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番外編:朱

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 ワインとつまみを用意して、ゆっくりと聞くことにする。

 俺たちが小さい時から、父さんと翼さんは二人揃ってゆっくり話を聞いてくれた。大きくなるにつれて、俺と香歩の二人で話をすることも増えたが‘お父さんに内緒ね’というようなことはない。

「別にね、義理チョコっていうのはイベントだからね、いいのよ。貰うことは、いいの。瑛人が何かやましいことをするはずもないし、去年も一昨年も一緒に食べたのよ?今年もそれでいいの。瑛人が悪いわけじゃないし」
「ゆっくり聞くとは言ったが…一向にそこから話が進まないから何も見えないんだが?」

 香歩は瑛人くんの女関係に疑惑を持っているのではなく、むしろ庇うような口調だ。

「まあ…喧嘩はしたが香歩が瑛人くんを責める気持ちはなく、自分が言い過ぎたとかって後悔している雰囲気は分かった。でもきっかけは?言い過ぎるきっかけになることがあっただろ?いくら香歩だって、ただ喧嘩をふっかけるわけじゃない」
「…今年は去年までと違うことが起こったの」
「それを言え」
「瑛人がチョコを受け取る現場を目撃したことと…」
「違うことが…複数起こったのか…」
「4つもらったチョコの中に、ひとつ手作りチョコがあったこと」

 義理チョコじゃねぇだろ、それ…受け取んなよ…香歩の気持ちを別にしても受け取ったら思わせ振りでややこしいだろうが。

「別にいいの…浮気したとか、そんなんじゃないしね。でも‘手作りチョコって受け取る?断れなかったの?’って言っちゃったの」
「香歩のそれは悪くないだろ。そう思って当然じゃないか?瑛人くんは何て?」
「‘手作りチョコは受け取れない’ってわざわざ言うと‘義理なのに本命と勘違いしないで’とかって笑われるよ…だって」

 そうか…香歩は今、この温度差にモヤモヤしているんだな。

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