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策を弄する 4
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「そんなに作るの?ってか…それ、サンドイッチだよね?」
洗った大葉を食べやすくザクッと切り、レタスをちぎる私にガセキラースマイルイケメンが聞いてくる。見えてるならいいよね…分かるでしょ…
‘和風サンドイッチ’と電話で注文があったので、熱湯をかけて水気をきり酒を混ぜ合わせたちりめんじゃこに卵、塩、こしょうを混ぜ合わせて、ごま油で薄いオムレツを焼いた。マヨネーズに数滴の醤油を落としたものをパンに塗りオムレツと大葉、レタスを挟んでカットする。
このあとゲンさんと私も食べるために、まとめて作ったのだ。
「それ、俺もくれ。うまそうだ。ビールも」
ご注文なら仕方ない。私たちが食べる分は何かまた作ろう。
ワイルドイケメンにサンドイッチとビールを出して、持ち帰り二人分を箱に詰めていると
「はろー」「いらっしゃいました~」
裏のショーパブでニューハーフショーを終えたお姉さんたち4人が来られた。勝手に語られた話では手術の有無が皆さん混在しているらしいので、まとめて‘お姉さん’と呼ぶ。
「きゃーっ、若さま~」「オーナー、おはようございますぅ」
「あたしシャワーして来てないわ…困るぅ」
口々に言いながら、一人がメガネイケメンの腕に絡みついたところで
「7人全員まとめて他所へ行け。2分以内に出てくれ」
静かなゲンさんの声が場を制した。私がキッチンタイマーを2分にセットして、ピッとスタートさせると
「ぇ…マジなの?」
ガセキラースマイルイケメンの声がするが、マジだ。まるではうるさいお客さんによくやる方法だよ。
若様もイケメン様も関係なく、ここではゲンさんが一番だ。皆、それを分かっているから言われた通りに出て行く。メガネイケメンが息子さんだと言った人の分までまとめて支払いを済ませ、ワイルドイケメンはサンドイッチを一切れ片手に
「また来る」
と出て行く。それには、ピッピッピッピッ…タイマー音が応えたようだった。
「こんばんは~出来てますか?」
しばらくしてからやって来た、向かいのレンタルスペースビルのお兄さんが、何だかそそくさと引き戸を閉めるとカウンターに手をついて
「この辺り何かあったの?若さんも組員も何人かいたんだけど…」
ゲンさんに聞いている。
「見回りじゃないのか?」
「うちには来てないけど…今からかなぁ?」
向かいのビルも須藤組の物なのか…大きな会社だね。
「繁華街の入り口にいられちゃ、奥の店まで人が進みにくいんじゃないかなぁ?あ、玖未ちゃん、袋はいらない。そのままちょうだい、すぐに食べるよ」
お兄さんはカウンターに2000円を置くと、箱をふたつ手に持って帰って行く。そのあとパラパラと来るお客さんたちも、皆が
「若さんがいたけど…?」
と首を傾げていた。
「見回りじゃないのか?どこにいる?」
「店へは回ってないらしいですよ、うちにも来られてないですし。この前から見えるんじゃないですかね?すぐ近くで私は見ました」
一人の女性に聞いたゲンさんは、手が空いた時に私を店の奥へ呼んだ。
「まだ、ただの予測の域だが…玖未を送るだの言いそうな奴だ。どうする?」
こんなことは初めてではないので、ゲンさんの‘どうする?’は二択だ。ゲンさんに送ってもらうか、ちょっとずつ帰る時間をずらすか…
「もちろん玖未が望んで送られるのなら、それでいい」
ゲンさんがそう付け加えるのも何度目かだ。
「ああいう類いの人とお友達になる気はありません」
「ヤクザは玖未の好みでないか?」
「…そうですね…取り立てに来ていた人たちのイメージもあるので」
「そうか」
「今日はちょっと早く出てみます」
私がそう言うとゲンさんは頷きながら店へ戻る。
それから私は、時計とお客さんの数を見比べながら、清掃と明日の仕込みの出来るだけを営業時間中に同時進行させる。
そして11:40、ゲンさんに目を合わせるだけで奥に下がるとエプロンを取ってコートに腕を通す。はぁ…こんなに早く帰ると、いつもより1時間以上も長い夜を過ごすことになるじゃないか。
静かに裏から店を出ていつもの道を歩きながら、私が子どもの頃に何度かアパートに来ていた借金の取り立てのことを思い出す。情緒不安定なのかと思うくらい、とびきり優しい声と恐ろしい声のふたつの音色を使う人たちだったなぁ…子ども心に‘私のおうちは取らないで’と思っていたことは覚えている。その‘おうち’がただの借り物だったとも知らない子どもの頃の記憶だ。
