平和への使者

Daisaku

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過去の痕跡

152話 さみしい女性

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「じゃあ、またね、カトリーヌ、クララ」

「ありがとうショウコ」

松田家の車で2人を家の近くまで送り、車内で松田祥子と飯沢隆は明日の追悼式の話を始めた。

「隆、あの2人は明日の追悼式は出席できないけど、私たちは、なんとか、出席させてもらえるようになったわ」

「そうか~よかった。僕も祥子もマリがあんなにすごい人だなんて、知らなかったから、
追悼式にも呼んでくれるか心配だったよね」

祥子は今まで、マリは勉強も普段の立ち振る舞いも自分より下で、いつも見下していたが、格闘技・戦術・サバイバル・統率力や、あらゆる武器にも精通しており、カミーユ大尉から、F15戦闘機まで操縦できると聞いて、いかに自分が小さい世界の中でしか、マリを見ることができない、幼い子供だということが、よくわかった。自分が平和な学校で生活をしている時にマリはいく度の作戦の中で死と隣り合わせでくぐりぬけ、任務を達成してきた。そんなマリだから、あれだけの軍人や政治家、そして宇宙人までもが、その能力を認め、付き従っていることがわかった。いつの日か自分もマリ以上の人間になって見せると強く思ったが、その目標はマリが死んでしまい、今は何をしていいのか、わからなくなっていた。そんな時、祥子達が乗っている車がセーヌ川の橋を渡ろうとしているところ、橋の歩道で一人さみしく川を眺めている女性を見つけた。

「大竹さん!ちょっと車を止めて」

「どうしました?お嬢さま」

「ちょっと、あの人、何か自殺でもしそうな感じがするわ」

運転手の大竹と飯沢隆はその女性を車から見た。

「祥子、あ~いう人は世の中にはいっぱいいるよ。それをいちいち相手にしていたら、キリがないよ」

祥子は隆が言う言葉を無視して、車を降りて、その女性のところに歩いて行った。

「あの~大丈夫ですか?」

急に後ろから声をかけられて、その女性はびっくりして、なれないフランス語で

「大丈夫です。ありがとう」

祥子はフランス語があまりしゃべれないと思い、試しに日本語で話してみた。

「こんにちは、どうしました?本当に大丈夫ですか?」

女性は日本語を話してくれたことに喜び

「日本人ですか。なかなかフランス語は難しくて、うまく話せなくてすみません。先ほど、目的地に行ったんですけど、思い切り怒鳴られて、逮捕するぞ、なんて言われて
こんな遠いところまで来たのに、なにもできずに明日、日本に帰るところなんです」

祥子は不思議とこの女性に親近感を覚え

「そうですか。それは大変でしたね」

祥子はその女性の服装がジーンズにトレーナーを着て、古いリュックサックをしょっているのを見て

「失礼ですけど、今日は泊るところはあるのですか?」

その女性は恥ずかしそうに

「アハハ、ここに来るだけでも、無理があったのですが、今日は空港の椅子で寝て、明日の朝の便で日本に帰る予定です。貧乏なのに、こんなフランスのパリまで来て、なにもできなくて本当情けないです」

その女性は目的が達成できなかったのが、とてもくやしそうで、少し涙が出ていた。
祥子はその様子を見て

「もし、良かったら、今晩、私の知合いのホテルに泊まりませんか」

その女性は困った様子で

「すみません。せっかく、誘っていただいたのに、お恥ずかしいですが、宿泊費を持ち合わせていませんので、気にしないで、お帰りください」

祥子は失礼な言い方をしてしまったと思い

「いいえ、お金なんていりません。今日はキャンセルが入ってちょうど、部屋が無料で使えるので、心配なさらないでください」

「でも~、こんないきなり会った方にそこまでしていただくなんて」

「今日は、わたしのおばあさまがパリに来ていて、夜、一緒に食事をするんですけど、一対一だと、会話が続かないし、結構、まじめで口うるさいので、ちょうど困っていましたから」

