7 / 284
策を弄する 4
しおりを挟む
「そんなに作るの?ってか…それ、サンドイッチだよね?」
洗った大葉を食べやすくザクッと切り、レタスをちぎる私にガセキラースマイルイケメンが聞いてくる。見えてるならいいよね…分かるでしょ…
‘和風サンドイッチ’と電話で注文があったので、熱湯をかけて水気をきり酒を混ぜ合わせたちりめんじゃこに卵、塩、こしょうを混ぜ合わせて、ごま油で薄いオムレツを焼いた。マヨネーズに数滴の醤油を落としたものをパンに塗りオムレツと大葉、レタスを挟んでカットする。
このあとゲンさんと私も食べるために、まとめて作ったのだ。
「それ、俺もくれ。うまそうだ。ビールも」
ご注文なら仕方ない。私たちが食べる分は何かまた作ろう。
ワイルドイケメンにサンドイッチとビールを出して、持ち帰り二人分を箱に詰めていると
「はろー」「いらっしゃいました~」
裏のショーパブでニューハーフショーを終えたお姉さんたち4人が来られた。勝手に語られた話では手術の有無が皆さん混在しているらしいので、まとめて‘お姉さん’と呼ぶ。
「きゃーっ、若さま~」「オーナー、おはようございますぅ」
「あたしシャワーして来てないわ…困るぅ」
口々に言いながら、一人がメガネイケメンの腕に絡みついたところで
「7人全員まとめて他所へ行け。2分以内に出てくれ」
静かなゲンさんの声が場を制した。私がキッチンタイマーを2分にセットして、ピッとスタートさせると
「ぇ…マジなの?」
ガセキラースマイルイケメンの声がするが、マジだ。まるではうるさいお客さんによくやる方法だよ。
若様もイケメン様も関係なく、ここではゲンさんが一番だ。皆、それを分かっているから言われた通りに出て行く。メガネイケメンが息子さんだと言った人の分までまとめて支払いを済ませ、ワイルドイケメンはサンドイッチを一切れ片手に
「また来る」
と出て行く。それには、ピッピッピッピッ…タイマー音が応えたようだった。
「こんばんは~出来てますか?」
しばらくしてからやって来た、向かいのレンタルスペースビルのお兄さんが、何だかそそくさと引き戸を閉めるとカウンターに手をついて
「この辺り何かあったの?若さんも組員も何人かいたんだけど…」
ゲンさんに聞いている。
「見回りじゃないのか?」
「うちには来てないけど…今からかなぁ?」
向かいのビルも須藤組の物なのか…大きな会社だね。
「繁華街の入り口にいられちゃ、奥の店まで人が進みにくいんじゃないかなぁ?あ、玖未ちゃん、袋はいらない。そのままちょうだい、すぐに食べるよ」
お兄さんはカウンターに2000円を置くと、箱をふたつ手に持って帰って行く。そのあとパラパラと来るお客さんたちも、皆が
「若さんがいたけど…?」
と首を傾げていた。
「見回りじゃないのか?どこにいる?」
「店へは回ってないらしいですよ、うちにも来られてないですし。この前から見えるんじゃないですかね?すぐ近くで私は見ました」
一人の女性に聞いたゲンさんは、手が空いた時に私を店の奥へ呼んだ。
「まだ、ただの予測の域だが…玖未を送るだの言いそうな奴だ。どうする?」
こんなことは初めてではないので、ゲンさんの‘どうする?’は二択だ。ゲンさんに送ってもらうか、ちょっとずつ帰る時間をずらすか…
「もちろん玖未が望んで送られるのなら、それでいい」
ゲンさんがそう付け加えるのも何度目かだ。
「ああいう類いの人とお友達になる気はありません」
「ヤクザは玖未の好みでないか?」
「…そうですね…取り立てに来ていた人たちのイメージもあるので」
「そうか」
「今日はちょっと早く出てみます」
私がそう言うとゲンさんは頷きながら店へ戻る。
それから私は、時計とお客さんの数を見比べながら、清掃と明日の仕込みの出来るだけを営業時間中に同時進行させる。
そして11:40、ゲンさんに目を合わせるだけで奥に下がるとエプロンを取ってコートに腕を通す。はぁ…こんなに早く帰ると、いつもより1時間以上も長い夜を過ごすことになるじゃないか。
静かに裏から店を出ていつもの道を歩きながら、私が子どもの頃に何度かアパートに来ていた借金の取り立てのことを思い出す。情緒不安定なのかと思うくらい、とびきり優しい声と恐ろしい声のふたつの音色を使う人たちだったなぁ…子ども心に‘私のおうちは取らないで’と思っていたことは覚えている。その‘おうち’がただの借り物だったとも知らない子どもの頃の記憶だ。
