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異世界初魔法は…
しおりを挟む「……ん…ここは?…湖?なんだ?あの木泡まみれじゃん。あっちの木は透けてる…」
目を覚ますと青い空、白い雲、そして森の中。森の中と言っても起き上がり辺りをよく見れば大きな湖のそばで地球では見たこともないような木々が生い茂っている。本来なら葉が付いている場所に泡が生えて?いる木や、ガラスのような半透明の木に、他にも地球じゃ有り得ないような植物達がわんさかいっぱいのオンパレード。
俺、本当に異世界に転生したんだな。…そういえば、ここがどんな世界か知らねぇんだけど。グランツさんに細かい説明もなしにちゃちゃっと転生されたし。大雑把というかなんというか…そうだ、カレド君もこの世界に来てるはずだよな?どこに居るんだ?
「…おじ、ちゃん?」
「あ、カレド君。そこに居たのか」
不意に後ろから呼ばれた声に振り向けばそこには天使のような美少年、カレド君が不思議そうな表情で俺を見ていた。
「おじちゃん…だよね?」
「ああ、そうだよ。…どうしたんだい?」
「…おじちゃん、お顔が違う。それにちっちゃくない」
…ん?顔が違う?ちっちゃくない?…ちっちゃく……小さくないか!?
カレド君が言った事を理解した俺は勢いよく立ち上がった。…カレド君に小さいと思われていた事には目を逸らして。
「…おぉっ!!視界、視界が高い!地面が遠い!足も長い!すげぇ!!……うっ…うぅ」
「お、おじちゃん?どうして泣いてるの?どこか痛いの?大丈夫?」
「うぅ…ありがとうカレド君。大丈夫だよ、どこも痛くないよ。おじちゃん嬉しくて…」
転生する前は一時期立つことすら憂鬱になる程近かった地面が今、こんなにも遠くに感じる…!それがどれ程嬉しいことか…泣きもするさ。泣かせてくれ。今だけは。それに体格もグランツさん程ではないにしろ格闘家のような筋肉質な身体になっている。どれだけ筋トレしても中々筋肉が付かなかったからまじで嬉しい。細かい説明もなしかよとか思ってごめんなさい、ありがとうグランツさん!!
「…………」
「コホン…、ごめんねカレド君。もう大丈夫だよ」
「…うん。おじちゃん、泣き虫さんだったんだね」
「……泣き虫さん」
自身の嬉しい変貌に感極まって涙ぐむ俺を戸惑ったような目で見ているカレド君に気付き、いい加減泣くのを止めた。だが時すでに遅し、カレド君の中で俺は泣き虫としてインプットされてしまったようだ。確かに俺は涙もろい方なんだけど…冷静を取り戻した今、小さな子の前で泣いてしまった事がちょっと恥ずかしい。でも、それだけ嬉しかったんだよ、ほんと。
いや、過ぎた事は気にしまい。そんな事よりここはどこだ。カレド君、知ってたりするかな…
「ねぇ、カレド君。ここが何て世界か知ってたりするかい?」
「うん、ここに来る前に父様が言ってたから知ってるよ。ここは『アポロ』っていう魔法世界の『ファルアの森』だよ」
「アポロのファルアの森か…うん、当たり前だけど聞いたことすらないわ。どんな所とかは分かるかい?」
「んー、僕も来るのは初めてだからよく分からないんだ。…あっ、おじちゃんの魔法で調べたら分かるかも」
「へ?俺の魔法?…あ、そうか。俺、魔法が使えるんだった……って、魔法ってどうやって使うんだ?」
今の俺は魔法が使える事をカレド君に言われて思い出したは良いが使い方がさっぱり分からん。漫画とかなら体内に流れる魔力を感じて呪文を唱えるんだったか?…呪文とか知らないんだけど。どうやんの?なんて、あーだこーだ悩む俺にカレド君が言った。
「おじちゃん、知りたい事を知りたいって思えば良いんだよ。そうしたらきっと分かるよ」
「知りたい事を知りたい…つまり、強く願えばいいって事か……よしっ、やってみるか!」
「うん!おじちゃん頑張って」
「おう!」
加減を知らないグランツさんによって今の俺はグランツさんの『神の力』以外の『力』を持ってるらしいし、頼むぜ神様パワー、ここがどんな所か教えて下さい!そう、俺が強く望むと頭の中に知らない知識が浮かんできた。音声付きで。
【魔法世界・アポロ】
【現在地・ルシウム王国、ファルアの森・最深部(別名・白き神の森)】
【備考・ルシウム王国に在る聖獣ファルアの棲みかっす。ファルアの棲む最深部周辺には惑わしの魔法ってのがかけられてるんでファルアのとこまで辿り着けるヤツは普通なら居ないんすけど…あ、この森の植物や生物は最深部に近いところほど素材・食材としても価値が高くて美味いっすよ。ついでに、ファルアが居る最深部には魔物は棲息してないんで、まじ安心安全っす。】
「……………」
……俺、魔法使えたよ…使えたんだけどさ…
説明口調おかしくね?なんかユルくね?ってかこの声、あいつだ。コンビニのチャラ男店員の声とそっくりなんだけど。なんであいつの声なの?…そういえば、チャラ男店員『岸本』って名前だったな。…まぁいいや、この際細かいことは置いとこう。ついでに使えたは良いがなんて魔法になるか分からないからこの魔法は岸本と名付けよう。
にしても王国だの聖獣だの魔物だのファンタジーな単語がごろごろしてんなあ。ここらへんは岸本で調べなくても大体分かるし、必要になったらまた調べればいいな。あー、でも今、俺とカレド君が居る場所はその『聖獣ファルア』って神?が居る最深部ってとこなんだっけか。…ん?わざわざ魔法をかけてまで来られないようにしてる所に居るとか…もしかしてヤバくないか?
不安になった俺は、力を封印されてはいても元・神様カレド君に、異世界初魔法・岸本で得たこの場所と今の状況に意見を求めた。
「んー…大丈夫だと思う。そうやって隠れてる神様って、うるさいのが嫌いだったり一人が好きな神様が多いから、騒がしくしたりお家を荒らしたりとかしなかったら怒ったりはしないと思うよ?」
こてっ、と首を傾げて言うカレド君。可愛いです。…待て、言っておくが俺は断じてショタコンではないからな!ただカレド君が可愛い過ぎるだけだ。今更だがカレド君の見た目は、八歳くらいでふわふわの栗色の髪に長い睫毛の青い瞳、キメの細かい真っ白な肌、桜色のぷにぷに頬っぺ…なにより素直ないい子なんだよ。そんなの可愛いに決まってんだろ。グランツさんが親バカなのも納得だよ。…そんなグランツさんとは髪の色くらいしか似てないな。グランツさんはワイルド系のイケメンだったし、お母さんに似たんだろうな。
「そうだ…おじちゃん、お兄さんになってるから、お兄さんって呼んだほうが良い?」
「ん?お兄さんになってる?そういえばさっき、俺の顔が違うとか言って…まさか、鏡!出てこいっ!……これ、俺か?」
目の前に現れたのは大きな姿見。そしてそこに映っていたのは年相応におっさんだった俺ではなく、高校生くらいの『サッカーやってます!』って感じの爽やかイケメン。黒髪黒目なのは変わってないけど。
グランツさん、若返りどころか見た目まで…劇的ビフォーアフターが過ぎる。サービス良すぎてちょっと怖い。しかし、これはもう何が起きても全力でカレド君を守らないとグランツさんに顔向けできないな…最初からそのつもりだけど。ちょっと血迷って力よりも身長が欲しいとか言っちゃったけど…。
それに結局はカレド君を親元から離してしまったんだよな…グランツさんはカレド君に旅をしろって言ってたけど、いつまで旅をさせるつもりなんだろう。まぁ、何年何十年だろうと俺はカレド君と一緒に旅をするけどな。…ストーカーじゃねぇよ?護衛だから。うん。
そんなこんなで改めて今の自分の姿を確認した俺はなんやかんやでカレド君に俺の事を『光兄(こうにい)』 と呼ぶことにしてもらった。さすがにこの見た目でおじちゃんってのはアレだったし…中身はおっさんだけども。
