彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

まぁ

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生い立ちと成り立ち 2

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玖未のことは表からも裏からも調べ、2日後の夜、屋敷のリビングで答え合わせをする。

俺と野沢、右京が待つところへ裏からの結果を持って来たのは大西だ。

大西は俺よりひとつ年上だが、高校1年でダブって俺と右京と一緒に卒業している。俺と近い組員で、この屋敷内でも俺たちと組員側の意志疎通、指示の徹底に余念がない信頼出来る男だ。

「両方、内容が同じですね」

がっしりとした体格とギャップのある声で大西が言うと

「内容に間違いないってことか…キッツいな」

右京が髪をガシガシッと両手で掻く。

「白とか黒の話よりも深い部分ですからね。これは…ゲンさんの口ぶりではヤクザが嫌いという風でしたけど、この借金取りは組とは関係ない者ですね」
「余計にタチが悪い奴らですよね」

野沢と大西の言う通りだ。俺もやったことはあるし、ドラマでも債権者自らが取り立てに向かうらしいが、大抵は債権者から依頼された業者が取り立てを行う。その‘業者’というのが幅広いわけで、その辺のチンピラの場合が一番タチが悪い。

「この親なら…いっそのこと居ない方が、ずっと施設生活の方が安心して、心身の安定を持って暮らせると大人は思いますけど子どもはどうでしょうね」
「野沢さん、ほんとそれですよ…報告を読むよりも周りの者が見ていたよりも玖未さん気持ちは日々ぐらぐらと複雑ですよ、これは」
「大西、この中山舞花も調べろ」
「分かりました。今も数ヶ月に一度は会っている唯一の友のようですね」

頷きながら、すぐに大西は出て行き

「野沢、ここんとこの詳細、もう少し調べてくれ」

玖未の父親が死んで、玖未は相続放棄、高校中退…ここはもう少し詳しく知りたい。

「そうですね。玖未さんが未成年でしたから、代理人の名前が施設長の息子、日野貴明となっていますけど彼のことも含めて調べます」

そう指示してから

「繁華街」

23時を過ぎたので昨日は見ていない玖未の元へ向かう。

「「お疲れ様です」」

玄関を出ようとすると、ちょうど親父が帰って来たので野沢と右京が頭を下げた。

「悠仁、昨日今日と忙しそうだな」

親父がチラッと俺を見てから、わざとらしく目を細めた。俺が女を調べていると耳にしたということだろう。

「ああ、今もだ」
「囲うのか?」
「いや、真っ直ぐ玖未だけだ」
「クミってのか。そんな女なら俺にも報告書を回せ。あとは…悠仁はもちろんだが、右京と野沢も周りの女に気をつけろ」
「「はい」」

野沢と右京がもう一度頭を下げ、親父と親父付きの古原こはら桝井ますいの3人を見送る。

「野沢は大丈夫だが、右京」
「はぁい、了解、承知、分かってます。大丈夫だ、悠仁。俺、出来る子だから」

右京が俺の右肩をポンポンと叩いてにかっと笑った。俺たちに寄ってくる女をつまみ食いすることがある右京だが、年々減ってはいる。本人曰く

「悠仁最優先、次に親父さんってなると自分の女は3番手なわけ。組が3番手で女は4番手かもしれない。それで100%満足させられるのは金と体で満足する女だよな?そこの‘加減’を確かめてんだよ」

だ。だが、俺も親父もそれを否定した。一番になる女がいてもかまわないと右京に伝えたんだが

「無理。俺は悠仁最優先、悠仁が一番。ここ、須藤が好き。絶対にそれを否定しないで…親父さんでも俺、怒るよ?」

すでに怒った形相を浮かべた右京の想いを俺と親父は受け入れた。いつもの軽さを封印して右京が怒る、マジでキレると手がつけられない。だから本気の女などいない方が幸せなのかもしれない。



外で待つことが分かっていたので、一昨日と違ってコートのポケットのカイロで手を温め、マフラーまでした俺たちがまるの裏で待っていると、0時過ぎに玖未だけが出て来た。

「送る」
「…結構です」
「ダメだ」
「………」
「歩いていいぞ。勝手に心配してるだけだ」
「………」
「後ろを歩く」

俺がそう言うと、ハァーっと心底嫌そうなため息を吐きゆっくりと周りを見た玖未が

「…オープンな………開き直り集団ストーカーですか?」

俺を真っ直ぐ見上げた。

「ふっ…新種のストーカーだな。明日からそう名乗るかどうか、あとで相談しておく」

キツイ視線にぞくぞくしながら、思わずその目尻に指を伸ばすと…パンッ…

「触らないで」

玖未の手が思い切り俺の手を払い除けた。1歩離れている右京が反応するのを野沢が止めているのが視界の隅に入る。

「悪い。今のは玖未の手首が痛いだろ?骨と骨が当たってる」

痛いに違いない手首を、カイロで温めた手で掴むと

「放して」
「手当て中だ。寒い…歩けよ」

玖未は諦めたように歩き始めた。

今夜はここが難しい…俺たちが彼女のアパートを知っているようには歩けないから、大西を筆頭に組員が慎重に前方を警戒しているのだ。
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