平和への使者

Daisaku

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倭国大乱

146話 護り人との戦闘

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「マナ隊長、このような子ども、あなた様が相手にすることはありません。我ら突撃隊にお任せください」

マナはこの少女のとてつもない力を感じ取っており、こいつらでは歯が立たないとわかっていたが、先ほど、自分が言った、逃げずに死ぬまで戦えと言った手前、止めることができなかった。

「よし、突撃隊、行ってこい、子供だと思って手を抜くな、こいつは普通じゃないぞ」

「ワハハ、マナ隊長ともあろう方がこのような子どもに何を言っておられるか」

突撃隊の長は、こわいもの知らずの男で、常に前に出たがる、10人の部隊からなる精鋭でこれまでも数々の戦で武勇を上げてきた。

「いくぞ!マナ隊長のご指示を無視するわけにいかん、万全の態勢で闘うぞ、密集体系針の矢!」

その掛け声で、10人の戦士は長を一番後ろにしてその前に9人がまっすぐ並び、
マリに対して一本の矢のように構えた。そして

「突撃!」

10人の戦士がまっすぐ並んだまま、マリに突進してきた。マリは逃げることなく正面に立ったまま気をためていた。その様子をマナ隊長をはじめ、残りの兵士が息を飲んで見ていた。あの一直線に向かってくる針の矢は今まで、どんな鉄壁な守りも吹き飛ばしてきた威力を持つ、それをあの少女は正面から立ち向かおうとしている。皆、あの少女はこれで死んだなと思った。そして気をためていたマリが突撃隊に向けて多人掃討波を撃ち込んだ。

「フ~ハー!」

とんでもない爆風が吹き荒れた。その風の強さに皆、目を閉じた。しばらくして、目を開けると突撃隊は10人全員吹き飛ばされ、気絶していた。兵士達は一体何が起きたのかわからず、ただ茫然とその状況を見ていた。

「貴様~、我が兵士を殺したな~許さん!」

マナ隊長はマリに向かって大声を出した。マリはキョトンとした顔で

「誰も殺してませんよ。ちゃんと手加減してますから、マナ隊長はすぐに殺す殺すと
言ってるけど、殺したら、人は役に立てないし、恨みを買うだけだし、殺した人も気分悪いし、いいことなんてひとつもないでしょ」

涼しい顔で生意気なことを言う少女にマナはさらに怒り出した。

「子供が調子にのりやがって、こんな子供一人に我が隊全員で倒しに行くのも情けない、私が直々に戦ってやろう」

馬から降りたマナ隊長は身長が2m近くある大男だった、マリはその大男を見て、すごい大きい人だな~と呑気なことを思っていた。マナ隊長はマリに対峙すると、刀を抜き構えた。
マリはその構や動きを見て、『あれっ?』と思った。それは、自分がおばあちゃんに死ぬほどつらい鍛錬の中教わった、剣術水気衝と全く同じだった。

「ねえ、マナ隊長、自分だけ刀で闘うの?わたしは武器なんて持ってないんだよ」

「ふん、お前に武器など使えるのか?まあ、よい、こんな子供にそこまで言われては気分が悪い、おい、バーミャ、お前の剣を貸してやれ」

バーミャは自分が大事にしている剣だったが、隊長の命令なので

「ふん、剣など使えるのか、お前、まあ、せいぜい、隊長にかわいがってもらえ、ほら」

バーミャは剣をマリに投げた。その剣を受け取った途端、目にも見えない速さで、その剣を振り回し、重さや長さ、くせなどを確認した。

「ねえ、マナ隊長」

「今度はなんだ。娘!」

「あの~隊長は剣術をどこで習ったんですか?」

「ふん、この剣術はマナ族に伝わる古来から、一族に伝承されてきた武術、我が一族以外の者が使えるようなものではない」

マリはなんで、私が教わった剣術をこの人が使えるのかよくわからないけど、念のため、
剣を持ち、同じ土俵で戦った方がいいと自分の感覚がそう訴えていた。マリはマナ隊長を見て、まるで、同じ道場のライバルのような気持ちで、隊長と同じ、松田松濤館剣術水気衝の構えをした。マナ隊長はそれを見て、真似をされたと思い、