「そんな、おばあさまとの大切な時間、私なんかが、邪魔してはご迷惑ですよ」

祥子は笑いながら

「いいえ、これは私からのお願いです。一緒に来てください。せっかくパリにこられたんですから、少しは楽しい思い出がなければ、もったいないですよ」

女性は祥子に引っ張られて、半ば無理やり車に乗せられた。

「大竹さん、隆を大使館に下ろしたら、すぐにおばあさまがいるホテルに向かってくれる」

「承知しました。お嬢様」

隆は急に乗ってきた女性に驚きながら

「ボンジュール、タカシ・イイザワです」

と流暢なフランス語で話だした。女性はすぐに日本語で

「すみません。フランス語はほとんどわかりません。日本語でお願いします」

隆は日本人だとわかるとうれしそうに

「失礼しました。パリには観光で来られたんですか?」

「いいえ、大事な用事できたんですけど、門前払いをされまして、仕方なく、明日、日本に帰ります」
「そうですか。大変でしたね。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「あ、いけない、ごめんなさい。私は大平まみと言います。徳島大学2年生です」

「うわあ、大学生ですか。そうすると、2歳年上ですね。僕たちはパリのヘンリ高校に今月から通っているんですよ」

「すごいですね。フランス語もかなりできるみたいで、うらやましいです」

祥子はなんで、フランス語もできないのにパリまで来たのか不思議に思い

「私は松田祥子といいます。あのまみさん、パリまで来て、門前払いをされたと言ってましたが、どんな用件で来られたんですか?」

まみは少し考えて

「実は、私、小さい時から、日本の歴史、特に古代の日本の神様について興味がありまして、日本のあちこちに行き、調査や聞き込みを行い、やっと、2000年ほど前の王宮の場所を発見したんです。それで、不思議なことにフランスと関りのある遺跡がでてきたもので、パリまで来たんです」

祥子と隆は、そんな昔の日本の王の住まいなどわかる人など、いないことを知っているため、キツネにつままれたような気持ちなり、

「まみさん・・そんなに簡単に昔の王が住んでいたところなんて、見つけられませんよ。

たくさんの考古学者や歴史家などがかなりの年月をかけても発見できないのですから」

まみは悲しい顔をして

「私の力だけではありません。そういった方達の研究成果や色々なところでの伝承などをたどって、やっと見つけることができたのです。私、遺跡のことになると夢中になってしまうので、よく浮浪者に間違えられて、逮捕されたこともあります。アハハ・・」

祥子はこの人、変わっているな~と思ったが、話をしていると正直な人で、自分のやりたいことにまっすぐに向かっていく姿勢がとてもまぶしく見えた。

「隆さん、大使館に着きましたよ」

「ありがとう。大竹さん、それじゃあ、祥子、あす会場でな、まみさん、今日は祥子とホテルで楽しんでくださいね。祥子はすこし口が悪いですが、根はすごくいいやつなんで」

「余計なことを言ってないで、早く降りなさいよ隆!」

「お~こわ」

飯沢隆を降ろして、祥子達は松田マツがいるホテルへ向かった。松田マツは約束に変更がある時は事前に連絡をしないと、イライラするので、祥子はすぐに電話をした。

「プルルル・・・ガチャどちら様ですか?」

「あ、黒川さん、祥子です。おばあさまはいますか?」

「少々、お待ちください」

しばらくして

「祥子か、もうホテルに着くのかい?」

「あと15分ぐらいです。それとおばあさま、ちょっと、色々ありまして、日本の女子大生を1人、一緒に食事をさせてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」

「女子大生?あんたがそんな知り合いを連れてくるなんてめずらしいじゃないか」

「とても、素直でいい方なので、おばあさまも気にいると思いますよ」

「祥子がそこまで言うなら連れておいで、まあ、私と食事なんて、息が詰まるから、大方、お願いして連れてきたんだろ」

祥子はドキっとして、さすが、おばあさま、なんでもお見通しだな~と思った。

「それでは、また、あとで」

まみは運転手付きのこの女子高生はいったいどんな生活をしている人なんだろうと
考えていた
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