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黒い後ろ楯 6
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「才花」
ボーッと突っ立っている私の手を一旦放した羅依が、私の腰に腕を回してゆっくりとソファーへと導く。手を引っ張ると、咄嗟の体重移動がうまく出来ないから配慮してくれたのだろう。
「私から話そうか?それとも、聞きたいことを何でも聞いてもらってもかまわないよ」
そんなに優しく言われたって、聞きたいこともわからない。聞きたいことが混ざり合ってぐちゃぐちゃに絡み合って吐き出せない。私が頭を横に振ると
「うん…何から話そうか…私が一番好きなのは、才花さんのロスでのダンスだとまず伝えようか」
小松さんが意外なことを口にしたので驚く。
「親父、その順番はおかしい」
「俺もそう思うよ。小松さんと一樹が自己紹介して父だ、兄だと名乗るのが普通じゃないの?」
「タク、二人に普通を求めるな」
普通じゃないんだ…羅依を見ると
「大丈夫だ、才花。何も心配ないし、何も変わらない」
彼は私の肩を抱き、その手で腕を擦った。
「私はね…反社会的と言われるところに昔からいてね。成美とは、うちが経営する店で知り合ったよ。彼女がジャズシンガーだったとは知っているかな?」
「…はい」
成美は母の名前だ。
「彼女の歌を聞いたことは?」
「ありません…」
「そう…私は彼女の歌う姿が好きでね。普段の静かさと歌う姿のパワフルさとのギャップが魅力的で…ステージで弾けるのは成美と才花の…才花さんの共通点だね」
照れたように視線を落とした人が続けた。
「一樹の母親とは離婚していたし、成美と一緒になることは可能だったけれど、この道へ道連れにすることは出来ないと…成美も結婚するつもりはない、そう言ったからね…私もずいぶんと考えたけれど、お腹の子が女の子だと聞いて…絶対に裏へは関わらない方がいい、そう思った」
それが私に父がいなかった理由。
「もう会わない方がいいと二人で決めて、最後に‘才花’と…勝手なことで申し訳ないが私が…才花、とまだ見ぬ子の名前をつけさせてもらった」
「…何かを後悔してますか?」
私が彼の組まれた手を見ながら聞くと
「いや、私のやり方を成美が認めてくれていたから後悔はない」
「母と…私が生まれたあと、一度も会っていませんか?」
「一度だけ会った。彼女の亡くなる1週間ほど前に、病室で会ったよ」
そう返ってきた。
「もう…それだけでいいんじゃないかな?」
私は前に座る父親を見ると
「後悔はないって言いながら、後悔か迷いかが感じられる…私ももっとどうすれば、ああすればって絶対に考えてしまうけれど、お母さんと二人で納得していたことならいいんじゃないかな。私は名前も気に入っているし、お金のことも…ずっと見たことない父親に感謝していました。長い間、たくさん…ありがとうございました」
座ったままお辞儀をした。
本当にありがとう。
ボーッと突っ立っている私の手を一旦放した羅依が、私の腰に腕を回してゆっくりとソファーへと導く。手を引っ張ると、咄嗟の体重移動がうまく出来ないから配慮してくれたのだろう。
「私から話そうか?それとも、聞きたいことを何でも聞いてもらってもかまわないよ」
そんなに優しく言われたって、聞きたいこともわからない。聞きたいことが混ざり合ってぐちゃぐちゃに絡み合って吐き出せない。私が頭を横に振ると
「うん…何から話そうか…私が一番好きなのは、才花さんのロスでのダンスだとまず伝えようか」
小松さんが意外なことを口にしたので驚く。
「親父、その順番はおかしい」
「俺もそう思うよ。小松さんと一樹が自己紹介して父だ、兄だと名乗るのが普通じゃないの?」
「タク、二人に普通を求めるな」
普通じゃないんだ…羅依を見ると
「大丈夫だ、才花。何も心配ないし、何も変わらない」
彼は私の肩を抱き、その手で腕を擦った。
「私はね…反社会的と言われるところに昔からいてね。成美とは、うちが経営する店で知り合ったよ。彼女がジャズシンガーだったとは知っているかな?」
「…はい」
成美は母の名前だ。
「彼女の歌を聞いたことは?」
「ありません…」
「そう…私は彼女の歌う姿が好きでね。普段の静かさと歌う姿のパワフルさとのギャップが魅力的で…ステージで弾けるのは成美と才花の…才花さんの共通点だね」
照れたように視線を落とした人が続けた。
「一樹の母親とは離婚していたし、成美と一緒になることは可能だったけれど、この道へ道連れにすることは出来ないと…成美も結婚するつもりはない、そう言ったからね…私もずいぶんと考えたけれど、お腹の子が女の子だと聞いて…絶対に裏へは関わらない方がいい、そう思った」
それが私に父がいなかった理由。
「もう会わない方がいいと二人で決めて、最後に‘才花’と…勝手なことで申し訳ないが私が…才花、とまだ見ぬ子の名前をつけさせてもらった」
「…何かを後悔してますか?」
私が彼の組まれた手を見ながら聞くと
「いや、私のやり方を成美が認めてくれていたから後悔はない」
「母と…私が生まれたあと、一度も会っていませんか?」
「一度だけ会った。彼女の亡くなる1週間ほど前に、病室で会ったよ」
そう返ってきた。
「もう…それだけでいいんじゃないかな?」
私は前に座る父親を見ると
「後悔はないって言いながら、後悔か迷いかが感じられる…私ももっとどうすれば、ああすればって絶対に考えてしまうけれど、お母さんと二人で納得していたことならいいんじゃないかな。私は名前も気に入っているし、お金のことも…ずっと見たことない父親に感謝していました。長い間、たくさん…ありがとうございました」
座ったままお辞儀をした。
本当にありがとう。
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