さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

side Masamune 8

　俺の物も選び終わりカードを片桐に渡し、直す必要のないものだけ持ち帰ると伝える。ふと見ると綸はまだメンズの…ネクタイか？を熱心に見ている。

「まだ良いのあったか？」
「正宗のはね、存分に選べた。どれも素敵だと思うよ」
「で、これは？」

　青みのあるグレーのネクタイを手にしているのを指して聞く。

「これ鈍色にびいろというんだと思うの…無地だけど素材がよくて上品に光って風格があると思わない？お父さんへプレゼントしようと思って…どうかな？」
「いらない」
「どうして？私、お父さんに美味しいもの食べに連れて行ってもらったり、このバッグも買ってもらったし何かお返ししたいな」
「親父が好きでしてるんだ、返す必要ない」
「そう…」

　綸はそっとネクタイを元に戻しバッグをきゅっと握り直した。しまった…親父にしょうもない嫉妬して、いつも綸に何でも好きにしていいと言っているのに否定してしまった。それも強く。

「綸、悪い」

　彼女を抱きしめ背中を擦り、ごめん…と小さく耳元で言う。

「俺が親父に嫉妬しただけ…お前が家族を大切にしてくれるのに酷いこと言って悪かった。しかも…このネクタイ悔しいくらい……親父に似合いそうだ」
「私は正宗が嫌がることはしたくない。お父さんへのお返しは別の形で考えるから無理しなくていいよ、大丈夫」

　ああ……綸の大丈夫…久しぶりに聞いたか？大丈夫じゃないやつだ。

　いらないと俺が言っても彼女はきちんと自分の考えを言えたのに…やっと言えるようになったのに…完全に今のは俺が否定し我慢させてしまった。