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イブの秘密
53話 ナイトミュージアム
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マリはフランスに来てもう3週間が経とうとしている。パリは5月末頃でも湿気が少なく、気温も20℃を超えることもなく、大変すごしやすい時期で朝は6時ごろから明るくなり、夜になるのは22時過ぎごろとなる。
マリは学校での生活も慣れ始め、日本とは違い、活気あふれる生徒が多く、日本の一方通行授業と違い、特に外国語授業では先生に対しての質問やプライベートなことなどを話したり、みんなで、楽しい時間を作り出そうとする雰囲気がとても新鮮で内気だったマリも人見知りせずに話せるようになってきていた。でも、一番驚いたのは、落第する生徒が多いこと、日本では毎日高校に行っていれば、同じ学年を2度通うなんてことはないが、フランスでは勉強、特に小論文式の問題が多いが、点数が悪ければ、落第してしまう。ここでは、大学受験はなく、高二と高三で準備するバカロレアという高校卒業資格試験に受からなければ、高校を卒業したことにならないため、宿題もかなり多いが、皆、必死で勉強する生徒が多い。この卒業資格さえあれば大学はどこでも行くことができる。
「マリ~、今日も授業長かったね。ちゃんとついていけてる?」
もう学校の時計は18時になろうとしている。
「ぜん、ぜ~んだめ、特にフランス語だってままならないのに、第一外国語ってなに?って感じだよ。はあ~いいな、イブやユウキは何でも知っているもんね。それなのに、毎日、こんな長~い授業つきあってもらって悪いね」
「いやあ~、また環境の違うところで学校生活も悪くはないよ。自分なりに時間を使って、考えることもできるしね」
「イブはどう?」
「気にしないで、一人でいるより、こんなたくさんの人がいる中での学校生活も案外、面白いわよ。特に、ここフランスではキリスト教やら、哲学に関する授業が多いから、いろいろと人間のことを深く知ることができて、興味深い時間もあるしね」
「はあ~、わたしはイブとユウキが色々と教えてくれるから、なんとかこの学校に通えているって感じだもの。いつも、ありがとうね。二人とも」
マリは今日もがっくりといった感じでクタクタになっていた。
「ねえ、マリ、毎日、稽古や勉強ばかりで気分的にも疲れているだろうから、明日は土曜日だし、パリではナイトミュージアムの日だから、思い切り羽をのばそうよ」
「ナイトミュージアム?」
「あれ、マリ知らないの?毎年パリではこの時期には夜美術館や博物館などが夜遅くまで、
すべて無料になる日があるんだよ」
「え~そうなの!絶対行きた~い。私、毎日忙しくて、行きたい美術館がぜんぜん行けてないんだよね」
「僕も博物館とか行きたいな」
「そうだね。美術館ね。美術館」
ユウキは自分の意見が無視されたと思い、悲しくなった。
「よ~し、明日の夜は美術館に行けるし、明日の学校も頑張ろう」
パリ近郊にある、国立の博物館に考古学研究所の調査チームはくやしい思いで、棺が展示されるのを見守っていた。最新の機器を使い、あらゆる方法を試したが、とうとう、棺を開けることはできなかった。同じく棺外側に刻まれている古代文字の解読も思うように進まず、結局のところ、わかったことといえば、棺の材質が地球上には存在しない物質であることぐらいだった。
「モーリス博士、この3週間近く、あらゆる手段で調査しましたが、結局、何の成果も挙げられず残念です」
古代文字を担当した。ミッシェルはとても悔しそうな声で話した。
「そうだな。スポンサーとフランス政府との打ち合わせにより、高額な資金を得ることはできたが、結局、フランス政府の財産になってしまったな。私は学者として、何も解明することもできず、最後にはただの発見者ということだけになってしまった」
「仕方ないですよ。我々の知識では古くても5000年ぐらい前の資料しかないんですから、1万年2千年以上前なんて、どのみち最初から無理があったんですよ」
「しかし、明日のナイトミュージアムや、これからこの博物館に世界中から見学する人達が大勢、来るから、しばらくは、観光需要がすさまじいな」
「そりゃあ、政府もそれを見越して、高額で買い取ったんですから」
「全く、結局は収まるところに、収まったということか」
「モーリス、棺はもういじれなくなるけど、これからどうするんです?」
「まあ、今回の発見でスポンサーからは破格の資金もいただいたし、私自身も世間に名が知れた。本でも書いて、もう一儲けでもするさ」
「それもいいかもしれませんね」
「ミッシェルはどうするんだ」
「私は、あの行方不明になった金髪の女性を探してみようと思うんです。学者のはしくれとして、この古代文字の解明ができるように頑張りたいと思います」
「そうか、それなら、私にも一枚、かましてもらえないか。探すと言っても時間も費用もかかるだろうし、もし、文字の解読ができたら、私と一緒に学会で発表しないか。もちろん、礼金はたっぷり弾まさせてもらうよ。どうだろう?」
「共同作業ということで、私も連名で名前を出してくれるなら喜んで、その申し出を受けますよ。実のところ、資金が乏しくて、どうしようかと思っていましたから」
「ハハハ・・・それなら話が早い、当面の資金を明日、君の口座に入金しておくよ」
「ありがとうございます」
モーリスやミッシェルとそして、調査に従事した職員がこの博物館に運ばれ、棺を設置されている作業を悲しそうな目で見ていた。調査チームの最後の仕事、博物館への棺の移送は無事終了した。
「葉子さん、今日も車まで出してもらって、つき合わせてすみません」
「何を言ってるんですか。私の仕事はマリさんの警護なんですから、こんな身近にいられるなら、警護しやすいですし、わたしも今日は楽しみにしてたんですよ」
ユウキは笑いながら、
「葉子さんや如月さんもこのホテルでの滞在も長くなり、毎日のようにお会いしていると、
まるで家族のような感じになってきましたね」
「私達は、マリさんとは良い距離を取って接するようにしています。あくまでも我々は警護官ですから」
「そうですよね。それが普通ですよね。その言葉を聞くとホットします」
イブも国土監視局のクロードやポーラに監視をされているのだが、この三人は妙に仲良くなってしまっていて、今では無二の親友のような関係になっていた。
「イブ~、その服おかしいでしょ。なんでいつもいつも、そんな時代遅れのような服着るのよ。私とこの間、お店で買ったでしょ。あれ着なさいよ」
「いいでしょ。私は~自分の買ったお気に入りの服を着てるんだから~」
葉子はロビーでの待ち合わせ時間になっても降りてこない、ポーラとイブの様子を見に行った。
「あの~下でマリさんがイライラして待っていますよ。二人とも早くしてください」
「ほら~ポーラがごちゃごちゃ言うから、遅れちゃったじゃな~い」
「わたしのせいじゃないでしょ。もういいわ、そのダサい服でいいから、行きましょ」
「あなた、いちいち、嫌みな事いわないでよ」
二人でブツブツいいながら、やっとロビーまで降りてきた。
「もう~二人とも遅~い」
「ごめんなさい。マリ、このポ~ラが色々と邪魔するから」
「邪魔なんかしてないでしょ~」
「フ~、イブ、ポーラさんはイブがこの世界になじめるようにイブのことを誰よりも大事に思って色々と言ってくれてるのよ。どうでもいい人なら、何も普通は言わないからね。そのことをよ~く理解してね」
「うん、わかった」
「ポーラさんも、もう少し、やわらかく、イブに接していただけますか。イブはこれでも昔は高貴な存在だったそうなので」
「はい、気を付けます」
また小さな声で二人は
「ほら、マリにしかられたじゃない」
と言っているのが聞こえ、マリはとりあえず、二人が仲が良くて良かったと小さく笑ってしまった。
「え~と、それでは、今日はこの6人でナイトミュージアムを満喫します。まず、マリさんの希望で日本人街で食事をして、それから、ロスなく美術館を中心に回っていきます。イブとユウキさんの希望で最後に博物館に行って終了となります。ただし、国立博物館は例の古代の遺物展の開催初日のため、混雑が予想されますから、状況を見て行くことにします」
