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セーヴルの老女
60話 詐欺グループ
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エマはセーヴルの街まで葉子の車で送られ、自宅に着いた。
「あら、お母さん、今日は帰りが早かったんですね。夕ご飯はそこに作っておいてありますから、食べてくださいよ」
「みんなは食べたのかい?」
「あの子達もアルバイトだし、、主人も残業で遅くなるみたいで、今日は家では食べませんよ」
「そうかい、ちょっと大事な話があるんだが」
「そんなことより、はやく食べてしまってください。片付かないから」
「あ~わかったよ。みんな何時なら帰ってくるんだい」
「わかりませんね。主人は21時には帰りますけど、あの子達はいつになるか」
「そうかい、大事な話だから、みんなと最後に話をしたかったが、そうかい」
エマは食卓の上にある冷えたご飯をいつものように、一人さびしく食べていた。
だが、今日のエマは違っていた。なぜなら、上官からの命令が50年ぶりに発せられたからだ。
本来、今生きている仲間に連絡を取り、このすばらしい報告をして、喜びを分かち合いたいところだが、今、なんとか、生きている仲間も体がまともに動く者もおらず、新しい大将は我々に対して、かつての姐さんと同じように暖かく、そして、敬意を払い、真剣に接してくれた。
もう、エマの心はさみしさや悲しさなどはみじんも感じられない、かつての情報局局員としての誇りを取り戻したからだ。ご飯を食べ終えて、エマはものすごく狭い自分の部屋に入り、
クローゼットの奥にしまっていた。当時の写真と仲間の連絡先を取り出した。たしか、新しい大将は
「エマさん、私にそのほかの仲間の写真と連絡先を教えてくれませんか?私の方で、まだ、ご存命の方がいらっしゃれば、できる限りのことをさせていただきます。また、お亡くなりになられていても、局員の奥様もしくはご主人がご存命なら、同じように対応いたします。明日、遅くてすみませんが、19時にご自宅に伺いますので、それをお貸しください」
「かまわないけど、もう、しばらく私一人になって、あそこを掃除していたから、みんな生きているかどうかわかりませんよ」
「それと、エマさんの準備ができましたら、いつでも連絡をください。新しい、家にご案内します。そこでは食事や日常生活に必要なすべてが揃っていますから」
「ありがとう、でも家族とも話をしなくちゃならないから」
エマはあの時に笑った顔が昔の姐さんとそっくりだったことが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。そんなことを考えながら、今日はいろいろな事があったせいか、少しベットで寝てしまった。
「帰ったぞ~」
「あなたお帰りなさい。2人はどうした」
「あの子たちはアルバイトを終わって、どうせまた、友達の家で遊んでいるんでしょ。ここは狭くて遊ぶスペースがないとか、いつも言ってたから」
「母さんは?」
「お部屋ですよ。もう寝てるんじゃないかしら、あなた、これから、お母さんはどうするの?」
「どうするって?」
「だって、病気にでもなって、入院なんてことになったら、もう、うちは生活できなくなっちゃうわよ」
「うん、そうだな」
「どうにか、できないの」
「そんなこと言ったって、どうにもできないだろ、お母さんはそりゃあ、お金はないけど、小さい時から、僕を大事に育ててくれたんだ。絶対に裏切るようなことはできないよ」
「私は、そういうことを言っているうんじゃないの。現実的な話を言っているの!」
エマは息子夫婦の喧嘩の声に反応して、起きてリビングに歩いてきた。
「母さん、ごめん、聞こえちゃった」
「あ~聞こえたよ。いつも悪かったね。私のことで喧嘩になってしまって」
「忙しいとは思うけど、ちょっと二人ともここに座って話さないかい」
二人は言われたとおり、リビングのイスに座った。ここは、町はずれの住宅街で外は物音ひとつしない静かなところだった。
「セドリック、クロエさん、本当に長い間、私のことで面倒かけてすまなかったね。うちの旦那が事業に失敗して、失踪して、全くお金のない私の面倒を見てくれて」
エマは諜報部に在籍していたため、お金を稼ぐことはとてもうまかったが、旦那に裏切られて、
とてつもない、借金の支払いが生じて、お金が全くない老人に成り下がってしまっていた。
「なんだよ。急に母さん、どうしたんだよ。これからも一緒に暮らして行こうよ」
「あんたは、小さい時から優しい子で、大人になった今でも全く変わらないから、うれしいよ」
エマの息子セドリックは母譲りで学歴もあり、頭もすごくいいが、優しすぎるため、いつも手柄を同僚に横取りされる、お人好しでもある。
「昔から、何度か二人にも、孫たちにも話したことがあるけど、私はフランス軍の秘密情報局で働いていた話をしただろ。覚えているかい?」
「お母さん、また、その話ですか?そんな夢みたいな話、信じられないと私達も息子達も
笑って聞いてたじゃないですか」
「そうだよ。母さん、もういい年なんだから、また、そんなこと言ってるとぼけ老人なんて
