9 / 284
生い立ちと成り立ち 1
しおりを挟む
私の生い立ちを‘非常に不幸だ’と言った人がいる。
無駄に長い夜をもて余し、いつもより長く湯船に浸かりながら、そんなことを思い出すのは借金の取り立てを思い出したからだね。
とにかくだらしない父だったのだ。仕事は続かず、お酒と女が好きという風に説明するしかない人だ。
母はさっさと父を見切り、私を施設に預けて消えた。
だけど、父は仕事を見つけては私を迎えに来る。ずいぶん大きくなってから気づいたのだが、きっと小さな子の父親っていうのも女の人へのアピールポイントにしていたのではないだろうか。
ボロアパートに出入りする女の人がご飯を食べさせてくれることもあったんだけど、それが何人もの人っていうのは不思議だった。でも一人の可愛いお姉さんは言ったんだ。
「彼はすっごくモテるよ?口でうまいこと言っているだけだって分かっていても惹き付けられるくらいカッコいいのよ。危険な感じとルーズさと危うさと…まあ、大人にしかわからないこともあるしね」
私には全然理解出来なかったけれど、危険な感じっていうのは父の右の二の腕に巻き付いてる蛇のことかな?とか思っていた。
結局、私は‘ずーっと’というのが大袈裟ではないほど、ボロアパートと施設を行ったり来たりする生活をしていた。
ボロアパートには借金取りも来れば、女の人も来る。
どちらも怖い時には外に逃げる。暗くなっても出来るだけ長く外にいる。
公園やコンビニにじっとしていると通報されてしまうことは学んだから、周囲の大人に怪しまれないように目的があるフリの動きで移動する。
疲れ果てるか、あまりにも深夜でもう怪しまれるとなると帰るのだが、私がいないのをいいことにボロアパートでは大人の夜…いや…狂った獣の夜が終わっていないことがある。
そうなると私の夜はボロアパートの外階段で、永遠にも思えるのだ。
そんな私を何度も目撃する近所の人も、何度も施設で迎える人も‘非常に不幸だ’と言った。
そんな中で‘玖未は幸せではないかもだけど、不幸だとは思わない’と言ったのは舞花という施設での友達だ。普通ではない生活をしている私に学校で友達になってくれる子はいなかったけれど、舞花とは10歳くらいのときに友達になった。
舞花は生まれた時から施設育ちらしく、その施設の閉園という理由で私が何度も出入りする施設へとやって来た。
「やっぱり親の顔は知ってる方が幸せな気がする。それに迎えに来てくれるっていうのは憧れるから」
施設のブランコに二人乗りしながらそう言っていた舞花は、小学校卒業と同時に特別養子縁組が決まり‘中山舞花’となって施設を出て行った。
でも彼女の新しい家が、ギリギリ私の中学校区と同じだったことはラッキーだった。
私は相変わらずボロアパートと施設の生活をしながらも舞花とは会えることで、遅刻常習犯ではあったが何とか学校には行けた。もちろん、同じクラスでない年もあれば、舞花には友達が出来ていくのも見ていたけれど、それでも彼女は私を避けることはなく廊下で会えば話はするし、帰りに会って高校の話をすることもあった。
あっつ…長風呂は脱水と肌の乾燥に注意だと教えてくれたのは、舞花だったと思い出しながら、お風呂から上がると水を飲み、ハンドクリームを体に塗る。ボディクリームなんて持ってないけれどハンドクリームは年中使っているから…同じ保湿成分のはずで問題なし。
無駄に長い夜をもて余し、いつもより長く湯船に浸かりながら、そんなことを思い出すのは借金の取り立てを思い出したからだね。
とにかくだらしない父だったのだ。仕事は続かず、お酒と女が好きという風に説明するしかない人だ。
母はさっさと父を見切り、私を施設に預けて消えた。
だけど、父は仕事を見つけては私を迎えに来る。ずいぶん大きくなってから気づいたのだが、きっと小さな子の父親っていうのも女の人へのアピールポイントにしていたのではないだろうか。
ボロアパートに出入りする女の人がご飯を食べさせてくれることもあったんだけど、それが何人もの人っていうのは不思議だった。でも一人の可愛いお姉さんは言ったんだ。
「彼はすっごくモテるよ?口でうまいこと言っているだけだって分かっていても惹き付けられるくらいカッコいいのよ。危険な感じとルーズさと危うさと…まあ、大人にしかわからないこともあるしね」
私には全然理解出来なかったけれど、危険な感じっていうのは父の右の二の腕に巻き付いてる蛇のことかな?とか思っていた。
結局、私は‘ずーっと’というのが大袈裟ではないほど、ボロアパートと施設を行ったり来たりする生活をしていた。
ボロアパートには借金取りも来れば、女の人も来る。
どちらも怖い時には外に逃げる。暗くなっても出来るだけ長く外にいる。
公園やコンビニにじっとしていると通報されてしまうことは学んだから、周囲の大人に怪しまれないように目的があるフリの動きで移動する。
疲れ果てるか、あまりにも深夜でもう怪しまれるとなると帰るのだが、私がいないのをいいことにボロアパートでは大人の夜…いや…狂った獣の夜が終わっていないことがある。
そうなると私の夜はボロアパートの外階段で、永遠にも思えるのだ。
そんな私を何度も目撃する近所の人も、何度も施設で迎える人も‘非常に不幸だ’と言った。
そんな中で‘玖未は幸せではないかもだけど、不幸だとは思わない’と言ったのは舞花という施設での友達だ。普通ではない生活をしている私に学校で友達になってくれる子はいなかったけれど、舞花とは10歳くらいのときに友達になった。
舞花は生まれた時から施設育ちらしく、その施設の閉園という理由で私が何度も出入りする施設へとやって来た。
「やっぱり親の顔は知ってる方が幸せな気がする。それに迎えに来てくれるっていうのは憧れるから」
施設のブランコに二人乗りしながらそう言っていた舞花は、小学校卒業と同時に特別養子縁組が決まり‘中山舞花’となって施設を出て行った。
でも彼女の新しい家が、ギリギリ私の中学校区と同じだったことはラッキーだった。
私は相変わらずボロアパートと施設の生活をしながらも舞花とは会えることで、遅刻常習犯ではあったが何とか学校には行けた。もちろん、同じクラスでない年もあれば、舞花には友達が出来ていくのも見ていたけれど、それでも彼女は私を避けることはなく廊下で会えば話はするし、帰りに会って高校の話をすることもあった。
あっつ…長風呂は脱水と肌の乾燥に注意だと教えてくれたのは、舞花だったと思い出しながら、お風呂から上がると水を飲み、ハンドクリームを体に塗る。ボディクリームなんて持ってないけれどハンドクリームは年中使っているから…同じ保湿成分のはずで問題なし。
103
お気に入りに追加
257
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる