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黒い後ろ楯 9
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「成美と一緒に見てたんだよ…才花の世界大会は全部…」
「ぇ…だからロス?」
「ああ…それは…」
ぐいっと体を起こした父は
「最初に言ったロスでのダンスが一番好きというのは、純粋に私があのダンスが好きでね。素人目にも楽しい、あれは子どもと大人の絶妙なミックス具合だったと思うんだ。いま同じ振り付けで踊っても絶対にテイストは違う、あの年齢であの時の技術で完成された形…あれが一番好きなんだ」
と私を見る。
「しーちゃんも来てたんだけど…会った?しーちゃんは知ってますか?」
「彼女は私が才花の父親だと知らないから会っていない。こんな職業の人間に関わらない方がいい。成美も言ってないからね」
「そっか」
「茂美さんには感謝している。生活費なんかでは表せない感謝だね、これは」
「…生活費?私、この通帳をもらったの…」
私は持っていた小さなバッグから、私名義の通帳を父に見せた。
「これは才花の使う費用だね。生活費とは違うよ」
「ぇえ?どれだけ使ったの?私…少し返さないと…」
「当然のことをしただけだ。才花が衣食住に困らないようにする生活費は高校卒業までと決めてもう一通に入れて、ここへの入金も18歳が最後」
そうか…それが母の手紙にもある生活費で、その通帳はしーちゃんが持っていてくれたんだね。
「それが足りなくなって俺のところに来たんですよね?先に言っておくけど、全く責める気はないですから。それはここにいる誰もがそうです」
…っ…恥ずかしい、居たたまれない…
「才花、大丈夫だ。才花は悪くない。努力して才能の花を咲かせて、そしたら海外のあちこちに飛ばなきゃいけなくなって…親父さんが考えていたより、誰が考えていたよりも大きな舞台に上がっていて…才花以外の誰にもそこの計算が出来ないほどだっただけ」
「羅依の言う通りだね。私が悪かったんだよ。去年に続いて今年の出場だったから入金してやれば良かったんだ」
「だけど、お母さんが導いてくれたんじゃないですか?親父は4年ぶりに入金などして、才花さんを動揺させてはいけないと思った。才花さんが俺のところに登録に来たとき、すでに羅依からの依頼で俺は才花さんを調べていました。調べ始めてから才花さんが親父の娘だと…俺の妹だと気づいて親父に確かめました」
それまでは知らなかったのか…
「ぇ…だからロス?」
「ああ…それは…」
ぐいっと体を起こした父は
「最初に言ったロスでのダンスが一番好きというのは、純粋に私があのダンスが好きでね。素人目にも楽しい、あれは子どもと大人の絶妙なミックス具合だったと思うんだ。いま同じ振り付けで踊っても絶対にテイストは違う、あの年齢であの時の技術で完成された形…あれが一番好きなんだ」
と私を見る。
「しーちゃんも来てたんだけど…会った?しーちゃんは知ってますか?」
「彼女は私が才花の父親だと知らないから会っていない。こんな職業の人間に関わらない方がいい。成美も言ってないからね」
「そっか」
「茂美さんには感謝している。生活費なんかでは表せない感謝だね、これは」
「…生活費?私、この通帳をもらったの…」
私は持っていた小さなバッグから、私名義の通帳を父に見せた。
「これは才花の使う費用だね。生活費とは違うよ」
「ぇえ?どれだけ使ったの?私…少し返さないと…」
「当然のことをしただけだ。才花が衣食住に困らないようにする生活費は高校卒業までと決めてもう一通に入れて、ここへの入金も18歳が最後」
そうか…それが母の手紙にもある生活費で、その通帳はしーちゃんが持っていてくれたんだね。
「それが足りなくなって俺のところに来たんですよね?先に言っておくけど、全く責める気はないですから。それはここにいる誰もがそうです」
…っ…恥ずかしい、居たたまれない…
「才花、大丈夫だ。才花は悪くない。努力して才能の花を咲かせて、そしたら海外のあちこちに飛ばなきゃいけなくなって…親父さんが考えていたより、誰が考えていたよりも大きな舞台に上がっていて…才花以外の誰にもそこの計算が出来ないほどだっただけ」
「羅依の言う通りだね。私が悪かったんだよ。去年に続いて今年の出場だったから入金してやれば良かったんだ」
「だけど、お母さんが導いてくれたんじゃないですか?親父は4年ぶりに入金などして、才花さんを動揺させてはいけないと思った。才花さんが俺のところに登録に来たとき、すでに羅依からの依頼で俺は才花さんを調べていました。調べ始めてから才花さんが親父の娘だと…俺の妹だと気づいて親父に確かめました」
それまでは知らなかったのか…
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