くらいの軽く、それでいて爽やかな態度で返す俺。
レイラとの関係は疚しいものではない───ある意味で後ろめたい部分はある───が、微塵も疚しさを感じさせない為だ。
高梨りんごは素直というか、天衣無縫な性格をしている。十中八九、直球な質問が来るだろう。
「弦輝先輩って昨日の放課後、外国の女の子とデートしてたんですよね?」
やはりか。
「デートってわけじゃないけど、それがどうした?」
「弦輝先輩って、ロリコンなんですか⁉︎」
‼︎⁉︎
まさかの変化球。手元で落ちただと⁉︎
「ちゃちゃ、ちゃうわ‼︎」
「あ~、焦ってる~。やっぱり~」
「違うって。あの子は親戚の知り合いで、日本にホームステイしてるからちょっと案内を頼まれただけというか……」
ということにしておこう。
「そうなんですか。せっかくチャンスだと思ってたのに……」
「え、何て?」
後半はボソボソ言っていたので、よく聞き取れなかった。
「いえ、何でもないっす。じゃあ先輩、付き合うなら年上と年下、どっちがいいですか?」
「む……まぁ歳は近い方がいいけど、そんなに離れていなければ別にどちらでも構わない、かな……」
「じゃあ、グラマーと貧にゅ…じゃなくて、スレンダーだったら?」
「いや、別に、そういうの気にしたことないな。それよりも、気が合うかどうかじゃないか?」
あたり触りない対応をしておく。ていうかさっきから何だ、どういう質問だ。
りんごは何故か両手で自分の胸の辺りに触れ、「フゥ」と安堵のため息を漏らした。
「なるほど‼︎ 仲が良いかが重要ってことですよね。ところでウチら、めっちゃ仲良くないですか?」
「??? まぁ、悪くはないんじゃないか……」
それを聞いたりんごは残りの二人の方に向き直りガッツポーズをした。
「ホ~ホッホッホ‼︎みなさん御機嫌よう……ってあら、今日は少ないですわね」
突然音楽室に入ってきたのは、副部長である三年生の御堂詩織先輩だ。
テンプレお嬢様キャラを地でいく個性的な先輩だ。これで庶民的な家柄であればただのイタい人だが、実家はどこかの企業グループだが旧財閥だかで、かなりの富豪らしい。
あ、いや、お金持ちでもイタいことには変わりなかった。
「お疲れっす、御堂先輩。確かに今日は集まりが悪いですね。───あ、鈴木は体調不良らしいですよ。俺、さっき伝言頼まれました」
よく見れば部長の高梨先輩もいない。これは珍しい。
「あ。お兄は何か重要な用事があるとかで、休むそうです」
高梨部長の妹であるりんごが報告した。
兄弟でドラマーの高梨家。良いことだ。
「部長のご用件は以前から伺っていますわ。……しかし、これは一体どういうことかしら」
確かに守屋の姿もない。
あとは二、三人、部員ではないが部活を冷やかしにきている生徒がいるだけだ。(ちなみに軽音部は見学自由だ。『音楽は聞いてもらってなんぼ』だからである)
御堂先輩に答えを返せるものはいなかった。皆、首を傾げるだけである。
「まぁ仕方ありませんわね。今日はこのメンバーで練習しましょう」
「そうですね。遊蛇がいないのはいつものこととして、鈴木も今日いないですからね。ベース無しってのもさみしいので、今日は俺がベースやりますよ」
確か学校備品のプレジション・ベースがあったはずだ。
「コード感は御堂先輩のキーボードがあるからいいか。先輩、イントロとかアウトロとかの、いつもギターで弾いてるメロディーもお願いできますかね」
「お任せなさい」と大きな胸を張って引き受けてくれる御堂先輩。
「あ、難しいものでなければ私もギター弾けますよ。不夜城先輩とかみたいにギターソロとか無理ですけど」
と申し出たのは香山である。
「そうか、助かるよ。わかるところでいいから弾いてくれ。ギターは俺のでいいか?」
「やった!ありがとうございます。私、一度でいいからあのギター弾いてみたかったんです」
香山は嬉しそうに、俺の赤いストラトを肩から提げる。そういえば香山はギターを弾きながら歌うスタイルを目指していたはずだ。
「じゃあ始めるか」
