さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

第五話 8

　厨房の方たちと仲居さんたちが、うまく合間を作りお握りを食べるのを横目に返ってきた皿を片付けていると鞠子さんに呼ばれた。自宅に手を引かれながら忙しい時に申し訳ないなと思う。

「綸ちゃん…高須さんに綸ちゃんが此処にいるだろって聞かれたの。知らないって言ったんだけど…もう調べてわかっているから会わせて欲しいって」

　眉を下げて申し訳なさそうに言う彼女に深く頭を下げた。

「ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
「綸ちゃん大丈夫？危害を加えそうな雰囲気ではなかったけど」
「それは大丈夫です…でもここは離れる事になると思います」
「そう…よかったら今夜話を聞くわ。とにかく今、高須さんは旅館から海岸への入口で待ってるって」

　もう一度鞠子さんに深く頭を下げてから海岸入口へ向かうと、まず潤と駿が目に入りその奥で正宗と航平が話しているのが見える。

　私が砂を踏む音に4人が一斉にこちらを向き

「綸」

　正宗の艶のある声が聞こえると同時に彼の腕にすっぽりと包まれた。

　彼は何を言うでもなくただ私をきつく抱きしめ、その隣を航平が

「今夜は必ず母さんと俺の家に帰ってきて、綸ちゃん。高須さんもお願いします」

　そう言い旅館へ戻って行った。

　もう逃げる訳には行かないが、こんなところまで来る意味も理解できず話をするしかないと海岸に降りる階段に並んで座る。潤たちは少し離れて待っているようだった。

　暗い海を見ていると、これだけ距離があっても吸い込まれそうな気がするな…