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chapter※02※※※※※※
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広いフロントの隅に内線を掛けてくれた木戸さんを見つけると、彼女は私へ目礼してから視線を二人の男性へと送る。
その男性たちは木戸さんの視線に気づいたのだろう。
揃ってくるりと私の方へ体を向けると、また揃って一礼した。
私も彼らの前で立ち止まると腰を折ってから西田さんを思い出して言葉を発する。
「大変お待たせ致しました」
「こちらこそ、突然の不躾な訪問で申し訳ございません」
不躾…無礼、非礼、失礼ということね。
「オークワイナリー、柏木龍之介と申します」
差し出された名刺を受け取ると取締役専務と営業部長の肩書きが並んでいる。
「ありがとうございます。私、蜷川美鳥と申します。申し訳ありませんが本日社長は不在です」
「突然ですから…ただ仕事で近くにいる時に蜷川さんからのメールをいただきましたので、お二人にご挨拶をと思った次第です。ですから、蜷川さんにお会いできただけで十分です…どちらも蜷川さんですね」
ふと柔らかい表情に変わった柏木さんは
「試飲会の開催をご了承いただきありがとうございます」
とまた二人で礼をして
「こちら秘書の谷川道弘です」
と隣の男性を紹介してくれた。
谷川さんとも名刺を交換すると
「参加人数のご連絡ありがとうございました。準備の参考にさせていただきます」
「当日参加もオーケーだと社内では連絡してあるので増えるかもしれません。今日ご連絡したのが最低人数になると思います」
「ありがとうございます。蜷川社長はご参加いただけますでしょうか?」
そう聞かれたので、また西田さんを思い出して言葉を選ぶ。
「申し訳ありませんが、まだ未確定で何とも申し上げることができません」
◆◆◆◆
未確定か…
「それは多分…ご参加いただけないということでしょうか?」
蜷川朱鷺CEOの秘書だという蜷川美鳥。
蜷川当主の妹。
シンプルなブラックのパンツスーツをこの上なく綺麗に着こなして颯爽と現れた彼女が、ほんの一瞬言葉を探したのを感じて聞き直す。
「いえ…未確定の言葉通りです」
少し俺を睨んでる?
ヒールを履いても俺を見上げる彼女が僅かに厳しい視線を向けたようで…それがとてもチャーミングに思えた。
「すみません、少し意地悪な質問でした」
「…日本人は察することで会話が進んで会話が終了すると…そう聞いていたのでちょっと驚きました」
そう息をついた彼女は、右側に美しく編み下ろされた自分の長い髪に少し触れた。
普段はとても正直な物言いをするのだろうと推察した、その時
「美鳥さん」
フロントから奥へ入り人の邪魔にならないように立つ俺たちの方へ真っ直ぐ歩いてくる女性がいる。
「Who's she?Come on…」
呼ばれた蜷川美鳥の呟きは女性を思い出そうとしているようだ。
すると谷川が
「佐井友理奈、美容家」
と彼女に囁く。
「助かった…ありがとうございます」
「お話中、失礼致します。待たせて頂いても?」
佐井と谷川が言った女性は俺たち3人を見てお伺いを立てる。
チラッと蜷川さんを見るとタブレットを抱きしめ何かを考えているようだ。
蜷川さんは名前も覚えていなかったが相手は‘美鳥さん’…谷川も思うところがあったようで二人で視線を交わすと
「私どもはもう少し時間がかかると思いますので、お先にどうぞ」
と二人で半歩下がった。
「あら、レディファーストですか?では、遠慮なく失礼致します」
そう言った佐井は
「美鳥さん、イギリス以来ですから随分ご無沙汰しております。9年ほどになりますね。先日お送りしたメールに朱鷺でも美鳥さんからでもなく、別の方からの返信で大変驚きました」
流れるように一気に話した。
突っ込みどころがいろいろあると思うのだが、谷川は分かりやすく眉をひそめ、蜷川さんはじっと佐井を見つめている。
どうする?助け船を出してやろうか…と思ったとき
「申し訳ございませんが…9年も前ですと私が15歳の時です。どこかでお会いしましたか?」
蜷川さんは正直に話したようだった。
「まぁ…私は朱鷺と同い年ですので無理もありませんね」
蜷川当主を‘朱鷺’と呼ぶことに俺と谷川は違和感があるが15の時点でイギリスにいたという美鳥さんは何とも思わないのか?
