さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

第十話 6

「ヨウ」

　姐さんの声がすると同時に美男子が反応し、聞きなれない音と振動を感じた。

　すぐに周りの黒スーツの怒声が入り乱れ立ち上がって何か言っているが言葉が重なり過ぎてわからない。

　嗅ぎ慣れない臭いもするが、組長さんと斜め後ろの男性は表情を変えず、私と正宗も動きもしない。それを見て姐さんとヨウと呼ばれた男が驚愕の表情を浮かべる。

　動かない私たちを黒スーツたちが取り囲むように立ったようで少し電気が遮られる。小さく正宗を呼んでみると

「ん？」

　いつも通りの返事があり

「皆さん座ってって言ってもいい？それかもう帰る？」

　小声が聞こえてしまったのか黒スーツが座り始め、クスクス笑う人もいる。

「あなた…何でそんなに普通にしてられるの？銃を向けられ発砲されたら普通は脅えるでしょ…」
「…銃ですか…わからなかったです…すみません」

　なるほど私の20センチほど先で畳が黒くなっている。

「で、何でそんなに普通なの？銃と聞いて脅えないの？顔色ひとつ変わらないなんて狂ってるわ」
「はぁ…」

「若と二人身動ぎひとつせずお似合いです」
「先生がずっと‘わしは綸ちゃん気に入ったで’と言っておられたのがわかります」

　周りの黒スーツたちが口々に言い始めた……

　身動ぎひとつしなかったか…本当に銃なんて認識してなかっただけだが、まあいいか。銃と聞いた後も脅えは特にない。一度捨てた命だもの…ここで絶えるならそれが運命でしょ？私の命、請うほどのものではない。