上 下
83 / 224

part 9-4

しおりを挟む
そのままソファーに優しく押し倒され

「ちょ…っ…と…待って、待ってっ…」

かろうじて両腕を彼の胸に突っ張る。

「ん?」
「……ゆっくり“ん?”って…ふふっ…こっちはドキドキなんだけど…」
「俺も紗栄子にドキドキする」

わぁ、ちょっと待って。そのバリトンはお腹がきゅっとなる。

「じゃなくって…待ってっ」
「いつまで?」
「私ご飯…作ってたんだけど?」
「…食うか…じゃないと紗栄子が朝までもたねぇな…」

そう言った彼は私の腕を引っ張り

「今は…キスもヤバいな…止められない自信がある」

と一緒に立たせた。

「今夜は待たない。いいな?」

両手で私の頬を覆った彼は

「眠れない夜になる。しっかり食えよ」

ペロッ…私の上唇を舌先でほんの少しだけ舐めた。



「私達はこれで」
「ぇ…夕食…一緒じゃないの?」

表のリビングには、すっかり帰り支度を済ませた福嶋兄弟と芦田さんがいて、福嶋さんが龍之介に頭を下げた。

「紗栄ちゃん、龍とゆっくり夕食デートすればいいよ」
「……いっぱい作ってしまった…」
「皆、食って帰れ」
「若、よろしいのですか?」
「芦田も紗栄子の買い物を見てただろ?その成果だからな」
「それはそうですね。まだまだ慣れないスーパーでの買い物の割に、キッチンではずっと手を動かしておられたので、楽しみにいただいて帰ります」

なんだかハードルが上がった気もしたけれど、作れるものには限りがあるから慌てても仕方がない。

「紗栄ちゃん、今日のメニューは?運ぶものは?」

舞生さんは手伝うとは言わない。自他ともに料理が得意でないと自覚しているから。

「今から春巻きを揚げるの。あとは出来てる」
「ヤッタ、ボク春巻き好き。じゃあ、こっちの運ぶね」
「お願いします」

出来てるのは、炒り豆腐、ワカメと野菜の中華サラダ、ナスの味噌炒め。舞生さんが運んでくれると、飲み物を何にするかと相談が始まったようだったけど、龍之介は

「俺は酒はいらねぇ」

と今夜は飲まないらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完結】側妃になってそれからのこと

まるねこ
恋愛
私の名前はカーナ。一応アルナ国の第二側妃。執務後に第一側妃のマイア様とお茶をするのが日課なの。 正妃が働かない分、側妃に執務が回ってくるのは致し方ない。そして今日もマイア様とお茶をしている時にそれは起きた。 第二側妃の私の話。 ※正妃や側妃の話です。純愛話では無いので人によっては不快に感じるかも知れません。Uターンをお願いします。 なろう小説、カクヨムにも投稿中。 直接的な物は避けていますがR15指定です。 Copyright©︎2021-まるねこ

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...