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chapter※08※※※※※※※※※※※

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「美鳥、体調は?」
「おはよう、朱鷺。大丈夫だよ、ありがとう」
「昨日珍しいこと言うから心配した」

自分の朝食を自分で運んで両手の塞がっている美鳥の額に手のひらをべったりと張りつけてみる。

「あははっ…自分でわかるよ。っていうか…朱鷺のそのやり方、子どもの時から手のひら全部をべったりだよね?冴子さんや西田さんは指4本なのに」

クスクス笑う美鳥は朝食を和食のワンプレートにしてもらったようだ。
おにぎり、小さな焼き魚、卵焼き、煮豆、かぶの浅漬けとイチゴが乗っているのを見て、熱もなく食欲もあって元気そうだと確認していると

「朱鷺もワンプレートがいいの?先にこれあげようか?」

と一旦座って自分の前に置いたものを俺の方へ差し出す。

「いや、皿でいい」

すぐに同じものが皿と器に盛られたものを用意してもらい、美鳥と二人で食べ始める。

「川崎さんの変更って何だったんだ?」
「毎日10時からって言ってたミーティングを午後にってことみたいだけど今日はいらないんじゃないかって返信しておいたの。この企画、急いではいるけど…メニューが出来上がらないと動けない部分も多いし、昨日の缶ワインも川崎さんの計算が終わっていないのにミーティングしても無駄でしょ?私が計算できればいいんだけど…そこも川崎さん頼りだからね」
「その数字が出てから本格的検討だが…競合の見積りが取れると一番いいのはいいよな。本来の「市場競争」」

美鳥と声が揃うと

「ははっ…お二人の専門でしたか?おはようございます」

遠藤がダイニングへ来た。

「朱鷺の専門でしたけど、私もずっと朱鷺のテキストも朱鷺の書くものも読んでいたので一通り勉強済みではあります」
「美鳥はCultural Studiesが専門」
「日本ではあまり馴染みがないですね」
「1960年代にイギリスで始まって、日本には90年代後半になって本格的に導入されたらしいですけど…難しい分野です。私、最終的な論文でCultural Studiesを批判的に書いたんですよね」
「それでも評価された?」
「多分…」
「何と書かれたか100文字以内で…」
「わっ、遠藤さん鬼教官だ…えっと…‘文化を語る’学問なので時として趣味性の自己肯定に陥りがち、あるいは逆に政治的社会的文脈を強調するあまりに…うーんと…反権力や抵抗の物語に回収されがちであるというような批判的文章でまとめました」

思い出しながらも分かりやすく説明できた美鳥に

「日本語、上達したな。今のはどっぷりと英語で考えて書いていたものだから難しかっただろ?」

頭をわしゃわしゃと撫でてやると

「あっ、出勤前に信じられないこと…朱鷺、責任とって私のプレート下げておいてね。ごちそうさまでした」

美鳥が走ってダイニングを出て行った。
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