洗った大葉を食べやすくザクッと切り、レタスをちぎる私にガセキラースマイルイケメンが聞いてくる。見えてるならいいよね…分かるでしょ…
‘和風サンドイッチ’と電話で注文があったので、熱湯をかけて水気をきり酒を混ぜ合わせたちりめんじゃこに卵、塩、こしょうを混ぜ合わせて、ごま油で薄いオムレツを焼いた。マヨネーズに数滴の醤油を落としたものをパンに塗りオムレツと大葉、レタスを挟んでカットする。
このあとゲンさんと私も食べるために、まとめて作ったのだ。
「それ、俺もくれ。うまそうだ。ビールも」
ご注文なら仕方ない。私たちが食べる分は何かまた作ろう。
ワイルドイケメンにサンドイッチとビールを出して、持ち帰り二人分を箱に詰めていると
「はろー」「いらっしゃいました~」
裏のショーパブでニューハーフショーを終えたお姉さんたち4人が来られた。勝手に語られた話では手術の有無が皆さん混在しているらしいので、まとめて‘お姉さん’と呼ぶ。
「きゃーっ、若さま~」「オーナー、おはようございますぅ」
「あたしシャワーして来てないわ…困るぅ」
口々に言いながら、一人がメガネイケメンの腕に絡みついたところで
「7人全員まとめて他所へ行け。2分以内に出てくれ」
静かなゲンさんの声が場を制した。私がキッチンタイマーを2分にセットして、ピッとスタートさせると
「ぇ…マジなの?」
ガセキラースマイルイケメンの声がするが、マジだ。まるではうるさいお客さんによくやる方法だよ。
若様もイケメン様も関係なく、ここではゲンさんが一番だ。皆、それを分かっているから言われた通りに出て行く。メガネイケメンが息子さんだと言った人の分までまとめて支払いを済ませ、ワイルドイケメンはサンドイッチを一切れ片手に
「また来る」
と出て行く。それには、ピッピッピッピッ…タイマー音が応えたようだった。
「こんばんは~出来てますか?」
しばらくしてからやって来た、向かいのレンタルスペースビルのお兄さんが、何だかそそくさと引き戸を閉めるとカウンターに手をついて
「この辺り何かあったの?若さんも組員も何人かいたんだけど…」
ゲンさんに聞いている。
「見回りじゃないのか?」
「うちには来てないけど…今からかなぁ?」
向かいのビルも須藤組の物なのか…大きな会社だね。
「繁華街の入り口にいられちゃ、奥の店まで人が進みにくいんじゃないかなぁ?あ、玖未ちゃん、袋はいらない。そのままちょうだい、すぐに食べるよ」
お兄さんはカウンターに2000円を置くと、箱をふたつ手に持って帰って行く。そのあとパラパラと来るお客さんたちも、皆が
「若さんがいたけど…?」
と首を傾げていた。
「見回りじゃないのか?どこにいる?」
「店へは回ってないらしいですよ、うちにも来られてないですし。この前から見えるんじゃないですかね?すぐ近くで私は見ました」
一人の女性に聞いたゲンさんは、手が空いた時に私を店の奥へ呼んだ。
「まだ、ただの予測の域だが…玖未を送るだの言いそうな奴だ。どうする?」
こんなことは初めてではないので、ゲンさんの‘どうする?’は二択だ。ゲンさんに送ってもらうか、ちょっとずつ帰る時間をずらすか…
「もちろん玖未が望んで送られるのなら、それでいい」
ゲンさんがそう付け加えるのも何度目かだ。
「ああいう類いの人とお友達になる気はありません」
「ヤクザは玖未の好みでないか?」
「…そうですね…取り立てに来ていた人たちのイメージもあるので」
「そうか」
「今日はちょっと早く出てみます」
私がそう言うとゲンさんは頷きながら店へ戻る。
それから私は、時計とお客さんの数を見比べながら、清掃と明日の仕込みの出来るだけを営業時間中に同時進行させる。
そして11:40、ゲンさんに目を合わせるだけで奥に下がるとエプロンを取ってコートに腕を通す。はぁ…こんなに早く帰ると、いつもより1時間以上も長い夜を過ごすことになるじゃないか。
静かに裏から店を出ていつもの道を歩きながら、私が子どもの頃に何度かアパートに来ていた借金の取り立てのことを思い出す。情緒不安定なのかと思うくらい、とびきり優しい声と恐ろしい声のふたつの音色を使う人たちだったなぁ…子ども心に‘私のおうちは取らないで’と思っていたことは覚えている。その‘おうち’がただの借り物だったとも知らない子どもの頃の記憶だ。
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