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夢をみる 4

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男の引き締まった身体にはスーツも似合うだろう。動きを見ていると、姿勢と体幹がいいと感じるからきっと何らかのトレーニングをしているはず。

視線を交わしながらも男の体のことが思い浮かぶのは、私自身が自分の体のバランスがとても気になるからであって、男の体に特別な興味がある訳ではない。スクールでも男女関係なく、美しい筋肉は日々見ているからね。

「はい…失礼な確認をして申し訳ありません」
「ここにいるということは金がいるんだろ?でも、わからない金を掴むのは嫌」
「はい」
「はっきりしていて俺好みだ」
「…そうですか…生理的に無理な人が来なくて良かったですね」

もうこれ以上話する必要はない。

「迎えが来ますので失礼します。ありがとうございました」

立ち上がって、ステージのように深くお辞儀をすると、上体を起こした時には男に優しく抱きしめられていた。

男は私の頭をそっと抱えて抱き寄せ、まだ湿っている髪を小さく撫で…何か言うのかと待ったけれど何も言わない。

「ぁの…」
「ん、送る」

送る?今抱きしめながら半分寝ていたの?寝ぼけてる?

バスローブ姿で私の手首を握って玄関まで歩く男の形のいい耳を見ながら、右耳にピアスホールが2個って私と同じだな、と思う。そしてバスローブで送るって、玄関までのことだったのかと理解して、寝ぼけてると思ってごめんなさいと心の中で謝った。

が、

カチャ…

ん?出るのは私なんですが…

「履けたか?」

手首を握ったままの男がかかとのないスリッポンを履いてドアを開けたので、思わず立ち止まった私は普通の感覚だと思う。でももう話をするつもりはないし、下には迎えが来ているからいいやと思ってドアから出た。そしてすぐ目の前にあるエレベーターのボタンを押した男が

「ここまでだな。1階までどこにも止まらないから大丈夫だ」

私の手首を引き寄せると軽く抱きしめてからエレベーターに乗せてくれた。そういうことか、と理解した時には扉が閉まりきる寸前で慌てて頭を下げる。

来た時には緊張していて気づかなかったけど、最上階のワンフロア全てが男の部屋で直通のエレベーターは最上階と1階と地下にしか止まらないのだろう。だから、あそこまでバスローブで出ようが、全裸で出ようが問題ないのだと思う。

「お疲れ様でした。どうぞ」
「ありがとうございます。追加で頂いた分のうち、どれだけをお渡しすればいいでしょうか?」
「全部取っておいてもらって大丈夫です」

お迎えの人はそう言うけれど、この人も1時間延長のはずでいくらか渡さないといけないと思うのだけれど。

「本当に大丈夫ですから取っておいて下さい。ご自宅まで送ります」
「…お願いします…」


私、大島才花おおしまさいかはプロダンサーとして活動はしていないけれど、アルバイト程度の仕事は受けることがある。プロになった知り合いも多い。だから芸能人と繋がりのある人も多く、そういう人たちからこの仕事を伝え聞いたのだが…まあいいか、もう二度と登録することはない。

「ありがとうございました」
「お疲れ様でした」

これで終わりだ。車から降りてハイツという名前の古いアパートの2階への階段を音を立てないように上がり、バッグから手探りで鍵を取り出しながらアパート前を見下ろすとまだ車は止まっている。次のお迎え待ちだろうか?
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