「ふざけたことを考えるなよ娘、この剣術はそんなに簡単に真似できないぞ」

「あの~ちょっと私、この剣をはじめて使うから、少し慣れるまで、待ってくれますか」

「こいつ~さっきから聞いていれば、調子にのりおって」

マナ隊長は怒っていたが、マリはそんなことを気にせず、この剣は自在に使えるが、思い切り使った時の剣の切れ味や威力だけはどうしても確認しておきたかった。それを知らなければ、マナ隊長を真っ二つにしてしまうかもしれないからだ。マリは近くにあった大きな岩を見つけて、水気衝の構えをして、気をためた。マナ隊の兵士たちは、

「あの娘は大きな岩を見つめて何をしているんだ。頭がおかしいのか」

そう言って笑い飛ばしていた。しばらくして

「チン」

と小さな音がした。そして、マリが隊長の方を向いて

「マナ隊長、お待たせしました。やっと剣の切れ味とその威力が確認できました」

「ワハハ、大岩を見つめて、切れ味がわかったのか。お前は頭がおかしいのか」

マナ隊長に同調するように隊の兵士たちも大笑いしていた。その様子を離れてみていたイブとユウキは

「ユウキ、マリはどれだけ強いんだ。私達はマリの最大限の力を見てみたいものだ。あんな大岩を簡単に真っ二つにしてしまうんだからな」

「イブ、あいつら全然気づいてないよ。笑えるな」

笑っている兵士の一人が大岩に寄りかかった途端

「ドス~ン」

と大岩が真っ二つに割れて地面に滑り落ちた。それを見ていた兵士たちは何が起きたか理解できずに、震えるようにそこに立ち尽くしていた。マリはマナ隊長を見て

「マナ隊長もあの岩のように真っ二つになりますか?」

ニコっとかわいい笑顔で笑い、マリは堂々とマナ隊長に近づいていった。

「見えなかった。この私でも、だが、私は倭の国、第4の護り人、相手が娘だろうが、化け物だろうが、逃げるわけにはいかん。さあこい娘」

マリは同じ剣術を使うものとして、マナ隊長の闘う意思を尊重して、戦う構えに入った。

「行くぞ!」

マナ隊長は大柄の体とは思えぬほどのスピードでマリに向かって行った。マリはその動きのスキを見つけて、剣の刃を逆にして、マナ隊長の剣を交わして、腹部に水気衝を撃ち込んだ。マナ隊長の巨漢は10メートルほど飛ばされ、その衝撃でケイレンを起こし、気絶した。とてつもない強さを誇る隊長が一瞬で倒され、兵士たちは驚きと恐怖で皆、動けなくなった。そして、マリは大声で兵士に叫んだ。

「隊長は倒したわ。みんな降伏しなさい」

マナ隊の兵士はマリの言うことなど聞かず、それぞれの10人ほどで構成される隊が陣形を整え、マリに攻撃する態勢に入った。

「我らに降伏などない。敵に屈服して生きるくらいなら、戦士の誇りを持って戦って死ぬことを選ぶ」

「多重陣形層~構え~い」

一斉にマリを中心に残りの80人ほどの兵士が8隊に別れ、取り囲んだ。軍師のバーミャはマリの動きを分析して、戦略を考え、指示を出した。

「第1から第3隊、突撃、続いて第4から第6隊弓矢で攻撃、第7から第8隊盾で取り囲み殲滅しろ~かかれ~」

マリの話など全く聞かず、兵士が一斉にマリに向かってきた。マリはバーミャの剣を使い、その場で気をためて回転し始めた。

「剣術飛翔疾風陣!」

マリに突撃してきた兵士がまるでハリケーンの中に突撃したように次から次へ空高く飛ばされていった。そして、その爆風の中、弓矢を持った兵士を目に見えないほど速さで剣で急所をついて行った。そして、その外側にいる盾を持った兵士に

