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第三章 恋するエルフ

11人目の黒い恋人 2

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「すまないな、気を遣わせてしまって」

「いえいえ、これが仕事ですので」

 俺達はテイクアウトでカレーを購入したあと、屋敷に戻るべく商店街を歩く。

「そういえば、名を名乗りそびれていたな」

「おお、そういえば、私、藤間伸介と申します」

「――俺、で構わんよ。私はレイラ。レイラ=ドリュフ=『ドリスコル』だ」

「はいはい、レイラ――ん?」

 何か、聞き覚えのある単語が耳に入る。――ま・さ・か。

「いやあ、ごめんハニー。遅れちゃいましたね~」

 聞き覚えのある、本当によく聞いたことのある声がなぜか俺の後ろから飛んできた。

「ままままま、まさかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ダ、ダーリン!」

 奴は、トレードマークのシルクハットを取り、俺に頭を下げて自己紹介した。

「レイラの夫、ペリント=グラノラ=ドリスコルです。どうぞ、お見知りおきを」

 知っとるわあああああああああ!

 俺の声にならない叫びが幡ヶ谷六号通り商店街に木霊した。

「はい、ダーリン、あ~ん」

「こらこら、レイラ。他人様の前だよ?」

 屋敷に戻った二人は居間でいちゃこらし始めた。レイラさんがスプーンで掬ったカレーをドリスコルの口に運ぼうとする。

「……俺、帰っていいか?」

「え、帰っちゃうんすか?」

「逆に聞くが、いてどうするんだよ?」

「ええ~何か私に聞きたいこと、ないんすか?」

 もったい付けた言い方しやがって。つーかこいつ、もう俺の事情察してやがるな?

「はいはい、エルフの性生活について聞きましょうかね?」

「週5ぐらいですかね?」

「多っ!?」

「嘘っすよ?」

 こいつ相手に真面目に応対するのが間違っている気がしてきた。

「しかし、ダークエルフとエルフ、ねえ? それって不倶戴天の敵同士とかじゃないのか?」

「そうですねぇ。だから大ぴらに言うと私たち殺されますね」

 さらっと怖いことを暴露するな。

「だからドリスコル、のほうで名乗っているのもありますが」

「……苗字呼びで?」

「はい。私がエルフ社会では名を捨ててる扱いなので、いないことになってますから。放浪エルフには割と多いんですよ、名捨て」

 結構めんどくさいな、エルフ式封建社会。

「それでも愛し合っているので結ばれる選択をしましたけどね。にしても美味いっすね、海老カレー」

 ドリスコルはテイクアウトした海老カレーを口にしつついつもの嘘くさい笑顔を崩さない。

「異種族で結ばれる、特に忌みあっている同士の結婚はとかく難しいもんです。それが、人とエルフであっても、ね」

「――知ってんのか、ミリアルとのこと」

 ドリスコルは肯定の頷きを返す。

「ええ、だから協力しますよ。『親族として』ね?」

「ほう、親族、ね」

 ミリアルとは親戚だとか言っていたな。つまり結婚すれば、俺達は親戚同士ということになるが、気の早い物言いだ。まあ、実現するように頑張るが。

「てか、相談するのは吝かではないが、その……なんだ、それなんとかならんのか?」

「え? まあ、お気になさらずに」

「俺が気にするわ!」

 レイラさん、ドリスコルにべったりくっついて離れやしねえ。しかも呼び方が、来たとたん『旦那』から『ダーリン』だ。こいつのどこにそれだけ惚れされる要因があるのかわからんが、暑過ぎて近寄りたくない。

「ええ~と、レイラ、ちょっとだけ席外してもらえます?」

「ええ~? ちょっと、嫌だな~みたいな」

 もはやクールなダークエルフじゃなくてビッチな黒ギャルにしか見えん。種族イメージをもっと大事にしなさい。

「――ふう、仕方ない。十分甘えたし、外で待つとしよう」

 普通に話せるなら普通にしててね!?

 レイラさんが外に出てすぐ、ドリスコルが口を開いた。

「まずですね、結婚ですが、無理です」

「は、ハッキリ言うなあ……」

 関係者から言われると結構ショックだ。

「彼女が族長の娘ってのがあかんですね。長女ですし、エルフの貴族以外とは結婚を許してもらえないでしょう」

「はぁ、で、そんなことだけ言いに来たわけじゃないんだろ?」

「ええまあ。だから、遅れたんすよ?」

「へ?」

「だからぶっちゃけるとですね。彼女が名を捨てて逃げる、くらいしか選択肢が無いです。もしくは伸介さんが、あちらの家を納得させるだけの功績を上げる、とか」

「一応聞くが、後者は何をすればいいんだ?」

「魔王とか倒してください」

「ぜってえ無理」

「ですよね~」

 この糞エルフ、絶対楽しんでやがる。

「なので~。もはや既成事実を作って頂いて、引き返せないところまでいっちゃうしかないです」

「ず、随分と身も蓋もねえな……」

「ですから、彼女の長期滞在の準備を進めてます。行方知れずになるんで、こっちの戸籍も用意してますし、もう別人になってください」

「ええ……いや、まあ、ええ……」

「え? 嫌なんですか?」

「いやあ、ほかに手が無いっていうならそうするけど、こういうのって親を説得したりとか、なんかイベントこなして認めて貰った方がよかったりするパターンじゃないの?」

「う~ん。まあそれは昔、試したんですけど、止めといたほうが良いですよ?」

「……試すって、誰が?」

「私ですけど?」

「レイラさんの親御さんとやっぱ揉めたの?」

「いや、レイラじゃないですよ。ええと、『二番目の妻』です」

「……は?」

「二番目、つまりこっちの異世界で私、結婚してたんですよね」

「はああああああああああああああああああああ!? お前、バツ……いくつだよ!?」

「失礼な。レイラで三人目ですよ? まだ三回しか結婚してませんからね」

 たしかこいつ、200歳って言ってたよな……そうか、ハハハ。そりゃ何回か結婚もするか。

「それで、二番目の妻が、藤間家の、おばあ様の妹さんです」

 俺は思わず白目を剥いた。

「お、お前……親戚として、ってもしかして、本当に、もう?」

「病没でしてね。いやあ、あの時は悲しかったなあ……。だからまあ、協力したいんですよ、大叔父として?」

 そう言って、シルクハットのエルフは俺に優しく微笑みかけたのだった。


――

お店紹介「DARVISH」(ダルビッシュ)

幡ヶ谷駅ビル内にあるカレー屋さんです。
甲殻類系の味わいが特徴のカレー屋で、ついついリピートしたくなる辛みのある味が私は好きです。
幡ヶ谷にはカレー屋がたくさんあるので、他の話でがっつり紹介したいかなと思います。
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