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chapter※02※※※※※※※※※※※※※

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「まだお会いしていないのに、全く隙のない方とお見受けします…柏木龍之介様」
「そうだな。昨日の美鳥との立ったままの数分の挨拶を最大限読み取り、即、手を打つ…昨日の夕方のことで、このメールが午前中に届いているということは、柏木龍之介の手腕も誉めるべきだが何よりオークワイナリーと柏木家の統制が取れているということだ」
「左様でございます」
「俺から返信をする」
「もちろん出席ですね?美鳥様へは私が連絡を入れてスケジュール調整致します」

美鳥から転送されてきた柏木龍之介からのメールには、試飲会当日オークワイナリーからの参加者は代表取締役を含む全役員と、農園と工場の責任者だと書かれている。
一族を挙げて来られるとなると俺が出ない訳にはいかない。

「西田、当日遠藤も呼んで」
「かしこまりました。何らかのお取引が今後始まることを予想すれば、遠藤支配人にも最初から関わっていただいた方がよろしいですね」

こうして蜷川の仕事とNinagawaの仕事の区別がつきにくいのは好きではないが、うまく行けば大きな成功を収めるのもこういう時だ。

ここ北海道にはてこ入れが必要だ。
遠藤支配人から新しい支配人になるところもしばらく注視しないといけない。
数ヶ月後には海外のNinagawa Queen's Hotelの総支配人が一斉に日本に集う機会もある。
いつもながら忙しいな…

「西田」
「はい」
「蜷川当主代理の権限を美鳥が持つことについて、どう思う?」
「………その真意は?」

西田にしては珍しく一呼吸遅れた返答が質問か…

「真意なんて簡単だ。俺の任務の軽減」
「旦那様のご子息とお嬢様ですから問題ないと思います」

旦那様のご子息とお嬢様…兄妹だと世間に強調することになるか…

「しかし、美鳥様がご了承されるかはいささか不明ですね」

それもそうだ。
権限や権力を持つよりも人のサポートが得意な美鳥には苦痛なことかもしれない。

「今のはなかったことに」
「はい、朱鷺様がお忙しいことは重々承知しておりますから、いろいろお考えになるのも無理はありません。私も遠藤支配人にゆくゆくはバトンを渡しますが、それまでは一人の人員が増える訳です。彼は即戦力になると思いますのでその辺で分担をしていきましょう」
「そうだな」
「美鳥様は…きっとホテルの業務の方が向いていらっしゃる」

その通りだ。
忙し過ぎて、何を考えても美鳥に答えが行き着いたようだ。

意識的に思考を切り替え、この北海道の新ホテルに集中する。
宴会部門チーフの川崎さん…去年東京へ異動になったばかりだが、北海道へと打診してみるか。
彼女の返事次第であとの異動を考えることにする。

「少し出る」
「忙しいばかりではいけませんからね、どうぞ」

帰る前にもう一度ホテルの内外を歩いて回る。
各階から景色を確認するように眺め、人の動きに合わせて動く空間の揺れを感じ取る。
厨房を通り抜け、フロントを遠目に見つめて微かな空調の音を聞く。
車の出入りとスタッフの動きをボーッと見てから再び部屋に戻った。
あとほんの少しずつなんだよな…平々凡々と纏まりすぎなんだ、ここは。

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