曲は香山が弾けそうなものをセレクトして、ヴォーカルは草尾先輩に歌ってもらうことにした。
「ワン、トゥー、スリー、フォー」
りんごの元気なカウント・インに続いて、音楽室にバンド・サウンドが弾ける。
放課後。俺は教室を出て軽音部の部室である音楽室に向かおうとした時、声をかけられた。
小柄な身体にベースバッグを背負った同級生の女子。
同じ軽音部の鈴木ましろだ。
「ああ。鈴木もこれからか?」
「うん───って言いたいところだけど、今日はサボろうかなって」
「へぇ。珍しいな。鈴木がサボりなんて」
「えへへー。実はね、彼氏から一緒にライブ行こうって誘われちゃって」
そんな理由かよと思ったが、不興を買いそうな気がしたため胸の裡にしまっておいた。代わりに「いいな。誰のライブだ?」と当たり障りのない質問をした。
「CRIMSON EARTH PARK だよ」
「C.E.Pか。驚いたよな。C.E.Pとかも聴くのか」
クリムゾン・アース・パークは同県出身の、そこそこ名の売れたバンドである(あくまでも県下や同ジャンルのシーンでの話だが)。
元々はJ-POPやJ-ROCK寄りの万人受けしやすいバンドだったのだが、いつの頃からかゴリゴリのHR/HMに転向し、メジャーデビューを一度蹴ってまでも方向転換を押し通したというバンドだ。
「それは彼氏の趣味でね」
「あーね」
「あ、でもでも、芸の肥やしにはなると思うし」
惚気に呆れかけた俺に、弁解する鈴木。
「まぁ、確かにいろんな音楽を聴くのは為になる」
「それにね、今日シークレット・ゲストであのゼノがくるらしいよ」
「マジでか。来日してたのか」
今日一番のトピックスだ。
ゼノ───フルネームは公開されていないが、洋楽ロック界において欠かすことの出来ない人物だ。
今から二十年ほど前にデビュー。ARTIFICIAL EDENというバンドのギタリスト/ヴァーカリストとしてデビューしたのち数年後ソロに転向。それからの躍進は目覚ましく。ヒットチャート上位の常連だった。
スーパーギタリストにしてヴォーカリスト。さらにそのカリスマ性から『皇帝』などという二つ名まで付いている。
「なんか、最近ずっと日本にいるみたいだよ」
「そうなのか。そういえば親日家なんだっけ」
「みたいだね」
「それにしても、ゼノみたいなスーパースターが、日本のメジャーデビューもしていないバンドのゲストとして出るのもおかしな話だよな」
「あー、それだよね。なんかね、今度C.E.Pがメジャーデビューするらしくて、それがゼノと同じレコード会社なんだって。しかもC.E.Pはゼノの大ファンらしくて」
「そうなのか」
いまいち腑に落ちないが、大人の社会では大人の法則が働く。大人の事情というやつだろう。
「ていうか鈴木、事情通だな」
「あはは。私も彼氏の受け売り」
なんと、鈴木の彼氏は音楽ライターらしい。彼氏は年上の社会人か……。やるな鈴木ましろ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
鈴木と別れた俺は、音楽室へ向かった。
「ちゃーす」
そして扉を開けて中に入った俺を待っていたのは、部員の好奇心に満ちた視線だった。
居心地の悪さを感じつつも、いつも通りギターやエフェクター類などのセッティングをする。
その間も背中に好奇の視線を受け続けている。針の筵とはこのことだろうか。
とりわけ強い視線の先には三人の女子がいた。
ヴォーカル・パート三年の草尾雪乃先輩、同じくヴォーカル・パート一年の香山せいら、ドラムス・パート一年の高梨りんごだ。
「何だ?」
あくまで『勉強でわからないことでもあったのかい?』くらいの軽く、それでいて爽やかな態度で返す俺。
レイラとの関係は疚しいものではない───ある意味で後ろめたい部分はある───が、微塵も疚しさを感じさせない為だ。
高梨りんごは素直というか、天衣無縫な性格をしている。十中八九、直球な質問が来るだろう。
「弦輝先輩って昨日の放課後、外国の女の子とデートしてたんですよね?」