言われちゃうよ」
エマはため息をついて、
「今日、施設の掃除に行ったらね。新しい大将が来てね。私にこう言ったんだよ。
フランス国秘密情報局相談役に任命するってね」
セドリックとクロエは目を合わせて、大笑いをしてしまった。
「お母さん、それは絶対、偽物ですよ。からかわれたんですよ。もう、笑わさないでくださいよ」
「そうだよ。母さん、今の話、面白すぎでしょ」
二人とも大笑いをした。
「そうかい、永い間、私は姐さんの命令で能力を封印してきたけど、新しい命令が発せらた今、もう隠すことはないね」
そう言って、イスからゆっくりと立ち上がり、こう言った。
「我がフランスを占領せしめた悪しき国を追い払い、命のやり取りをした我が同志たちに捧ぐ、今日、この日から元フランス国秘密情報部エマ・バダンテールは命ある限り、大将マリ・トビシマに従う。新たな情報部相談役として」
そして、エマは10か国語、操る才女でもあり、各国の言葉で何度もその内容を大きな声で二人に聞かせた。
「母さん大丈夫?」
「二人には、はじめて聞かせるね。私は元諜報部員だからね、今、言った通り10か国語を話せるんだよ。そして、命令が発せられた以上、私はそれに従う。それでね。もう今週中にはこの家を出るよ。本当に永い間、お世話になったね。だから、クロエさん、もう私のことを気にすることはないから」
「なに言ってるんだよ。母さん、母さんはそいつにだまされているんだよ」
「そうですよ。お母さん、訳のわからない言葉を発して、私達にそこまでして、ウソをつかなくていいんですよ」
「クロエ、ちょっと違うな、母さんの今言った国の言葉、ほとんど合っているよ。母さんが10か国の言葉を話せるのはどうやら本当だよ」
「え~、そうなの。信じられないわ。まあでも、年寄りにこんな手の込んだことをするなんて、
なんかとんでもない詐欺グループなんじゃないの」
「母さん、その人達とはもう会わない方がいいよ」
エマは笑いながら、
「無理だよ。明日の19時にここに来るからね」
「え!この場所を教えちゃったの!」
「お母さん、悪い人に住所なんか教えたら、ダメですよ」
「あなた、明日19時に帰ってこれる」
「当たり前だろ、子供達ももう大学生だし、協力してもらおう」
「私は、近所の人たちにも言って、集まってもらうわ」
「おう、頼む、お前は友達が多いからな。ちょっと、子供たちに電話する、どっちにしても、
もうこんな時間だ。この件も含め、車で迎えに行って連れ帰ってくる!」
エマはいつも家で邪魔者扱いされ、さみしい思いをしていたが、本当はこんなに息子達に大事にされていたと思い、嬉しくなってしまった。
「あら、お母さん、今日は帰りが早かったんですね。夕ご飯はそこに作っておいてありますから、食べてくださいよ」
「みんなは食べたのかい?」
「あの子達もアルバイトだし、、主人も残業で遅くなるみたいで、今日は家では食べませんよ」
「そうかい、ちょっと大事な話があるんだが」
「そんなことより、はやく食べてしまってください。片付かないから」
「あ~わかったよ。みんな何時なら帰ってくるんだい」
「わかりませんね。主人は21時には帰りますけど、あの子達はいつになるか」
「そうかい、大事な話だから、みんなと最後に話をしたかったが、そうかい」
エマは食卓の上にある冷えたご飯をいつものように、一人さびしく食べていた。
だが、今日のエマは違っていた。なぜなら、上官からの命令が50年ぶりに発せられたからだ。
本来、今生きている仲間に連絡を取り、このすばらしい報告をして、喜びを分かち合いたいところだが、今、なんとか、生きている仲間も体がまともに動く者もおらず、新しい大将は我々に対して、かつての姐さんと同じように暖かく、そして、敬意を払い、真剣に接してくれた。
もう、エマの心はさみしさや悲しさなどはみじんも感じられない、かつての情報局局員としての誇りを取り戻したからだ。ご飯を食べ終えて、エマはものすごく狭い自分の部屋に入り、
クローゼットの奥にしまっていた。当時の写真と仲間の連絡先を取り出した。たしか、新しい大将は
「エマさん、私にそのほかの仲間の写真と連絡先を教えてくれませんか?私の方で、まだ、ご存命の方がいらっしゃれば、できる限りのことをさせていただきます。また、お亡くなりになられていても、局員の奥様もしくはご主人がご存命なら、同じように対応いたします。明日、遅くてすみませんが、19時にご自宅に伺いますので、それをお貸しください」
「かまわないけど、もう、しばらく私一人になって、あそこを掃除していたから、みんな生きているかどうかわかりませんよ」
「それと、エマさんの準備ができましたら、いつでも連絡をください。新しい、家にご案内します。そこでは食事や日常生活に必要なすべてが揃っていますから」
「ありがとう、でも家族とも話をしなくちゃならないから」
エマはあの時に笑った顔が昔の姐さんとそっくりだったことが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。そんなことを考えながら、今日はいろいろな事があったせいか、少しベットで寝てしまった。
