甘い幻親痛

相間つくし

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7 夢中

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 眠っていたのか、それとも気絶していたのか分からないような寝覚めだった。甲高い目覚ましの電子音が私のこめかみを両側から刺して挟み込み、ナッツクラッカーのように両側から割ろうとしているイメージが脳内に浮かぶ。ああまだ寝惚けてるな、と思いながら体を起こし、無理やり脳を覚醒させるために深呼吸と伸びを繰り返して頭を振る。
 視界に入った窓の外の色が明らかに夕焼けで、体中の血がすべて一気に沸き立つような感覚に陥った。もしかしてわたしは夕方まで寝過ごしてしまったのではないか。その考えが脳裏によぎった瞬間、わたしが今起床してから夕方だと気づくまでの一連のシーンが脳内でデジャヴとして処理される。時計を見ると、午後五時二十二分だった。これもデジャヴ。職場から大量に電話がかかってきているはずだ。もはやほとんど諦めつつ携帯を見ると、着信など一件も入っていない。ついでに言えば、わたしを叩き起こしたはずのアラーム音も鳴った形跡がどこにも無い。すると、どこからか音楽が聞こえてきた。どこかで聞き覚えのあるメロディに耳を澄ますと、わたしがクラゲを買った店に電話をした時の保留音だった。ドビュッシーの、月だか夢だかの曲。電話が繋がったままなのかと思い慌てて携帯電話を見ると、電話など繋がっておらず、保留音ももう鳴っていなかった。
 首を傾げながら立ち上がりかけ、違和感に気づいて携帯電話の画面を二度見する。自分の記憶している日付と携帯電話に表示されている日付が噛み合っていない。わたしの記憶では高校のクラス同窓会から数週間は経っているのだけれど、携帯電話のカレンダーには「明日同窓会!」という文字が躍っていた。意志とは関係なく掠れた声が出る。
「明日同窓会……?」
 わたしはまだ寝惚けているのだろうか。もう一度壁の時計を見る。何度見ても壁掛けの電波時計と携帯電話は同じ日時を指しているし、そのどちらもが今日は土曜日であること、今日は同窓会前日であることを示していた。今は同窓会前日、土曜日の午後五時で、寝過ごす仕事など今日はないことを認めざるを得なかった。もしくはわたしがいま夢を見ているかだ。
 みつき。
 またしても血が、今度は体中ではなく頭に一気に巡り、くらくらする眩暈のような感覚をもたらした。わたしの記憶では同窓会の二日前、つまり今から数えて昨日死んだはずの愛するペットは、どうなったのか。ゆっくり振り返り、わたしの記憶ではまだ片付けておらず、中は空であるはずの金魚鉢を視界に捉える。焦点が合った視界の中の金魚鉢には、混乱するわたしなどまるで意に介さないミズクラゲが一匹、ふらふらと気ままに漂っていた。
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