やはりか。
「デートってわけじゃないけど、それがどうした?」
「弦輝先輩って、ロリコンなんですか⁉︎」
‼︎⁉︎
まさかの変化球。手元で落ちただと⁉︎
「ちゃちゃ、ちゃうわ‼︎」
「あ~、焦ってる~。やっぱり~」
「違うって。あの子は親戚の知り合いで、日本にホームステイしてるからちょっと案内を頼まれただけというか……」
ということにしておこう。
「そうなんですか。せっかくチャンスだと思ってたのに……」
「え、何て?」
後半はボソボソ言っていたので、よく聞き取れなかった。
「いえ、何でもないっす。じゃあ先輩、付き合うなら年上と年下、どっちがいいですか?」
「む……まぁ歳は近い方がいいけど、そんなに離れていなければ別にどちらでも構わない、かな……」
「じゃあ、グラマーと貧にゅ…じゃなくて、スレンダーだったら?」
「いや、別に、そういうの気にしたことないな。それよりも、気が合うかどうかじゃないか?」
あたり触りない対応をしておく。ていうかさっきから何だ、どういう質問だ。
りんごは何故か両手で自分の胸の辺りに触れ、「フゥ」と安堵のため息を漏らした。
「なるほど‼︎ 仲が良いかが重要ってことですよね。ところでウチら、めっちゃ仲良くないですか?」
「??? まぁ、悪くはないんじゃないか……」
それを聞いたりんごは残りの二人の方に向き直りガッツポーズをした。
「ホ~ホッホッホ‼︎みなさん御機嫌よう……ってあら、今日は少ないですわね」
突然音楽室に入ってきたのは、副部長である三年生の御堂詩織先輩だ。
テンプレお嬢様キャラを地でいく個性的な先輩だ。これで庶民的な家柄であればただのイタい人だが、実家はどこかの企業グループだが旧財閥だかで、かなりの富豪らしい。
あ、いや、お金持ちでもイタいことには変わりなかった。
「お疲れっす、御堂先輩。確かに今日は集まりが悪いですね。───あ、鈴木は体調不良らしいですよ。俺、さっき伝言頼まれました」
よく見れば部長の高梨先輩もいない。これは珍しい。
「あ。お兄は何か重要な用事があるとかで、休むそうです」
高梨部長の妹であるりんごが報告した。
兄弟でドラマーの高梨家。良いことだ。
「部長のご用件は以前から伺っていますわ。……しかし、これは一体どういうことかしら」
確かに守屋の姿もない。
あとは二、三人、部員ではないが部活を冷やかしにきている生徒がいるだけだ。(ちなみに軽音部は見学自由だ。『音楽は聞いてもらってなんぼ』だからである)
御堂先輩に答えを返せるものはいなかった。皆、首を傾げるだけである。
「まぁ仕方ありませんわね。今日はこのメンバーで練習しましょう」
「そうですね。遊蛇がいないのはいつものこととして、鈴木も今日いないですからね。ベース無しってのもさみしいので、今日は俺がベースやりますよ」
確か学校備品のプレジション・ベースがあったはずだ。
「コード感は御堂先輩のキーボードがあるからいいか。先輩、イントロとかアウトロとかの、いつもギターで弾いてるメロディーもお願いできますかね」
「お任せなさい」と大きな胸を張って引き受けてくれる御堂先輩。
「あ、難しいものでなければ私もギター弾けますよ。不夜城先輩とかみたいにギターソロとか無理ですけど」
と申し出たのは香山である。
「そうか、助かるよ。わかるところでいいから弾いてくれ。ギターは俺のでいいか?」
「やった!ありがとうございます。私、一度でいいからあのギター弾いてみたかったんです」
香山は嬉しそうに、俺の赤いストラトを肩から提げる。そういえば香山はギターを弾きながら歌うスタイルを目指していたはずだ。
「じゃあ始めるか」
曲は香山が弾けそうなものをセレクトして、ヴォーカルは草尾先輩に歌ってもらうことにした。
「ワン、トゥー、スリー、フォー」
りんごの元気なカウント・インに続いて、音楽室にバンド・サウンドが弾ける。
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