洗った大葉を食べやすくザクッと切り、レタスをちぎる私にガセキラースマイルイケメンが聞いてくる。見えてるならいいよね…分かるでしょ…
‘和風サンドイッチ’と電話で注文があったので、熱湯をかけて水気をきり酒を混ぜ合わせたちりめんじゃこに卵、塩、こしょうを混ぜ合わせて、ごま油で薄いオムレツを焼いた。マヨネーズに数滴の醤油を落としたものをパンに塗りオムレツと大葉、レタスを挟んでカットする。
このあとゲンさんと私も食べるために、まとめて作ったのだ。
「それ、俺もくれ。うまそうだ。ビールも」
ご注文なら仕方ない。私たちが食べる分は何かまた作ろう。
ワイルドイケメンにサンドイッチとビールを出して、持ち帰り二人分を箱に詰めていると
「はろー」「いらっしゃいました~」
裏のショーパブでニューハーフショーを終えたお姉さんたち4人が来られた。勝手に語られた話では手術の有無が皆さん混在しているらしいので、まとめて‘お姉さん’と呼ぶ。
「きゃーっ、若さま~」「オーナー、おはようございますぅ」
「あたしシャワーして来てないわ…困るぅ」
口々に言いながら、一人がメガネイケメンの腕に絡みついたところで
「7人全員まとめて他所へ行け。2分以内に出てくれ」
静かなゲンさんの声が場を制した。私がキッチンタイマーを2分にセットして、ピッとスタートさせると
「ぇ…マジなの?」
ガセキラースマイルイケメンの声がするが、マジだ。まるではうるさいお客さんによくやる方法だよ。
若様もイケメン様も関係なく、ここではゲンさんが一番だ。皆、それを分かっているから言われた通りに出て行く。メガネイケメンが息子さんだと言った人の分までまとめて支払いを済ませ、ワイルドイケメンはサンドイッチを一切れ片手に
「また来る」
と出て行く。それには、ピッピッピッピッ…タイマー音が応えたようだった。
「こんばんは~出来てますか?」
しばらくしてからやって来た、向かいのレンタルスペースビルのお兄さんが、何だかそそくさと引き戸を閉めるとカウンターに手をついて
「この辺り何かあったの?若さんも組員も何人かいたんだけど…」
ゲンさんに聞いている。
「見回りじゃないのか?」
「うちには来てないけど…今からかなぁ?」
向かいのビルも須藤組の物なのか…大きな会社だね。
「繁華街の入り口にいられちゃ、奥の店まで人が進みにくいんじゃないかなぁ?あ、玖未ちゃん、袋はいらない。そのままちょうだい、すぐに食べるよ」
お兄さんはカウンターに2000円を置くと、箱をふたつ手に持って帰って行く。そのあとパラパラと来るお客さんたちも、皆が
「若さんがいたけど…?」
と首を傾げていた。
「見回りじゃないのか?どこにいる?」
「店へは回ってないらしいですよ、うちにも来られてないですし。この前から見えるんじゃないですかね?すぐ近くで私は見ました」
一人の女性に聞いたゲンさんは、手が空いた時に私を店の奥へ呼んだ。
「まだ、ただの予測の域だが…玖未を送るだの言いそうな奴だ。どうする?」
こんなことは初めてではないので、ゲンさんの‘どうする?’は二択だ。ゲンさんに送ってもらうか、ちょっとずつ帰る時間をずらすか…
「もちろん玖未が望んで送られるのなら、それでいい」
ゲンさんがそう付け加えるのも何度目かだ。
「ああいう類いの人とお友達になる気はありません」
「ヤクザは玖未の好みでないか?」
「…そうですね…取り立てに来ていた人たちのイメージもあるので」
「そうか」
「今日はちょっと早く出てみます」
私がそう言うとゲンさんは頷きながら店へ戻る。
それから私は、時計とお客さんの数を見比べながら、清掃と明日の仕込みの出来るだけを営業時間中に同時進行させる。
そして11:40、ゲンさんに目を合わせるだけで奥に下がるとエプロンを取ってコートに腕を通す。はぁ…こんなに早く帰ると、いつもより1時間以上も長い夜を過ごすことになるじゃないか。
静かに裏から店を出ていつもの道を歩きながら、私が子どもの頃に何度かアパートに来ていた借金の取り立てのことを思い出す。情緒不安定なのかと思うくらい、とびきり優しい声と恐ろしい声のふたつの音色を使う人たちだったなぁ…子ども心に‘私のおうちは取らないで’と思っていたことは覚えている。その‘おうち’がただの借り物だったとも知らない子どもの頃の記憶だ。
103
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる