77 / 284
成長期と成長痛 12
しおりを挟む
「みんな、耳のイヤホンはどうして?」
車を降りて、ふと気になったことを聞いてみる。
「ん、これ着けてみろ」
悠仁が片方のイヤホンを私の耳に着けると
‘ただいま玖未ちゃんがインカムテスト中’
という右京の声が聞こえたあと
‘玖未、喋ってみろ’
姿が見えない津川さんの声がする。
「喋ってみろって…このままでいいの?」
「ん、これ押すからいいぞ」
悠仁が手の中で何か押して頷くので、とりあえず
「…よろしくお願いします?」
組員さんが着けてるのかな?と思いそう言うと
‘お疲れさまです’‘お願いします’‘1階問題ありません’
とか聞こえてきたので慌てて自分の耳から外して悠仁の耳に突っ込んだ。大事な連絡があったら大変だもの。
「玖未さん、上着は要りませんか?」
「大丈夫、ありがと」
ライトグレーの薄手ニットワンピースはすとんと着るシンプルなものだが、袖はキャンディースリーブでちょっと甘い感じが可愛い。自分だったら選ばなかったかもしれないけれど、袖口にゴムが入っているのは腕まくりをしてもずり落ちにくいから可愛いだけでなく便利だと気に入った。
そのワンピースの上から黒いポシェットポーチを斜め掛けにして、黒いショートブーツを履いている。全身黒ではないのが珍しいと舞花に言われるかな。
「手…繋いだまま行くの?」
「抱っこがいいか?」
「…わざと言ってるの?」
「心から聞いてる。玖未のやりたいようにやるだけ」
2階部分の駐車場から店内に入って1階のパンケーキ屋さんを目指すのだが、悠仁と普通に手を繋いでいていいのか…と思う。
「ゆーじんの説明に部屋の説明。結果…最終的に俺と付き合っていると言うなら最初から言った方が話が楽じゃねぇか?」
「そうだね、うん」
「玖未の右手と俺の左手も繋いでみたい」
「何か…特別なことじゃないけど…かんどー」
「玖未が照れた」
「…」
「めちゃくちゃ可愛い」
「…」
「さすが俺の玖未」
「…あ、あそこ…まだ来てないね」
「俺と待つ時間が増えたな」
そう言って待ち合わせの場所まで到着すると、悠仁は自分の右胸に私の背中が当たるように半分後ろから抱き抱えて右腕を私にぐるりと回した。
私はそれを恥ずかしいと思う間もない。なぜなら、通路の向こう側や隣の店の前に立つ人の中に知った顔を見つけてはペコリと頭を下げるのに忙しいから。集団ストーカー時代に見たことがあるから組員さんだろうと思って目が合うとペコリ…ペコリ…悠仁は何をしてる、と聞くこともなかった。
車を降りて、ふと気になったことを聞いてみる。
「ん、これ着けてみろ」
悠仁が片方のイヤホンを私の耳に着けると
‘ただいま玖未ちゃんがインカムテスト中’
という右京の声が聞こえたあと
‘玖未、喋ってみろ’
姿が見えない津川さんの声がする。
「喋ってみろって…このままでいいの?」
「ん、これ押すからいいぞ」
悠仁が手の中で何か押して頷くので、とりあえず
「…よろしくお願いします?」
組員さんが着けてるのかな?と思いそう言うと
‘お疲れさまです’‘お願いします’‘1階問題ありません’
とか聞こえてきたので慌てて自分の耳から外して悠仁の耳に突っ込んだ。大事な連絡があったら大変だもの。
「玖未さん、上着は要りませんか?」
「大丈夫、ありがと」
ライトグレーの薄手ニットワンピースはすとんと着るシンプルなものだが、袖はキャンディースリーブでちょっと甘い感じが可愛い。自分だったら選ばなかったかもしれないけれど、袖口にゴムが入っているのは腕まくりをしてもずり落ちにくいから可愛いだけでなく便利だと気に入った。
そのワンピースの上から黒いポシェットポーチを斜め掛けにして、黒いショートブーツを履いている。全身黒ではないのが珍しいと舞花に言われるかな。
「手…繋いだまま行くの?」
「抱っこがいいか?」
「…わざと言ってるの?」
「心から聞いてる。玖未のやりたいようにやるだけ」
2階部分の駐車場から店内に入って1階のパンケーキ屋さんを目指すのだが、悠仁と普通に手を繋いでいていいのか…と思う。
「ゆーじんの説明に部屋の説明。結果…最終的に俺と付き合っていると言うなら最初から言った方が話が楽じゃねぇか?」
「そうだね、うん」
「玖未の右手と俺の左手も繋いでみたい」
「何か…特別なことじゃないけど…かんどー」
「玖未が照れた」
「…」
「めちゃくちゃ可愛い」
「…」
「さすが俺の玖未」
「…あ、あそこ…まだ来てないね」
「俺と待つ時間が増えたな」
そう言って待ち合わせの場所まで到着すると、悠仁は自分の右胸に私の背中が当たるように半分後ろから抱き抱えて右腕を私にぐるりと回した。
私はそれを恥ずかしいと思う間もない。なぜなら、通路の向こう側や隣の店の前に立つ人の中に知った顔を見つけてはペコリと頭を下げるのに忙しいから。集団ストーカー時代に見たことがあるから組員さんだろうと思って目が合うとペコリ…ペコリ…悠仁は何をしてる、と聞くこともなかった。
100
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる