43 / 57
part 5-7
しおりを挟む
「転けて捻っちゃったけど大丈夫。大袈裟に固めてあるから動かしづらいだけで痛くないし」
「そう、ビックリするわ」
「ごめん、ごめん。ご飯は?」
「昨日は食べたけど…」
「みかん、食べる?一緒に売店に行ってヨーグルトとか買う?」
「そうね…そんなの持って外で食べようかしら」
珍しいことを言われると、嬉しい反面ドキッとする。
「じゃあ、着替えてお化粧する?」
「それもいいわね。準備だけでお昼になりそう」
「お昼のピクニックでいいんじゃない?」
この部屋の中ではゆっくりと自分で動ける母に出来るだけ自分で着替えもお化粧もしてもらう。
そして部屋の入り口にある車椅子に母を乗せて、トートバッグにみかんを入れて売店を目指す。
「あら、上村さん、お出掛け?素敵なストールですね」
「外でおやつを、と思って」
「それはいいですねぇ、中庭より表のイチョウの樹の下が涼しいかもしれませんよ?」
母が着替えたことに気づいて声を掛けてくれたスタッフさんに教えてもらったので、イチョウの樹の下に行くことにする。敷地内のあちこちにベンチがあるから座るところには困らない。
売店での買い物も二人で一緒というのは久しぶりだから私が嬉しい。
足首は動きが不自由で歩きづらいけれど、車椅子を押すのはもたれ掛かるように歩けて楽な気もする。右膝の方が痛むなぁ…骨を打ち付けたのかな。
「紗栄子はおやつじゃなくて、しっかりお昼も食べたらいいんだよ?」
「まだ早いし、あとでね」
夫と義父が初期費用を出してくれたあと、月々の支払いは母の掛けていたガン保険やそれまでの母の貯えをホスピスへの支払いに充てることでやっていけている。ここでの買い物は母の来月の支払いに回すことも出来るけれど、財布には昨夜舞い戻って来た2000円があるから支払ってしまおう。
「プリンもいいね」
「紗栄子はプリンにする?私はこのヨーグルトを食べてみようかしら」
「秋限定だって」
まだ結構暑いけれど9月だからね。梨がゴロゴロという誘い文句に乗った母のヨーグルトと私のプリン。常温のお茶と少しの焼き菓子。みかんもあるから十分だね。
「暑いわね」
「少しね。ストール外す?」
母はゆっくりとストールを外しながら
「清水のご両親はお元気?」
と車椅子を押す私に聞く。
「そう、ビックリするわ」
「ごめん、ごめん。ご飯は?」
「昨日は食べたけど…」
「みかん、食べる?一緒に売店に行ってヨーグルトとか買う?」
「そうね…そんなの持って外で食べようかしら」
珍しいことを言われると、嬉しい反面ドキッとする。
「じゃあ、着替えてお化粧する?」
「それもいいわね。準備だけでお昼になりそう」
「お昼のピクニックでいいんじゃない?」
この部屋の中ではゆっくりと自分で動ける母に出来るだけ自分で着替えもお化粧もしてもらう。
そして部屋の入り口にある車椅子に母を乗せて、トートバッグにみかんを入れて売店を目指す。
「あら、上村さん、お出掛け?素敵なストールですね」
「外でおやつを、と思って」
「それはいいですねぇ、中庭より表のイチョウの樹の下が涼しいかもしれませんよ?」
母が着替えたことに気づいて声を掛けてくれたスタッフさんに教えてもらったので、イチョウの樹の下に行くことにする。敷地内のあちこちにベンチがあるから座るところには困らない。
売店での買い物も二人で一緒というのは久しぶりだから私が嬉しい。
足首は動きが不自由で歩きづらいけれど、車椅子を押すのはもたれ掛かるように歩けて楽な気もする。右膝の方が痛むなぁ…骨を打ち付けたのかな。
「紗栄子はおやつじゃなくて、しっかりお昼も食べたらいいんだよ?」
「まだ早いし、あとでね」
夫と義父が初期費用を出してくれたあと、月々の支払いは母の掛けていたガン保険やそれまでの母の貯えをホスピスへの支払いに充てることでやっていけている。ここでの買い物は母の来月の支払いに回すことも出来るけれど、財布には昨夜舞い戻って来た2000円があるから支払ってしまおう。
「プリンもいいね」
「紗栄子はプリンにする?私はこのヨーグルトを食べてみようかしら」
「秋限定だって」
まだ結構暑いけれど9月だからね。梨がゴロゴロという誘い文句に乗った母のヨーグルトと私のプリン。常温のお茶と少しの焼き菓子。みかんもあるから十分だね。
「暑いわね」
「少しね。ストール外す?」
母はゆっくりとストールを外しながら
「清水のご両親はお元気?」
と車椅子を押す私に聞く。
11
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
鬼上司は間抜けな私がお好きです
碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。
ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。
孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?!
その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。
ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。
久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。
会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。
「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。
※大人ラブです。R15相当。
表紙画像はMidjourneyで生成しました。
【完結】【R15】そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
鷹槻れん
恋愛
「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい」
幼い頃から私を見知っていたと言う9歳年上の男が、ある日突然そんな言葉と共に私の生活を一変させた。
――
母の入院費用捻出のため、せっかく入った大学を中退するしかない、と思っていた村陰 花々里(むらかげ かがり)のもとへ、母のことをよく知っているという御神本 頼綱(みきもと よりつな)が現れて言った。
「大学を辞めたくないなら、俺の手の中に落ちてこい。助けてやる」
なんでも彼は、母が昔勤めていた産婦人科の跡取り息子だという。
学費の援助などの代わりに、彼が出してきた条件は――。
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
(エブリスタ)https://estar.jp/users/117421755
---------------------
※エブリスタでもお読みいただけます。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」
挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。
まさか、その地に降り立った途端、
「オレ、この人と結婚するから!」
と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。
ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、
親切な日本人男性が声をかけてくれた。
彼は私の事情を聞き、
私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。
最後の夜。
別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。
日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。
ハワイの彼の子を身籠もりました。
初見李依(27)
寝具メーカー事務
頑張り屋の努力家
人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある
自分より人の幸せを願うような人
×
和家悠将(36)
ハイシェラントホテルグループ オーナー
押しが強くて俺様というより帝王
しかし気遣い上手で相手のことをよく考える
狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味
身籠もったから愛されるのは、ありですか……?
あと1年、彼の隣に
伊月 慧
恋愛
彼の隣にいたいんです。
あと1年しかないのなら、余計に。
ワガママで、王様で、バカで、意地悪で、浮気ばっかりするし、情けないし、なんかいつも怠そうだし。
けど、ほんとはさみしがり屋なんだ。
誰かにそばにいて欲しいだけ。
愛されたいだけ。
それを知っているから、私はあと1年、彼の隣にいなければならないんです。
余命1年の彼女と、愚鈍な彼氏の話。
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる