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chapter※06※※※※※※※※※※

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ギャラリー内には展示用の棚もあったが、所々にアンティークのキャビネットが置かれ、その上に小物が展示されてもいるようだ。
キャビネットはどれも私の腰の位置よりも低いものですぐに、とても落ち着きある、外の春色とは全く異なった空間へといざなわれる。

ランプ、ペーパーウェイト、ジュエリーボックス、ミラー、ティースタンド、ティースプーン、ジャムディッシュ…どれにも魅せられ

「私…タイムトラベル中…」

ふと言葉が口を衝いたことに自分で驚き現在へと引き戻された私が龍を見ると

「おかえり、美鳥」

目が合った彼は私の肩を抱くようにしてから腕を撫でる。

「1800年代から1930年頃をさ迷ってただろ?帰って来なかったらどうして迎えに行こうかと考えていたところ」
「ただいま…」

そのあともずっと彼の手が私の腰に緩やかに添えられ、素敵なアンティーク雑貨を眺めながらもタイムトラベルまでは出来なかった。
恋人でなくてもイギリスやヨーロッパでは当たり前に男性が女性の腰に手を添えてドアを先に通してくれたり、道を誘導してくれたり…もちろんサラッと、いやらしさが含まれた触り方ではないので何とも思わないのだが…龍の手がいやらしいと言っているのではなく、さっきの頬のように触れている部分が熱を帯びる気がする。

予告のせいだよ…きっと。



「ただいま」
「ははっ、おかえりなさい。なかなかここで俺にただいまって言ってくれる人はいないな。すぐに珈琲淹れます」
「…間違えた?戻りました、だった?」

秋元オーナーに言われたのですぐに龍に確かめると

「間違えてないよ。ただ、ここで挨拶する人が少ないっていうだけじゃない?」
「うん、間違えたときはちゃんと教えてね」

大丈夫だとわかって安心する。

「日本語そんなに問題あるの?」
「いえ…全く大丈夫とは言いきれないです…ニュースはまだ訓練中です」
「ああ、そういう感じか。今ので大体レベルがわかった。柏木さん、可愛い彼女にちゃんと教えてあげないと」
「はい、聞き流せる程度ですけどね」
「ダメだよ。そうすると幼い日本語話者のままになっちゃうんだから、私の周りの人は皆ちゃんと教えるべきなの。成熟した日本語を使いたいもの」

私がそう言うと珈琲がふたつ目の前に置かれた。
それをひとつ私に渡しながら

「美鳥、訓練っていうのは主に体を動かすことに使うんだよ。だからリスニングに使うのはおかしい」
「そうなの?」
「避難訓練とか犬の訓練とは使うね」
「そうか…鍛えてるってことでいいかと思ってた」
「リスニング力を鍛える、というのは正しい。でも…説明しているうちに俺も不安になるなぁ。秋元さん、あってますか?」

教えてくれた龍がオーナーに聞いている。
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