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eruption
when I decide④
しおりを挟む「もちろん、貴方をスカウトするためよ」
───しばらく考えさせてくれ。
俺はそう言った。言うしかなかった。
スカウト。
もちろんミュージシャンとしてではなく、魔法使いレイラのアシスタントとしてだ。
彼女が示した条件はそう悪いものには思えなかった。
彼女も昼間はプロデューサーとしての仕事があるらしく、基本的には夜間に動くそうだ。
表向きにはL.G.Dのアルバイトとして雇用するので、時給が発生する。
さらに彼女が所属している魔術団体(?)からも報酬が出るらしい。概算でも破格の額だった。
「あくまでも一時的なものよ」
レイラが『悪い魔法使い』を捕らえるまでの臨時らしい。
彼女にとってどれだけ必要か、俺がどれほどの逸材かなどと口説いてきた。彼女も切羽詰まっているのだろう。
しかし、俺は簡単には受諾しかねた。
自ら踏み込んでしまったら、二度と戻れないような気がしてしまったのだ。魔術なんて異常な世界から。
そして出てきた言葉が猶予を求めるものだった。
「わかったわ。あまりにも突然だものね。では二、三日中に名刺のメールアドレスにEmailを送ってもらえるかしら?」
「わかった」
と俺が頷いたところで、俺のスマホが短く鳴動した。
「ちょっとゴメン」
LINEの着信だ。無視しようと思ったが、なんとなく気になってしまった。
『お楽しみですなw』
まさか、と思いつつ店内を見渡す。
少し離れた窓側のチェストに、同級生二人とともに腰掛けてヤツは居た。
特徴的な外ハネヘア。
三日月聖だ。
同級生二人が、何故かハラハラとした顔で俺と聖を交互に見る。
『美少女とデート?いいね』
『ハッピーですな』
などの文章と、羨ましそうな顔をした猫のスタンプが送られてくる。
また来た。
『わら』
しかし聖の眼は笑っていない。何故か不機嫌である。
俺はあの眼を過去、何度か見たことがある。俺と清音が二人でいたり、何かの話題で不意に盛り上がったりした時の顔だ。ちょっと拗ねた時に発動する。
まさか本当に美少女とお茶していたから羨んでいるのだろうか。あり得る。聖ならば『アタシも混ぜろし!』とか言って来そうである。
引き攣った顔の俺の視線を怪訝そうに辿るレイラ。
やがて一人の女子高生を捉えると、俺と交互にみる。同級生たちと同じリアクションだ。その後、何かに納得した顔になり言った。
「なるほど……。ちょうど私の要件は終わったから、これで失礼させてもらうわ」
そして自分のトレイを持ち、優雅に立ち上がった。
聖の傍を通る時、「あっ」とまるで忘れ物をした、と言うような振る舞いをして俺を振り返ると、
「必ず連絡してね。待っているわダーリン‼︎」
とレディにあるまじき大声でのたまった。
聖の表情がピキッと引き攣る。
いつの間にか、店内のざわめきが戻ってきていた。
「部活サボって美少女とデートか~。あーあ、ゲンがこんな男だったとは……」
「しつこいな。そう言うんじゃないって言ってるだろ」
「じゃあ何?」
「う……」
そこから口ごもる俺。さっきから何度同じやり取りをしているだろう。
ファストフード店を出た俺を追うように、聖も出て来た。
同級生とは店内で別れて来たらしい。
俺と聖は駅のホームで電車を待っていた。
「こんなゲンを清音ちゃんが見たら、なんて言うだろうな~」
どことなく楽しそうに言う聖。何も疚しいことはないはずなのに、この後ろめたさは何だろう。
「うるさいな。だいたい何で、ジリがあそこに居たんだよ」
「別にアタシがどこにいようとアタシの勝手じゃん」
確かに聖が何処にいようと俺の許可などいらない。しかしいつもは俺と同じように直帰するか、学校で友達とおしゃべりして帰っているはずだし、『太るし誘惑に負けそうになるからヤダ』といって買い食いなどはしない主義のはずだ。
流石にちょっと素っ気なさすぎると自分でも思ったのか、やがて気まずそうに真相を語り出した。
「……放課後にさ、外国人の女の子がゲンを探してるってグルチャで回って来てさ。見に言ったらゲンとあの娘が二人で歩いていくのが見えたからさ。マユミとアリサが『尾行しようぜ』とか言うからさ」
口を尖らせて言い訳がましく言う聖
そんな聖を見て、俺は何かしら言い訳せねばならないような気分になった。
「しかもさ、何だか深刻そうって言うか、顔がくっつきそうなくらい近づいてヒソヒソ話してるじゃん。アレ見たらなんか心配になってさ……危険っていうか」
「ジリ……お前」
これが幼馴染の勘というものなのか。
レイラの言葉通りならば、俺とレイラの会話は聖には聞こえていない筈だ。にも関わらず『魔法』などというバイオレンスな世界に触れてしまったことを聖は感じ取ったのだろうか。ちょっと感動した。
が───。
「ゲンがロリコンになったんじゃないかって‼︎」
事もあろうに、なんて濡れ衣を着せてくるんだ。
「んなわけあるか、このヤロー」
「キャー、キャー、キャー‼︎ちょっ、まじやめろこのチカンー‼︎」
俺はマシンガンのように、聖の脇腹を手刀でつつく。
そんな俺たちは、傍迷惑なガキそのものだった。
小説追記文
──────to be continued
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