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文目も分かず 4
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「才花、話は俺がゆっくり聞いてやる」
止まったエレベーターから出て歩く足を止めないまま羅依がきっぱりと言い切った。
なぜ羅依が?
「さっきの二人が帰らないとゆっくり話が出来ないだろ?」
大きなガラスのドアを開けて、中庭のベンチへと座った羅依は私を自分の上に座らせて
「ここで空気を食え」
そう言って先程触れた後頭部の瘤を確かめるようにそっと撫でる。
「食いながら聞けよ」
おかしな言葉だと思ったけど、タクが普通に隣に座ったので小さく頷いておく。
「俺が分かることは、才花はケガをして入院中。病室を抜け出したいような気分。治療方針が未定。そして…心の痛みを通り越して‘どうでもいい’真っ只中」
ここまで一人で話をした羅依は私の頬を大きな手のひらで包み込むと、真っ直ぐに私を見た。
「才花ちゃん。俺たちと知り合いだとさっきの二人にちゃんと言ってくれるだけでいいよ。あとは俺と羅依に任せてくれれば悪いようにはしない。どうでもいい真っ只中の時はよく知った人より、そうでない人への方が気持ちを吐き出せるよ」
「親しい者を気遣って、泣くこと、喚くことも、八つ当たりも出来ないんじゃないのか?そんなことを全部吐き出さないと、先のことは考えられなくて当然だ」
羅依の言う通りだ…しーちゃんが先に泣いてたから私は泣けなかった。しーちゃんの気持ちがよく分かるから何も言えない。だから‘どうでもいい’と済ませている。
「…さっきの二人とはとても親しいというわけではないの。ただ私の…とても大切な…母のような人の家族…」
「そうか。その大切な人がいるから二人はここに来た。そして才花は二人の向こうに大切な人を見てる…分かった。戻るぞ」
私を抱えたままゆっくりと立ち上がった羅依は
「最後にもう一口食え」
と言う。よくわからないけど、言われたままスーっと鼻から空気を吸い込むと
「いい子だ」
彼は私の頭を自分の頭にもたれさせた。
「…あの夜は…」
彼が歩く振動を感じながら、顔が見えないから聞けるように思って口を開く。
「わからなかった…カフェで見る、サングラスと髭の姿は今日と同じですぐわかったけど…」
「こんな日が多い」
髭を全部剃っていたあの夜がレアだということか。そしてもう一度エレベーターに乗ったところで
「羅依とタクとはカフェの知り合いって言えばいい?」
私はしーちゃんにこれ以上負担を掛けるよりも、とりあえず羅依とタクに一時的に頼って、あとは一人でやっていくのがいいと考える。
「それでいいよ。はい、到着」
タクはボタンを押したままそう言うと
「病室に案内して」
と続けた。私は一番奥の個室を二人に教え、タクがスライドさせてくれた扉が開くと
「洋輔さん、香さん、お待たせしてごめんなさい」
窓際に立って外を見ていた洋輔さんと、椅子に座ってスマホを触っていた香さんにまず謝った。
止まったエレベーターから出て歩く足を止めないまま羅依がきっぱりと言い切った。
なぜ羅依が?
「さっきの二人が帰らないとゆっくり話が出来ないだろ?」
大きなガラスのドアを開けて、中庭のベンチへと座った羅依は私を自分の上に座らせて
「ここで空気を食え」
そう言って先程触れた後頭部の瘤を確かめるようにそっと撫でる。
「食いながら聞けよ」
おかしな言葉だと思ったけど、タクが普通に隣に座ったので小さく頷いておく。
「俺が分かることは、才花はケガをして入院中。病室を抜け出したいような気分。治療方針が未定。そして…心の痛みを通り越して‘どうでもいい’真っ只中」
ここまで一人で話をした羅依は私の頬を大きな手のひらで包み込むと、真っ直ぐに私を見た。
「才花ちゃん。俺たちと知り合いだとさっきの二人にちゃんと言ってくれるだけでいいよ。あとは俺と羅依に任せてくれれば悪いようにはしない。どうでもいい真っ只中の時はよく知った人より、そうでない人への方が気持ちを吐き出せるよ」
「親しい者を気遣って、泣くこと、喚くことも、八つ当たりも出来ないんじゃないのか?そんなことを全部吐き出さないと、先のことは考えられなくて当然だ」
羅依の言う通りだ…しーちゃんが先に泣いてたから私は泣けなかった。しーちゃんの気持ちがよく分かるから何も言えない。だから‘どうでもいい’と済ませている。
「…さっきの二人とはとても親しいというわけではないの。ただ私の…とても大切な…母のような人の家族…」
「そうか。その大切な人がいるから二人はここに来た。そして才花は二人の向こうに大切な人を見てる…分かった。戻るぞ」
私を抱えたままゆっくりと立ち上がった羅依は
「最後にもう一口食え」
と言う。よくわからないけど、言われたままスーっと鼻から空気を吸い込むと
「いい子だ」
彼は私の頭を自分の頭にもたれさせた。
「…あの夜は…」
彼が歩く振動を感じながら、顔が見えないから聞けるように思って口を開く。
「わからなかった…カフェで見る、サングラスと髭の姿は今日と同じですぐわかったけど…」
「こんな日が多い」
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私はしーちゃんにこれ以上負担を掛けるよりも、とりあえず羅依とタクに一時的に頼って、あとは一人でやっていくのがいいと考える。
「それでいいよ。はい、到着」
タクはボタンを押したままそう言うと
「病室に案内して」
と続けた。私は一番奥の個室を二人に教え、タクがスライドさせてくれた扉が開くと
「洋輔さん、香さん、お待たせしてごめんなさい」
窓際に立って外を見ていた洋輔さんと、椅子に座ってスマホを触っていた香さんにまず謝った。
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