その男性たちは木戸さんの視線に気づいたのだろう。
揃ってくるりと私の方へ体を向けると、また揃って一礼した。
私も彼らの前で立ち止まると腰を折ってから西田さんを思い出して言葉を発する。
「大変お待たせ致しました」
「こちらこそ、突然の不躾な訪問で申し訳ございません」
不躾…無礼、非礼、失礼ということね。
「オークワイナリー、柏木龍之介と申します」
差し出された名刺を受け取ると取締役専務と営業部長の肩書きが並んでいる。
「ありがとうございます。私、蜷川美鳥と申します。申し訳ありませんが本日社長は不在です」
「突然ですから…ただ仕事で近くにいる時に蜷川さんからのメールをいただきましたので、お二人にご挨拶をと思った次第です。ですから、蜷川さんにお会いできただけで十分です…どちらも蜷川さんですね」
ふと柔らかい表情に変わった柏木さんは
「試飲会の開催をご了承いただきありがとうございます」
とまた二人で礼をして
「こちら秘書の谷川道弘です」
と隣の男性を紹介してくれた。
谷川さんとも名刺を交換すると
「参加人数のご連絡ありがとうございました。準備の参考にさせていただきます」
「当日参加もオーケーだと社内では連絡してあるので増えるかもしれません。今日ご連絡したのが最低人数になると思います」
「ありがとうございます。蜷川社長はご参加いただけますでしょうか?」
そう聞かれたので、また西田さんを思い出して言葉を選ぶ。
「申し訳ありませんが、まだ未確定で何とも申し上げることができません」
◆◆◆◆
未確定か…
「それは多分…ご参加いただけないということでしょうか?」
蜷川朱鷺CEOの秘書だという蜷川美鳥。
蜷川当主の妹。
シンプルなブラックのパンツスーツをこの上なく綺麗に着こなして颯爽と現れた彼女が、ほんの一瞬言葉を探したのを感じて聞き直す。
「いえ…未確定の言葉通りです」
少し俺を睨んでる?
ヒールを履いても俺を見上げる彼女が僅かに厳しい視線を向けたようで…それがとてもチャーミングに思えた。
「すみません、少し意地悪な質問でした」
「…日本人は察することで会話が進んで会話が終了すると…そう聞いていたのでちょっと驚きました」
そう息をついた彼女は、右側に美しく編み下ろされた自分の長い髪に少し触れた。
普段はとても正直な物言いをするのだろうと推察した、その時
「美鳥さん」
フロントから奥へ入り人の邪魔にならないように立つ俺たちの方へ真っ直ぐ歩いてくる女性がいる。
「Who's she?Come on…」
呼ばれた蜷川美鳥の呟きは女性を思い出そうとしているようだ。
すると谷川が
「佐井友理奈、美容家」
と彼女に囁く。
「助かった…ありがとうございます」
「お話中、失礼致します。待たせて頂いても?」
佐井と谷川が言った女性は俺たち3人を見てお伺いを立てる。
チラッと蜷川さんを見るとタブレットを抱きしめ何かを考えているようだ。
蜷川さんは名前も覚えていなかったが相手は‘美鳥さん’…谷川も思うところがあったようで二人で視線を交わすと
「私どもはもう少し時間がかかると思いますので、お先にどうぞ」
と二人で半歩下がった。
「あら、レディファーストですか?では、遠慮なく失礼致します」
そう言った佐井は
「美鳥さん、イギリス以来ですから随分ご無沙汰しております。9年ほどになりますね。先日お送りしたメールに朱鷺でも美鳥さんからでもなく、別の方からの返信で大変驚きました」
流れるように一気に話した。
突っ込みどころがいろいろあると思うのだが、谷川は分かりやすく眉をひそめ、蜷川さんはじっと佐井を見つめている。
どうする?助け船を出してやろうか…と思ったとき
「申し訳ございませんが…9年も前ですと私が15歳の時です。どこかでお会いしましたか?」
蜷川さんは正直に話したようだった。
「まぁ…私は朱鷺と同い年ですので無理もありませんね」
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