とはいえ、見た目も変わって魔法が使えるようになったといっても元・地球人の俺はちゃんとした魔法の使い方なんざ分からないので、神の力は封印されていて使う事は出来ないけどこの世界の子供の平均的な魔力と身体能力は持っているカレド君に魔法の使い方を教えてもらう。カレド君は二つ返事でOKしてくれた。いい子。
結果、カレド君に『光兄すごい!』と言ってもらえるほど余裕で使えました。魔力を感じるとかはいまいち分からなかったけどイメージしたことが実際に出来た。例えば火を出したり水を出したり風をおこしたり…アニメ大国日本に生まれたことが役にたったよ。そして、魔法といえばあれだ。空、飛んでみました。こう…武空術的なイメージで。…まぁバランスとれなくて直ぐに落下したけど。要練習だ。なんてカレド君と出来そうな魔法をあれこれ試していると…
ぐうー
「…光兄、僕お腹すいちゃった」
「そういやここに来てから何も食べてないもんな。…よし、ちょっと待ってて」
岸本ー、ここらへんに食えるものがあったら教えて。俺が魔法・岸本で辺りを調べるといくつかの植物が光って見えた。最初に目にした泡まみれの木も光ってた。木のもとへ行き岸本でさらに調べる。
【バブルツリー・泡みたいなやつは実で水で洗えば簡単に皮が取れるっす。食感はゼリーっぽくて桃みたいな味で美味いっす。皮ごと食うと消化不良で腹痛くなるんでダメっすよ。】
おお、この泡食えるんだ。泡じゃないけど。水で洗えば良いって事は魔法で水を出すか…いや、近くに湖があるしあそこで洗えばいいか。…水、綺麗だよな?白いピンポン玉くらいの大きさのバブルツリーの実をいくつかもいで湖まで行き、岸本で水を調べる。綺麗だった、良かった。そうして実を洗っているとなんか感触がぬるぬるしてきた。しばらく洗っているとぬるぬるした感じが消えたので洗うのをやめる。皮が取れたってか溶けた実は透明で綺麗だった。
「これ食べられる実だから。はい、カレド君。」
「光兄ありがとう。ん!甘くて美味しい」
俺も一つ口に運ぶ、…ん!すげぇ。ぷるっとした食感に桃に似た芳醇な甘味。なんかお高いゼリーって感じだな。あっちの紫のブドウっぽい実も光ってたなあれはどんな味なんだ?……そぉいっ!?え?目玉?…いや、なんだ模様か。なんつー悪趣味な見た目してんだよ、びびるわ。なんか睫毛みたいな毛も生えてるし…岸本、これ本当に食えるのか?
【アインの実・見た目はアレっすけど一応食えますよ。毛を引っ張ったら皮剥けるっす。チョコ味でゲロ甘っすね。】
この見た目でチョコ味かよ。しかもゲロ甘って。これは…カレド君食べるかな。なんて心配したけど俺がアインの実を渡し食べ方を伝えるとカレド君は躊躇なく睫毛のような毛を引っ張り現れた赤い実を食べた。この子すごい。一切の躊躇いがなかったよ。大物になるわ…って、神様の子供なんだから大物か。なんて感心していたら…
「うっ……あ、あまぁ…」
アインの実を食べたカレド君が顔を歪めて言った。子供ですらこんな顔になるとかどんだけ甘いんだよ。いや、そんなことより何か口直しに苦いものとかないかと思えば俺の手にいつの間にかコーヒーが握られていた。アイスのブラックで。…とりあえずそれをカレド君に渡してみる。
「んっ、んっ……にがぁい……」
これじゃアカン!他!他になにか…ん?そもそもなんでコーヒーが出てきたんだ?……そういえば俺、グランツさんに『生き物以外ならなんでも出せる魔法』とか言ったな…創造魔法的なのが使えるんだとしたら…
「カレド君、これをお食べ!」
「あっ!光兄これって…!」
創造魔法(クリエイト)が使えると発見した俺があるものを創造しカレド君へ差し出すと、カレド君は驚きと嬉しさの交ざった表情でそれをしばらく見つめたあとパクパクと食べ始めた。俺が創造魔法で出したもの、それは…
カレド君が食べ損ねた『エイト君まん』です。
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