平和への使者

Daisaku

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神の伝承

165話 アダムの分析

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ムセビア王国での、あの事件から、大統領としての後始末を終え、アダムはフランスパリ郊外に土地と建物を購入して、サターン技術を使用した、物品もすべて、移動していた。イブや部下のベータ22の協力もあり、異常行動を繰り返していた、アルファ7も正常な状態になった。

「アルファ7、やっと、家の片付けや機材の整理が終わったな」

「はい、これで、第一執政官のところに行けますね」

「そうだな、意外と時間がかかったな、軌道上に1万年近くも周回していた、小型宇宙船もイブのおかげでやっとここに回収できたし、これで、万全の体制になったな」

「はい、第一宇宙調査官、あの激しい落雷で異常な状態になってから、1万年以上は経ち、色々ありましたね」

アダムは小高い丘の見晴らしの良い庭の椅子から美しい景色をながめ、昔の苦労を思い出していた。そして、しばらくして、すくっと立上り、

「ここに落ち着くまで、外界との情報を一切遮断していたから、アルファ7、急いでイブがいるところをサーチしてくれ」

「承知しました」

アルファ7は全世界に向けて、イブと同じような赤い球体を上空高くに上げて、しばらくしてその球は無数に散らばり、全世界に向けて飛ばされた。

「アルファ7、イブのように低い高度ではなく、高い高度からサーチしてくれ、また、世界のあちこちで騒がれるとやっかいだ」

「承知しています」

1時間ほど経過して、アルファ7はアダム(第一宇宙調査官)に急いで近づいてきた。

「なんだ、アルファ7、何かあったのか?そんな慌てて」

「第一宇宙調査官、大変です。7日前の11時32分、ワシントンで第一執政官は死亡したようです」

天気の良い昼下がりに庭の椅子に座り、のんびりとしていたアダムがイスから転げ落ちて

「なんだと~、そんなばかなことがあるか、イブがそんなに簡単に死ぬわけないだろ」

アルファ7は困った顔をして

「ですが、間違いありません。さきほどネットワークシステムに入り、ワシントンでの襲撃の映像を確認しましたが、異星人のステルス装置を使用して、ミサイルが発射されたようで、ユウキのスキャナーには引っかからなかったようです」

アダムはイブが死んだことが信じられず、すぐに大声を出して

「アルファ7、ジェットグライダー起動、急いでフランス治安情報局まで行くぞ、あそこにいけば、ベータや残っている局員達に詳しい状況が聞けるだろう」

「承知しました。ジェットグライダー起動、ステルスモードで向かいます」

アダムの体にアルファ7の体が変形して、体に装着、ものすごい音で治安情報局のあるパリに向かった。

「シュパー」

そのころ、パリの治安情報局では

「カミーユ大尉、やっぱりだめです。見つかりません」

フランス治安情報局に残された、局員達は血眼になってサターン人アダムを探していた。

「そうか、ムセビア王国では次期大統領や閣僚などにきちんと引継ぎを行い、2週間ぐらい前に消息を絶ったそうだ。たしか、落ち着いたら、この情報局で一緒に局長の部下として働きたいと言っていたのにな。おかしいな」

現在、治安情報局の局長であるレモンド中佐はフランス政府の諜報機関にお願いして、アダムの捜索を行い、アンナ軍曹やベルナール1等兵はセドリックと一緒に空軍基地で、マリ達が襲撃された状況を再現して、ほんの小さな手掛かりがないか、繰り返し、検証を行っていた。
カミーユとダニエル中尉は情報局で関係各所に連絡したり、空港や道路などアダムの足取りを必死に探したが、全く見つけることができないでいた。ダニエル中尉はまるで手掛かりすら、見つけられないので、ため息をついて

「ふ~、もう、何日も探しても見つけられないんですから、向こうから来てくれませんかね。あの中庭にでも」

「ダニエル、ちょっと休憩するか、もうここに何日も缶詰じゃ気もめいるしな」

ダニエル中尉はカミーユ大尉と少し休憩をするため、高級ホテルにも負けない自然と調和した雰囲気の良い中庭に行ってベンチに腰をおろした。煙草に火を付けようとしたが、ものすごい風が吹き荒れ、ライターの火がすぐに消えた。

「シュー」

と上空から音だけがして、しばらくしてその音が消えた。そして、ジェットグライダーを装着したアダムが急に目の前に現れた。

「よお~、久しぶりだな、カミーユ、ダニエル」

ジェットグライダーが急激に変化して人の形になり、アルファ7も姿を現した。

「アダム!」

カミーユとダニエルは驚いたように二人を見た。

「どこにいたんだ。アダム、全く連絡が付かないし、ずっと捜索していたが、、全く見つけれなかったぞ」

アダムは笑いながら

「悪い、悪い、誰にも邪魔されずに身の回りの整理をしたいから、外の世界と連絡を絶っていたんだ」

アダムは急にまじめな顔になり

「しかし、大変なことになったな、イブ達の行き先を知るためには、ここに来れることで詳しい情報を得ることができると思ってな」

カミーユは情報棟の2階にアダム達を案内して、今わかっていることを全て話した。

「なるほどな、時空の壁を越えて過去に飛ばされたということか」

アダムは笑みを浮かべて、

「カミーユ、ダニエル、そう慌てるな、慌てたところで、もう過去で起きたことは現在では全て終わっている出来事だ。もっと視野を広く柔軟に考えろ」

ダニエルは急にのんびりし始めたアダムにいら立つように

「ドニーズのリボルバーが出てきた場所からして、過去の時代で殺されている可能性が高いと考えています。一刻も早く過去の時代に行く方法をアダム教えてもらえませんか?」

アダムはため息をついて

「ふ~、過去に行くことは無理だ。イブ達はたくさんの偶然が重なり、過去に行くことができたんだ。しかも、そんな正確な時代に行くことなど絶対に不可能だ」

「それでは、どうすればいいのですか?」

「アルファ7、軌道上を周回していた、わが宇宙船の観察データから、過去の日本でイブ達が写っている映像はないか、サーチしてみてくれ」

「承知しました」

カミーユ達は驚いた表情で

「どういうことですか?アダム」

アダムは淡々と説明をはじめた。

「私は1万年以上前にイブが消息を絶ったこの地球に母星の指示を無視して、お前たちが言う棺とは別に小型の宇宙船で、アルファシングルナンバー達と訪れた。私はイブのことが心配で急いでアトランティスがあった近くの島に宇宙船からポットでアルファ7を含めた5体のアンドロイド共に不時着した。その島はちょうど天候が悪く、落雷がポットを直撃、私とアルファ7のポットだけは直撃を免れたが、雨が降っていて近くにいたため、雷の影響を受けて、通信装置やポットの航行システムがダウンして、アルファ7も状態異常が出てしまった。幸い、ポットの冬眠システムは問題なかったが、そして、前にお前たちに話した通りだ。そして、その後も軌道上にいた宇宙船は正常に稼働を続け、1万年近く、この地球を観察していた、イブ達の協力もあり、宇宙船との通信機能が復活、最近購入した、パリ郊外の家の庭に現在は置いてある、もちろん、廻りの状況に同化しているから、外部の人から何も見えないが」

「それはすごいですね」

アルファ7はまるで置物ように動かなくなり、宇宙船とリンクして過去の日本、およそ2000年ほど前のデータの分析を始めた。
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