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第四章 エルフの嫁入り

15人目は×××指定? 2

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「はい、これ戸籍関係の証明書ですね。これで、書類上はもう結婚できるっすよ」

「ありがとう、ドリスコル叔父様」

 二人は幡ヶ谷の近くにある喫茶店のテーブル席で向かい合っている。

「いやあ、叔父として当然のことをしたまでっすよ。二人には幸せになって貰わないと困りますしね」

「ふふ、そんなの当然ですわ」

「自信家ですねー。でも、気を抜いたら浮気しちゃってるかもしれませんよ?」

「あら? 彼にとって私より良い女がいるとでも?」

「いや、いないと思いますけど。でもほら、なぜか男って言うのは色々つまみ食いしたくなる生き物だっていう人もいますし?」

「ふふ、杞憂ですわ。叔父様と一緒にしないでいただけます?」

 
 彼女の瞳には『色々知ってますわよ?』という文字が浮かんでいる。

「――はは、なら心配いらないっすね」

「ええ、そうね。ほほほ」

 そんな会話が繰り広げられていた頃――。

     ◆

「ねぇ……お腹空いちゃった」

「は、はぁ……」

 屋敷の居間――俺の身体にまるで巻き付くように彼女が身体を預けてくる。抵抗したいのだが、一線を守るだけで魔力が一杯いっぱいになっている。もしや、このエロリンさんて、強いのか?

「ふふ、この匂い、エリザねぇ~。エリザともしてたのぉ?」

「え、お知り合いなんですか?」

「うん、そうよぉ? 同じ魔王学園で彼女が首席、私が二番目ぇ~」

 まじかよ。めっちゃつえーじゃん。そりゃ抵抗するだけで手一杯なわけだ。逃げ出したいのだが、上手く体が動かせない。抗いがたい衝動に耐えながら俺は何とか会話を続ける。

「あ、あの。お腹が空いたのでしたら飯屋でも行きますか?」

「ええ~? サキュバスのご飯って言ったら、わかるでしょぉ~?」

『わかるでしょぉ~?』の部分がやたら強調される。

「わ、分かりかねます」


「精液よ、お・ば・か・さ・ん」

 そう言って彼女は俺の息子に手を伸ばそうとする。いかん、そこから先はR18でノクターン送りだ。
 俺は――借り物の魔力を一気に放出する。

「きゃうん!」

「はっ――あ……」

 何とか俺は彼女の手の中から脱出して距離を取った。

「んもぉ~。良いじゃない、少しくらい」

「いや、駄目です。そういうのは、困ります」

「少しだけよぉ~、ね? 10時間ぐらいすれば満足するからぁ」

「全然少しじゃないな!?」

 チョコボール〇井やドクタース〇イムじゃあるまいしそんなに相手が出来るか!

「そもそも俺には心に決めた人いるので! そういうのは間に合って……」

 思わず朝のミリアルとの逢瀬を思い出す。う、ちょっと物足りない。

「嘘ついてもだぁめ? 匂いで、分かるわよ、してないの」

「はっ!?」

 もう彼女は目の前にいた。俺の手をガッチリとホールドしてその凶器(おっぱい)を俺の顔に押し付ける。

「素直になっちゃいなさいよぉ……本能のまま、に」


「――本能」

「そう、本能、あるがままに、貪り尽くすの」

 彼女の魔力に押しやられるように俺の理性が遠のいてく。
 俺の本能――したい、したいこと――。

「――ああ、したい」

「――そうよ、さあ、解き放って?」

 俺は脳裏に浮かんだものの声を確かに聞いた。そうだ――俺は……。

     ◆

「……ああん」

 ピンク色の唇の合間から漏れる吐息はその欲求不満を満たそうとするかのように辺りに拡散される。それは彼女の魔力を伴い、怪しく――妖しく、周囲を染め上げる。

「だめぇ……もう……我慢出来ないぃ……」

 切なげな声、捩れる肉体、揺れるその豊満な胸。彼女のすべてはその欲求満たす『もの』を待つ。

「――待つんだ、いい子にして」

 命令する男の声は冷静だった。しかし、その声の奥にはとてつもないほどの――まるでマグマのような情熱を秘めている。それが男の魔力に乗り、伝播する。それを女は感じ取り、より、身体を熱くする。男の身体と心、その向かう先が目指す場所は一つだった。

「――だめぇ……これ以上、焦らされたらぁ……」

 女は失敗した、と思った。男の魔力は借り物であり、所詮人間である。いかに自分と双肩するほどの実力者に付き従ったとはいえ、いかようにも御せる、と。しかし――それは間違っていたのだ。

「いやあ……どうして、こんなに強い……のぉ」

 彼女が彼を襲おうと魔力をその身体に流したその瞬間、彼はその借り物の魔力を御し――なんと融合させてしまったのだ。人の本能が、欲望がまさか変質し、彼を強靭にしてしまうなど誰が想像できたであろうか? 
 彼女は最初に寝た男に言われたことを想いだした。『人の本能を侮るな。そう言ったものが、世界を変え続けてきたんだから』という言葉を。
 彼女が彼の本能を刺激したことで何かが変質し、彼は借り物の魔力と彼女の魔力を混ぜ、己の物にしてしまったのだ。そしてそれは――たやすく彼女の自由を奪い取った。己の魔力に乗せ、別の――彼の魔力を注がれる。それは何物にも代えがたい苦痛と、快楽をもたらしたのだから。