「剣術水切り!」

そうマリが言った途端、兵士の盾は真っ二つになり、無防備になったところを同じく剣で急所をつき、あっと言う間に、80人もいた兵士が倒されてしまった。

馬にまたがって、戦況を見ていた、軍師バーミャが震えるように

「バ・バカな、無敵を誇っていた、マナ隊が全滅するなど・・・ありえん・・・」

そこにマリが一瞬で現れ、バーミャも剣で吹き飛ばされ倒された。

マリの鬼人のような動きに近くで見ていたユウキとイブは開いた口がふさがらなかった。

「こ・これが、マリの本当の力なのか。私が助ける暇もなかった。すごすぎる・・・」

ユウキもマリの戦いを見て、かつての使者ヤエなど、足元にも及ばないほど、マリは強くなっており、自分がマリの力をかなり過少評価していたと思った。

「とても、人間の動きを超越している。こんな存在が長くこの時代にいれば、この世界は想像もできないほど大きく変わってしまう」

マリは周囲を見渡し、マナ隊を全員倒したことを確認すると

「フ~、疲れた。この人たち、倒されるのが分かっているのに、突撃してくるんだから」

戦いも終わり、先ほど切った石の上に腰を下ろして一息ついた。

「マリ~」

離れた場所で見ていたユウキとイブが近寄ってきた。

「マリ、すごかったな、あっという間に倒したな」

「ローマ軍のようなマナ隊でも、マリには全く歯が立たなかったな、あまり強い兵士ではなかったな」

マリはイブを見つめて

「イブ違うよ。この兵士達、ものすごく強いよ。普通で考えられないぐらい、特にマナ隊長は私が知っている武術を使い、まるで、似た者同士といった感じもしたんだ、それと、とんでもない秘奥義を隠し持っているようだった。だから、私はそれを出される前に倒すことができて運がよかった。もしかしたら、その秘奥義を出されたら、ここで倒れていたのは私だったと思う」

「そんなに強いのか?こいつら」

「うん、私、こんなに本気で闘ったこと、今まで一度もなかったもの」

「そうか、我々はマリがあっという間に倒したから、てっきり弱い兵士達だと思ったよ」

「それより、ユウキ・イブ、この人達、これからどうしようか?」

「そうだな、危険なやつらだから、殺してしまいたいのは山々だが、歴史への影響がそれでは大きすぎるだろ」

3人が悩んでいる時に後ろで倒れていたはずのマナ隊長がお腹をかかえて立ち上がった。

「早く、殺せ、我らはお前に負けたのだ。全員、戦って負けたのだ。皆、悔いはない」

マリはギロっとマナ隊長を睨み

「いやよ。絶対に殺さないから」

「生き恥をさらすくらいなら、死んだ方がマシだ」

「生き恥?バカじゃないの。私達以外はここにいないのだから、私達が言いふらさなければ、そんなことばれないわよ」

「だが、武人として、それでは気が済まない」

イブは頭の固いマナ隊長を見て

「ならば、お前ら、ここで死んだことにしろ。そして、これからは私達の部下になれ」

「部下?」

「そうだ。ここでは、強者がすべての上になる。そういう世界だろうが、だから、お前達は私達に従え、これは、お願いではない、兵士として、敗北は死を意味する。そしてお前達はここで死んだのだ。そして、勝者である者が命令を出したのだ。武人の誇りがあるのなら、命令に従うことだ」

マナ隊長はしばらく考えた。

「よし、わかった。お前達に従おう。しかし、お前達はどこの誰なのだ?」

イブはすぐに返答しようとしたが、マリが隊長に

「マナ隊長、ちょっと待ってて、イブと向こうで話をしてくるから」

マナ隊長はうなずき、痛めているお腹を押さえて、その場に座り込んだ。

「イブ!あなた、なに考えているのよ。あんなにたくさんの兵士を部下にするなんて」

「何を言っている。こいつら、マリの話じゃ、ものすごく強い兵士なんだろう。ならば、部下にして、石森の村を守らせたり、役に立つことはたくさんあると思うが」

「そうだね。おそらく、第4の護り人が王の元に戻らなければ、第2・第3の兵士がたくさん押し寄せて来るだろうからね。僕たちもいつまで、ここにいれるかわからないしね」

マリは、あんな乱暴なマナ隊が自分達の命令に従ってくれるとは、考えられないし、とても、不安な気持ちになった。
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