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chapter※01※※

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朱鷺も西田さんも私に甘い。
西田さんの奥さんの冴子さんも西田さんと同じく私を蜷川のお嬢さま扱いをするという点では甘いが、時に厳しく接してくれるのがありがたい。

形ばかりのお嬢さまになったあと、幼い私の面倒を見てくれたのは冴子さんと6歳年上の朱鷺だ。

旦那様、朱鷺の父親は会えば可愛がってくれたし年がら年中お土産やプレゼントをくれたが、何しろ忙しくあちこちのNinagawa Queen's Hotelを飛び回っていたから毎日は会えない。
そしてその旦那様と西田さんは行動を共にしていた。

奥様、朱鷺の母親は私との接点のない人だった。
だが、様々なレセプションパーティーなどには必ず私のドレスを誂えて一緒に連れて行ってくれた。
奥様とプチお揃いに誂えられたドレス姿の私は注目の的だった。
大人ばかりの空間で奥様の後ろで着飾るだけ着飾り、ものも言わず微笑んで立っている女の子。
何ともシュールな光景に、時間とお金を持て余す人たちが群がる。
小さな時には何とも無かったが、8歳を目前にそのパーティーに拒絶反応を示してしまった…自分では無意識でわかっていなかったが…

次のパーティーのドレスを作ってもらい試着する際に、お腹が痛くなって下痢をする。
‘可愛いドレスよね?’と奥様に言われて‘はいっ’と元気よく言いながら首を横に振る。
冴子さんや朱鷺がそれに気づいて旦那様に報告したらしい。

すると、旦那様は奥様に私をパーティーに連れて行かないように伝えて下さりパーティーへは行かなくなったが、今度は奥様が私をキッズモデルに応募したらしい。
そこで盛大な夫妻喧嘩、朱鷺も混ざっていたらしいので家族喧嘩が勃発したという。

後で聞いた話では、何かにつけて派手なことが好きな奥様と、不器用なほど自らが動き回って働く旦那様とは、この喧嘩以前から折り合いが悪かったそうだ。

顔を合わせば喧嘩の絶えなくなった両親に、朱鷺は高校から海外の学校へ行くと宣言した。
それには朱鷺が蜷川次期当主であるという共通認識のもとで誰からも反対の声が上がらなかったが、私も一緒に連れて行くと朱鷺が言ったことで家族会議が開かれた。

朱鷺一人なら学校の宿舎に入ればいいが、当時私は小学生で朱鷺と一緒の学校へ行けるはずもない。
旦那様は奥様から私を離すことに賛成で、西田さん夫妻と私と朱鷺で生活するように手筈を整えた。
奥様は自由に連れて歩けない私に興味はないので、それならば海外へ行かせているという方が自分への世間の目が好意的だと計算して賛成だったと、後に奥様が蜷川を出た時に朱鷺から聞いた。

奥様が蜷川を出たのは私たちがイギリスへ行って3年目に入ってすぐのことだった。
奥様はパーティーなどで知り合った人たちに、彼らの事業をNinagawa Queen's Hotelで応援するなどと勝手な約束を取り付けてくるようになったらしい。
貴社から花を仕入れますよ、貴社製品に制服を変えますよ…など口約束と言えども蜷川当主の妻が言ってしまうので次々とトラブルになった。

夫婦喧嘩では済まなくなり、蜷川の役員会に掛けられる事態にまで発展したトラブルの結末として、旦那様は奥様が一生使用人を使ってでも遊んで暮らせるだけのお金を渡して離婚し、彼女に蜷川姓を名乗らないようにさせた。

その後旦那様は、失われた蜷川の信頼を取り戻すために奔走され、再び蜷川の名が揺るぎないものになったとき‘60歳で引退する’と役員会で告げた。
隠居にはまだ早いと誰もが思ったが、燃え尽き症候群の気配があったことも事実らしい。

こうして朱鷺が28歳という若さで蜷川の当主、及び、Ninagawa Queen's HotelのCEOとなった。
この時私は、自分が飛び級をしてすでに大学を卒業していたことを本当に良かったと思った。
そして、これまで様々な形で私のサポートをしてくれた朱鷺を生涯支えると決意し日本へ帰国したんだ。
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