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part 2-10
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今日は本当にたくさん話すんだ…藤堂さんは続けて
「今の話では、母親のことは紗栄子の日常生活に入っていない。不思議で不自然な話だと感じる」
と私を見た。
「まず最初に漏らしたのが母親のこと。一番大切だと言っていいんだろ?それが紗栄子の日常生活に入っていない…入れられない事情があるならそれを取り払う必要があるんじゃないのか?」
そんなことが出来るならばそうしたい。でも夫と義父に恩があるのも事実。
「一人で生きていける人っていないでしょ?だからこんなものだと…そう思います。時々…現実逃避の時間がここにあったりして…何とかやって来られたから…」
これからもきっとそう…でも私のこれからには母がいない覚悟をしなくてはいけない。
「心の逃げ場だけでいいのか?」
「…ぇ?」
「紗栄子は、心の逃げ場だけでいいのか?」
「……」
「心だけ逃げて来ても…」
「帰りますっ」
もうこれ以上、私の心を大きく震わせる言葉は聞きたくなかった。
彼に話をしたのは間違いだった。
彼の声はあまりにも私に真っ直ぐ刺さり過ぎる。私が目を背けているものを簡単に抉り出す。
立ち上がろうとカウンターについた手を…正しくは手首を大きな手で握られる。
「紗栄子、俺がいる」
「はっ?」
意味がわからない。
「家族がいて母親が後回し。その家族は藤堂に名を伏せたいと言った…そうだな?」
藤堂さんは私に確かめているようで、でも静かに断言してから言葉を続けた。
「その家族というには名ばかりの奴に‘藤堂’の名前を使って盾にしてもかまわない。心も体も…抜け道は俺が作ってやれる。紗栄子の抜け道はすぐここにある。だから俺がいると言った」
「……何を言っているの…?」
「何かが出来ればどれだけ幸せだろうって…そんな風に、幸せには手が届かないと決めつけた顔してんな」
はぁ…
「決めつけたのではなく、決まっているんです。父は私が12歳の時に亡くなりました。その後は…幸せには少しずつ手が届かない…」
それまで育った田舎を出てから、中学という思春期の友人作りにも苦労した。もちろん働く母に代わって家事もたくさんした。10代の子が思い描く幸せには掠りもしなかった。ただ忙しくても母が私をちゃんと見ていてくれたことだけが小さな幸せだった。
その母も病に…私の人生、運命はずっと安定した低空飛行を続けている。
「もう少しだけ手を伸ばせ、俺に向けて。それだけで幸せは手に入る」
「今の話では、母親のことは紗栄子の日常生活に入っていない。不思議で不自然な話だと感じる」
と私を見た。
「まず最初に漏らしたのが母親のこと。一番大切だと言っていいんだろ?それが紗栄子の日常生活に入っていない…入れられない事情があるならそれを取り払う必要があるんじゃないのか?」
そんなことが出来るならばそうしたい。でも夫と義父に恩があるのも事実。
「一人で生きていける人っていないでしょ?だからこんなものだと…そう思います。時々…現実逃避の時間がここにあったりして…何とかやって来られたから…」
これからもきっとそう…でも私のこれからには母がいない覚悟をしなくてはいけない。
「心の逃げ場だけでいいのか?」
「…ぇ?」
「紗栄子は、心の逃げ場だけでいいのか?」
「……」
「心だけ逃げて来ても…」
「帰りますっ」
もうこれ以上、私の心を大きく震わせる言葉は聞きたくなかった。
彼に話をしたのは間違いだった。
彼の声はあまりにも私に真っ直ぐ刺さり過ぎる。私が目を背けているものを簡単に抉り出す。
立ち上がろうとカウンターについた手を…正しくは手首を大きな手で握られる。
「紗栄子、俺がいる」
「はっ?」
意味がわからない。
「家族がいて母親が後回し。その家族は藤堂に名を伏せたいと言った…そうだな?」
藤堂さんは私に確かめているようで、でも静かに断言してから言葉を続けた。
「その家族というには名ばかりの奴に‘藤堂’の名前を使って盾にしてもかまわない。心も体も…抜け道は俺が作ってやれる。紗栄子の抜け道はすぐここにある。だから俺がいると言った」
「……何を言っているの…?」
「何かが出来ればどれだけ幸せだろうって…そんな風に、幸せには手が届かないと決めつけた顔してんな」
はぁ…
「決めつけたのではなく、決まっているんです。父は私が12歳の時に亡くなりました。その後は…幸せには少しずつ手が届かない…」
それまで育った田舎を出てから、中学という思春期の友人作りにも苦労した。もちろん働く母に代わって家事もたくさんした。10代の子が思い描く幸せには掠りもしなかった。ただ忙しくても母が私をちゃんと見ていてくれたことだけが小さな幸せだった。
その母も病に…私の人生、運命はずっと安定した低空飛行を続けている。
「もう少しだけ手を伸ばせ、俺に向けて。それだけで幸せは手に入る」
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