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パトスへの光 5

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「アルコールを飲まない?」
「飲まない」
「ノンアルコールカクテルもあるけど、ジュースも避けたいですよね?」
「一番避けたい」

場違いな私の返事に兄は驚くこともなく

「グレープフルーツのフレッシュジュースを絞ってもらうか、炭酸レモン水はどうでしょう?」

と提案してくれる。

「グレープフルーツにする」
「ナッツは体にいいですね?」
「うん」

あとは兄に任せておけばいい。私は席からフロアを見渡し、たくさんの人がその場で肩を揺らし談笑し、手を取り合って自由にジャンプして大声で笑っている様子を眺める。たまに、ダンスのステップを練習している人もいる。友人と互いに見せ合ったり…ふふっ…曲が変わってリズムが変わると一気にめちゃくちゃになって笑い転げてる。で、諦めたのか1、2、3、4の4の音で高くジャンプするという動作を彼らが繰り返し始めると、それが周りに派生して、同じタイミングでジャンプや‘ハイッ’という掛け声がフロアで揃い始めた。

「アハハ…グラス持った人も器用だね」
「濡れても分からないくらいハイなんじゃないですか?」
「楽しそう」
「はい」
「…私は…ずっとダンスしてきたんだけど…」
「そうですね。極めたというレベルです」
「うん…でもその極めたはずのダンスにも…こういう…なんて言うんだろう…外側があるのかもしれないね…」

多くの人が一斉に声を上げてジャンプして空気を大きく揺らすのを感じながら、ふとビールの瓶に口をつけた兄と目が合う。

「私にはまだまだ知らないことがたっくさん…だね」
「楽しみがたくさんですね」

そうだね…楽しみがたくさん…

「お兄ちゃん、行く?私、ちょっと混じってくるよ」
「ごゆっくり。ここで見てます。緒方が来るかもしれないので」
「そうなの?」
「俺が出て来るのが珍しいので…たぶん」
「そっか、そっか」

そう言って立ち上がった時には、気分が少し上がっていて

「いってきます」

座ったままの兄に手を向けてハイタッチをしてから通路を渡り、フロアに立って自分のスペースを…

ん?これ…フロア素材が変わってる。

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