「さあ、もうすぐだ。俺の――欲望をもうすぐ味あわせてやる」

 男の魔力が一層強くなる。彼女は逆らえない。ああ――もう、滅茶苦茶にして――。

「お待たせしました~。丸メンチ20個ですね?」

     ※

「ええ、ありがとうございます」

 吉祥寺――商店街のモールの中にある店から伸びたその長い列。俺はようやくその長い待ち時間を耐え、目的の物を手にした。

『元祖丸メンチカツ』

 国産黒毛和牛専門店――美味そうな霜降りの肉がショーケースに展示されていて、さらに飯屋も併設されそれを味わうことが出来る。さらに、それ以上に有名なのがTVにも何回も取り上げられ、肉汁のたっぷりつまった、子供の拳大はあろうかという元祖丸メンチカツである。平日は20個まで、休日はもっとごった返すためにおひとり様10個限定の人気惣菜だ。

 俺の手の中にはそれが詰まった紙袋がしっかりと握られている。傍らには今日のお客様、エロリンさんが悩まし気な顔をして付き従う。
そう、屋敷では危なかった。危うく俺の貞操が奪われかけたが、どういうわけか俺の魔力が膨れ上がり、彼女を制御することが出来た。出来た、のはいいのだが、どういうわけか今――俺はとても――乱暴だった。

「いくぞ、ついてこい」

「ああん……待ってぇ……」

 どう喋っても乱暴な口調になってしまう。自分でも歯止めが利かない。意識しっかりしているが、肉体は別の言動をとる、そんな感じである。

 俺達は商店街を駅方面へ戻り、井の頭公園を目指す。そして俺は不忍の池が見えるベンチにドカッと座った。

「座れよ。早く」

「……う、うん」

 ぼんやりとした顔で彼女は頷き、俺の横に座る。そして俺は彼女に紙袋に包んだ丸メンチを一つ手渡した。

「悪かったな付き合わせて。ほら、食えよ」

「ええ……これぇ?」

「あ? 何か文句でもあんのか?」

「う! ううん! い……頂きます」

 やたら素直だな。屋敷から無理やり――というか付き従わせているわけだから、飯ぐらい奢ろうと思っただけなんだが。

「男漁りもいいけどよ。やっぱ人生は、飯だ」

 彼女に迫られてきた時に最初に出てきた俺の欲望は『食』だった。美味い物が食いたい。ただそれだけの――。

 俺も自分用のメンチカツを一つ取り出し、それを豪快に一口――。

 ザシュッ。

 ――ブシュぅぅぅ。

「甘ぇ……」

 溢れる肉汁が、甘い。一緒に混ぜられた玉ねぎのみじん切り、そして肉そのものの甘みそれが熱を伴い、口の中で踊る。

「出来立てがやっぱ、一番だわ」

 何度か持ち帰ったことはあるが、いまこの瞬間食べる、熱の残るメンチカツが最も美味い。時がたち、旨味の要素が何も失われていない。それを豪快に一口、また一口と齧る。

 カリッ ザシュッ じゅわ ガリッ じゅわわ ザシュ ――。

「もう一個、と」

 ああもうたまらんっ!

 俺は次々に丸メンチを口に放り込もうと紙袋からメンチを掴むと――。

「――もっとぉ……」

 切なげな表情でエロリンさんが俺の手元を見つめている。

「何だ、欲しいのか?」

「うん……もっとぉ、欲しいのぉ……」

ピンク色の唇の隙間から彼女はだらしなく涎を垂らす。その涎の中に肉の脂が混じっているのか、より光っているように見える。

「――ほら、食えよ」

 俺は飯を欲しがられて焦らす趣味はない。乞われるままに俺はもう一つ、渡してやる。
 彼女は――それを受け取ると貪るように、噛り付く。

 ザクッ――もにゅ――じゅわっ……。

 溢れる肉汁を彼女は指で艶めかしく拭い取り、その指をしゃぶる。

「なにこれぇ……」

「美味いだろう? それが、和牛――牛の肉だ」

 彼女は当然和牛なんて食べたことがないのだろう。

「やだぁ……どうして私が、こんな獣の肉に――」

 悔しい、でも、ビクンビクン――ってやつか。

「馬鹿を言うな。和牛ってのはな。日本畜産の努力の結晶だ。そんじょそこらの肉や、あんたが食い散らかしてきたような男達とは出来が違うわ」

「そ……そおなのぉ?」

「ああ、肉用に改良を進ませ、地方によってブランド牛が競い、常に研究を重ね、旨味を等級化される。既に確固たる旨さを誇りながら、それでも努力を止めず育てるための工夫を続ける品種――。ただ垂れ流すだけのものなんかが敵うもんか。大体、良い男――優れた魔術師だったり、剣士だったりするほうがあんたも食欲をそそられ、実際美味いんじゃないのか?」

「――あ、あまり考えたことなかったけど……そ、そうなのかも」

「ほら、ただ食い荒らしてばかりいてそれが目的になってるから気付かないんだ。こういった、素晴らしい味わいにな」

 俺はそう言ってから、もう一つ取り出したメンチを一口齧る。
 甘み、旨味、それを凝縮した、人類の知恵を堪能する。

「さあ、食おうぜ。飽きるまで」

「う――うん!」

 それから、買ったメンチが無くなるまでさほど時間は掛からなかったのは言うまでもない。

―――

お店紹介

「さとう」

ここは有名ですね。吉祥寺にある、頻繁にTVで紹介もされるお店です。私が詳細や思い出を紹介するまでもない(笑)買い食いでその場で堪能するのが一番おいしいと思います。持って帰ってあっためなおすのも味気ないので。

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