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差し響く 12

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「玖未…気がついてるか?」
「…」
「起きているけど一言も話さないのよ。めちゃくちゃ警戒されたまま、最低限の治療しか終わってないの。打ち身だって時間が経つほど変色もひどくなるのに」
「玖未」

目を閉じて仰向けに寝ている玖未は、カンガルーポケットのついたピンクベージュのワンピースに着替えている。

「痛むところは?あるだろう?」

擦れて赤くなった頬を手のひらで包み込むと

「手当てをしないと…こうやって」

ゆっくりと伝える。

「顎は?これ、縫ったのか?」
「そんな傷はないけれど、右手薬指はヒビね、きっと。ここでレントゲンは撮れないけど動きと腫れからおそらく」
「玖未、固定はされてるがレントゲンは明日連れて行く」

俺が手のひらはそのままにそう言うと、玖未が僅かに首を横に振った。

「行きたくないのか?」

コクン…微妙な動きだ…

「玖未…それ、頭が痛いんだろ?動かすぞ」

俺はベッドに腰を掛けると、玖未の背中に手を回し上体を太ももに乗せるようにして頭を浮かせた。

「頭、後ろ打ったか?」

俺がそう聞く間に、灰谷妹が手袋をパチン、とはめる音がすると玖未の体に力が入る。

「全員出てくれ。俺が玖未と話をしたい」

いろいろな人間を見てきた者たちばかりだ。

灰谷兄妹も野沢も、後ろから覗いていた右京も何も言わずに静かに出て行った。

「ん、玖未。何でもいい…言ってみろ」

そっと後頭部に手のひらを当て、傷を探るわけではなく手当てをする。

しばらく身動きひとつしない玖未の体温と呼吸だけを感じ、待つ。

「…ここ…どこ?」
「俺のマンション内の医者の部屋」
「…」
「説明もなしで悪かった。信頼出来る兄妹だ」

ゆっくりと目を開いた玖未はいつもの眼差しで俺を見る。

「ん、玖未が正しい。信頼出来るかどうか…それを決めるのは俺じゃねぇ、玖未だな」

そう言った俺を見る玖未の瞳が一瞬だけ揺れた。

初めてじゃねぇか?いい傾向だと信じたい。
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