113 / 224
part 11-16
しおりを挟む
タバコの臭いがするのは藤堂の車じゃないっ。
龍之介がタバコを吸わないだけでなく、お父さんも吸わないらしい。そしてお母さんがタバコの臭いを嫌うので藤堂の車でタバコを吸う人はいないと聞いている。
「キャ…ッ…った…ぃ…」
後ろから伊坂さんに押し上げられ、中から女性に手を引っ張られて、自分で足を上げなかったから向こう脛を強打してシートに倒れ込む。エプロンのポケットからスマホがシートの下に落ち、私の足を押し退けるように乗り込んで来た伊坂さんがそれを拾う間にも車が動き始める。
「それ、追跡されるでしょ?」
女性が言い終わらないうちに、伊坂さんが窓を小さく開けてポトリと私のスマホを外へ落とした。
「座ってください」
伊坂さんが言うけれど、言われなくても座るよ。状況が全くわからないのは一番不安だもの。
起き上がりながら後ろの三列目のシートに目をやると誰もいない。座る時に右隣になる女性を見て
「…カフェバーにいた人?」
と思い出す。
「あははは~そうですぅ。過去形で正解…ムカつく」
声の最初と最後でトーンが違い過ぎて怖いこの人は、カフェバーで私が龍之介と話した時に睨んでいた人。
龍之介の会計と分かっていながら私に請求したからクビだと聞いた。
その腹いせ?
「…伊坂さんは…この人…お友達ですか?」
「お友達ではないです」
私を見ることなく黒い窓から外を見たまま伊坂さんが言ったとき、タバコの煙が運転席から流れて来た。
「…誰?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」
「何処に?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」
サングラスに丸刈りの運転席の男には見覚えがない。聞いても男は喋らないのか、女が酔っぱらいみたいに同じことを言う。
「伊坂さん」
返事はなかったけれど、窓の外を見たままの伊坂さんに声を掛ける。喋らないと嫌な心臓の音に気が狂いそうだ。
「龍之介のケガは…ウソですか?」
「どっちがいいですか?」
「…どっちって…どういう意味?」
「若がケガをして病院に向かっている途中、それともケガはウソで自分が連れ去られる。どっちがいいですか?」
「どっちも嫌に決まってるでしょ…何を言ってるの…伊坂さん…?」
「つまらない答えだったぁ~」
右隣の女の声がやけに大きく耳に届き不快だ。
龍之介がタバコを吸わないだけでなく、お父さんも吸わないらしい。そしてお母さんがタバコの臭いを嫌うので藤堂の車でタバコを吸う人はいないと聞いている。
「キャ…ッ…った…ぃ…」
後ろから伊坂さんに押し上げられ、中から女性に手を引っ張られて、自分で足を上げなかったから向こう脛を強打してシートに倒れ込む。エプロンのポケットからスマホがシートの下に落ち、私の足を押し退けるように乗り込んで来た伊坂さんがそれを拾う間にも車が動き始める。
「それ、追跡されるでしょ?」
女性が言い終わらないうちに、伊坂さんが窓を小さく開けてポトリと私のスマホを外へ落とした。
「座ってください」
伊坂さんが言うけれど、言われなくても座るよ。状況が全くわからないのは一番不安だもの。
起き上がりながら後ろの三列目のシートに目をやると誰もいない。座る時に右隣になる女性を見て
「…カフェバーにいた人?」
と思い出す。
「あははは~そうですぅ。過去形で正解…ムカつく」
声の最初と最後でトーンが違い過ぎて怖いこの人は、カフェバーで私が龍之介と話した時に睨んでいた人。
龍之介の会計と分かっていながら私に請求したからクビだと聞いた。
その腹いせ?
「…伊坂さんは…この人…お友達ですか?」
「お友達ではないです」
私を見ることなく黒い窓から外を見たまま伊坂さんが言ったとき、タバコの煙が運転席から流れて来た。
「…誰?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」
「何処に?」
「言ってもアンタにはわからないわよ。すぐに着くから黙ってて」
サングラスに丸刈りの運転席の男には見覚えがない。聞いても男は喋らないのか、女が酔っぱらいみたいに同じことを言う。
「伊坂さん」
返事はなかったけれど、窓の外を見たままの伊坂さんに声を掛ける。喋らないと嫌な心臓の音に気が狂いそうだ。
「龍之介のケガは…ウソですか?」
「どっちがいいですか?」
「…どっちって…どういう意味?」
「若がケガをして病院に向かっている途中、それともケガはウソで自分が連れ去られる。どっちがいいですか?」
「どっちも嫌に決まってるでしょ…何を言ってるの…伊坂さん…?」
「つまらない答えだったぁ~」
右隣の女の声がやけに大きく耳に届き不快だ。
52
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる