彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

まぁ

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生い立ちと成り立ち 1

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私の生い立ちを‘非常に不幸だ’と言った人がいる。

無駄に長い夜をもて余し、いつもより長く湯船に浸かりながら、そんなことを思い出すのは借金の取り立てを思い出したからだね。

とにかくだらしない父だったのだ。仕事は続かず、お酒と女が好きという風に説明するしかない人だ。

母はさっさと父を見切り、私を施設に預けて消えた。

だけど、父は仕事を見つけては私を迎えに来る。ずいぶん大きくなってから気づいたのだが、きっと小さな子の父親っていうのも女の人へのアピールポイントにしていたのではないだろうか。

ボロアパートに出入りする女の人がご飯を食べさせてくれることもあったんだけど、それが何人もの人っていうのは不思議だった。でも一人の可愛いお姉さんは言ったんだ。

「彼はすっごくモテるよ?口でうまいこと言っているだけだって分かっていても惹き付けられるくらいカッコいいのよ。危険な感じとルーズさと危うさと…まあ、大人にしかわからないこともあるしね」

私には全然理解出来なかったけれど、危険な感じっていうのは父の右の二の腕に巻き付いてる蛇のことかな?とか思っていた。

結局、私は‘ずーっと’というのが大袈裟ではないほど、ボロアパートと施設を行ったり来たりする生活をしていた。

ボロアパートには借金取りも来れば、女の人も来る。

どちらも怖い時には外に逃げる。暗くなっても出来るだけ長く外にいる。

公園やコンビニにじっとしていると通報されてしまうことは学んだから、周囲の大人に怪しまれないように目的があるフリの動きで移動する。

疲れ果てるか、あまりにも深夜でもう怪しまれるとなると帰るのだが、私がいないのをいいことにボロアパートでは大人の夜…いや…狂った獣の夜が終わっていないことがある。

そうなると私の夜はボロアパートの外階段で、永遠にも思えるのだ。


そんな私を何度も目撃する近所の人も、何度も施設で迎える人も‘非常に不幸だ’と言った。


そんな中で‘玖未は幸せではないかもだけど、不幸だとは思わない’と言ったのは舞花という施設での友達だ。普通ではない生活をしている私に学校で友達になってくれる子はいなかったけれど、舞花とは10歳くらいのときに友達になった。

舞花は生まれた時から施設育ちらしく、その施設の閉園という理由で私が何度も出入りする施設へとやって来た。

「やっぱり親の顔は知ってる方が幸せな気がする。それに迎えに来てくれるっていうのは憧れるから」

施設のブランコに二人乗りしながらそう言っていた舞花は、小学校卒業と同時に特別養子縁組が決まり‘中山舞花’となって施設を出て行った。

でも彼女の新しい家が、ギリギリ私の中学校区と同じだったことはラッキーだった。

私は相変わらずボロアパートと施設の生活をしながらも舞花とは会えることで、遅刻常習犯ではあったが何とか学校には行けた。もちろん、同じクラスでない年もあれば、舞花には友達が出来ていくのも見ていたけれど、それでも彼女は私を避けることはなく廊下で会えば話はするし、帰りに会って高校の話をすることもあった。


あっつ…長風呂は脱水と肌の乾燥に注意だと教えてくれたのは、舞花だったと思い出しながら、お風呂から上がると水を飲み、ハンドクリームを体に塗る。ボディクリームなんて持ってないけれどハンドクリームは年中使っているから…同じ保湿成分のはずで問題なし。
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