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part 11-16

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タバコの臭いがするのは藤堂の車じゃないっ。

龍之介がタバコを吸わないだけでなく、お父さんも吸わないらしい。そしてお母さんがタバコの臭いを嫌うので藤堂の車でタバコを吸う人はいないと聞いている。

「キャ…ッ…った…ぃ…」

後ろから伊坂さんに押し上げられ、中から女性に手を引っ張られて、自分で足を上げなかったから向こう脛を強打してシートに倒れ込む。エプロンのポケットからスマホがシートの下に落ち、私の足を押し退けるように乗り込んで来た伊坂さんがそれを拾う間にも車が動き始める。

「それ、追跡されるでしょ?」

女性が言い終わらないうちに、伊坂さんが窓を小さく開けてポトリと私のスマホを外へ落とした。

「座ってください」

伊坂さんが言うけれど、言われなくても座るよ。状況が全くわからないのは一番不安だもの。

起き上がりながら後ろの三列目のシートに目をやると誰もいない。座る時に右隣になる女性を見て

「…カフェバーにいた人?」

と思い出す。

「あははは~そうですぅ。過去形で正解…ムカつく」

声の最初と最後でトーンが違い過ぎて怖いこの人は、カフェバーで私が龍之介と話した時に睨んでいた人。

龍之介の会計と分かっていながら私に請求したからクビだと聞いた。

その腹いせ?

「…伊坂さんは…この人…お友達ですか?」
「お友達ではないです」

私を見ることなく黒い窓から外を見たまま伊坂さんが言ったとき、タバコの煙が運転席から流れて来た。

「…誰?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」
「何処に?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」

サングラスに丸刈りの運転席の男には見覚えがない。聞いても男は喋らないのか、女が酔っぱらいみたいに同じことを言う。

「伊坂さん」

返事はなかったけれど、窓の外を見たままの伊坂さんに声を掛ける。喋らないと嫌な心臓の音に気が狂いそうだ。

「龍之介のケガは…ウソですか?」
「どっちがいいですか?」
「…どっちって…どういう意味?」
「若がケガをして病院に向かっている途中、それともケガはウソで自分が連れ去られる。どっちがいいですか?」
「どっちも嫌に決まってるでしょ…何を言ってるの…伊坂さん…?」
「つまらない答えだったぁ~」

右隣の女の声がやけに大きく耳に届き不快だ。
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