「帰ったぞ~」
「あなたお帰りなさい。2人はどうした」
「あの子たちはアルバイトを終わって、どうせまた、友達の家で遊んでいるんでしょ。ここは狭くて遊ぶスペースがないとか、いつも言ってたから」
「母さんは?」
「お部屋ですよ。もう寝てるんじゃないかしら、あなた、これから、お母さんはどうするの?」
「どうするって?」
「だって、病気にでもなって、入院なんてことになったら、もう、うちは生活できなくなっちゃうわよ」
「うん、そうだな」
「どうにか、できないの」
「そんなこと言ったって、どうにもできないだろ、お母さんはそりゃあ、お金はないけど、小さい時から、僕を大事に育ててくれたんだ。絶対に裏切るようなことはできないよ」
「私は、そういうことを言っているうんじゃないの。現実的な話を言っているの!」
エマは息子夫婦の喧嘩の声に反応して、起きてリビングに歩いてきた。
「母さん、ごめん、聞こえちゃった」
「あ~聞こえたよ。いつも悪かったね。私のことで喧嘩になってしまって」
「忙しいとは思うけど、ちょっと二人ともここに座って話さないかい」
二人は言われたとおり、リビングのイスに座った。ここは、町はずれの住宅街で外は物音ひとつしない静かなところだった。
「セドリック、クロエさん、本当に長い間、私のことで面倒かけてすまなかったね。うちの旦那が事業に失敗して、失踪して、全くお金のない私の面倒を見てくれて」
エマは諜報部に在籍していたため、お金を稼ぐことはとてもうまかったが、旦那に裏切られて、
とてつもない、借金の支払いが生じて、お金が全くない老人に成り下がってしまっていた。
「なんだよ。急に母さん、どうしたんだよ。これからも一緒に暮らして行こうよ」
「あんたは、小さい時から優しい子で、大人になった今でも全く変わらないから、うれしいよ」
エマの息子セドリックは母譲りで学歴もあり、頭もすごくいいが、優しすぎるため、いつも手柄を同僚に横取りされる、お人好しでもある。
「昔から、何度か二人にも、孫たちにも話したことがあるけど、私はフランス軍の秘密情報局で働いていた話をしただろ。覚えているかい?」
「お母さん、また、その話ですか?そんな夢みたいな話、信じられないと私達も息子達も
笑って聞いてたじゃないですか」
「そうだよ。母さん、もういい年なんだから、また、そんなこと言ってるとぼけ老人なんて
言われちゃうよ」
エマはため息をついて、
「今日、施設の掃除に行ったらね。新しい大将が来てね。私にこう言ったんだよ。
フランス国秘密情報局相談役に任命するってね」
セドリックとクロエは目を合わせて、大笑いをしてしまった。
「お母さん、それは絶対、偽物ですよ。からかわれたんですよ。もう、笑わさないでくださいよ」
「そうだよ。母さん、今の話、面白すぎでしょ」
二人とも大笑いをした。
「そうかい、永い間、私は姐さんの命令で能力を封印してきたけど、新しい命令が発せらた今、もう隠すことはないね」
そう言って、イスからゆっくりと立ち上がり、こう言った。
「我がフランスを占領せしめた悪しき国を追い払い、命のやり取りをした我が同志たちに捧ぐ、今日、この日から元フランス国秘密情報部エマ・バダンテールは命ある限り、大将マリ・トビシマに従う。新たな情報部相談役として」
そして、エマは10か国語、操る才女でもあり、各国の言葉で何度もその内容を大きな声で二人に聞かせた。
「母さん大丈夫?」
「二人には、はじめて聞かせるね。私は元諜報部員だからね、今、言った通り10か国語を話せるんだよ。そして、命令が発せられた以上、私はそれに従う。それでね。もう今週中にはこの家を出るよ。本当に永い間、お世話になったね。だから、クロエさん、もう私のことを気にすることはないから」
「なに言ってるんだよ。母さん、母さんはそいつにだまされているんだよ」
「そうですよ。お母さん、訳のわからない言葉を発して、私達にそこまでして、ウソをつかなくていいんですよ」
「クロエ、ちょっと違うな、母さんの今言った国の言葉、ほとんど合っているよ。母さんが10か国の言葉を話せるのはどうやら本当だよ」
「え~、そうなの。信じられないわ。まあでも、年寄りにこんな手の込んだことをするなんて、
なんかとんでもない詐欺グループなんじゃないの」
「母さん、その人達とはもう会わない方がいいよ」
エマは笑いながら、
「無理だよ。明日の19時にここに来るからね」
「え!この場所を教えちゃったの!」
「お母さん、悪い人に住所なんか教えたら、ダメですよ」
「あなた、明日19時に帰ってこれる」
「当たり前だろ、子供達ももう大学生だし、協力してもらおう」
「私は、近所の人たちにも言って、集まってもらうわ」
「おう、頼む、お前は友達が多いからな。ちょっと、子供たちに電話する、どっちにしても、
もうこんな時間だ。この件も含め、車で迎えに行って連れ帰ってくる!」
エマはいつも家で邪魔者扱いされ、さみしい思いをしていたが、本当はこんなに息子達に大事にされていたと思い、嬉しくなってしまった。
応援ありがとうございます!
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