マリは学校での生活も慣れ始め、日本とは違い、活気あふれる生徒が多く、日本の一方通行授業と違い、特に外国語授業では先生に対しての質問やプライベートなことなどを話したり、みんなで、楽しい時間を作り出そうとする雰囲気がとても新鮮で内気だったマリも人見知りせずに話せるようになってきていた。でも、一番驚いたのは、落第する生徒が多いこと、日本では毎日高校に行っていれば、同じ学年を2度通うなんてことはないが、フランスでは勉強、特に小論文式の問題が多いが、点数が悪ければ、落第してしまう。ここでは、大学受験はなく、高二と高三で準備するバカロレアという高校卒業資格試験に受からなければ、高校を卒業したことにならないため、宿題もかなり多いが、皆、必死で勉強する生徒が多い。この卒業資格さえあれば大学はどこでも行くことができる。
「マリ~、今日も授業長かったね。ちゃんとついていけてる?」
もう学校の時計は18時になろうとしている。
「ぜん、ぜ~んだめ、特にフランス語だってままならないのに、第一外国語ってなに?って感じだよ。はあ~いいな、イブやユウキは何でも知っているもんね。それなのに、毎日、こんな長~い授業つきあってもらって悪いね」
「いやあ~、また環境の違うところで学校生活も悪くはないよ。自分なりに時間を使って、考えることもできるしね」
「イブはどう?」
「気にしないで、一人でいるより、こんなたくさんの人がいる中での学校生活も案外、面白いわよ。特に、ここフランスではキリスト教やら、哲学に関する授業が多いから、いろいろと人間のことを深く知ることができて、興味深い時間もあるしね」
「はあ~、わたしはイブとユウキが色々と教えてくれるから、なんとかこの学校に通えているって感じだもの。いつも、ありがとうね。二人とも」
マリは今日もがっくりといった感じでクタクタになっていた。
「ねえ、マリ、毎日、稽古や勉強ばかりで気分的にも疲れているだろうから、明日は土曜日だし、パリではナイトミュージアムの日だから、思い切り羽をのばそうよ」
「ナイトミュージアム?」
「あれ、マリ知らないの?毎年パリではこの時期には夜美術館や博物館などが夜遅くまで、
すべて無料になる日があるんだよ」
「え~そうなの!絶対行きた~い。私、毎日忙しくて、行きたい美術館がぜんぜん行けてないんだよね」
「僕も博物館とか行きたいな」
「そうだね。美術館ね。美術館」
ユウキは自分の意見が無視されたと思い、悲しくなった。
「よ~し、明日の夜は美術館に行けるし、明日の学校も頑張ろう」
パリ近郊にある、国立の博物館に考古学研究所の調査チームはくやしい思いで、棺が展示されるのを見守っていた。最新の機器を使い、あらゆる方法を試したが、とうとう、棺を開けることはできなかった。同じく棺外側に刻まれている古代文字の解読も思うように進まず、結局のところ、わかったことといえば、棺の材質が地球上には存在しない物質であることぐらいだった。
「モーリス博士、この3週間近く、あらゆる手段で調査しましたが、結局、何の成果も挙げられず残念です」
古代文字を担当した。ミッシェルはとても悔しそうな声で話した。
「そうだな。スポンサーとフランス政府との打ち合わせにより、高額な資金を得ることはできたが、結局、フランス政府の財産になってしまったな。私は学者として、何も解明することもできず、最後にはただの発見者ということだけになってしまった」
「仕方ないですよ。我々の知識では古くても5000年ぐらい前の資料しかないんですから、1万年2千年以上前なんて、どのみち最初から無理があったんですよ」
「しかし、明日のナイトミュージアムや、これからこの博物館に世界中から見学する人達が大勢、来るから、しばらくは、観光需要がすさまじいな」
「そりゃあ、政府もそれを見越して、高額で買い取ったんですから」
「全く、結局は収まるところに、収まったということか」
「モーリス、棺はもういじれなくなるけど、これからどうするんです?」
「まあ、今回の発見でスポンサーからは破格の資金もいただいたし、私自身も世間に名が知れた。本でも書いて、もう一儲けでもするさ」
「それもいいかもしれませんね」
「ミッシェルはどうするんだ」
「私は、あの行方不明になった金髪の女性を探してみようと思うんです。学者のはしくれとして、この古代文字の解明ができるように頑張りたいと思います」
「そうか、それなら、私にも一枚、かましてもらえないか。探すと言っても時間も費用もかかるだろうし、もし、文字の解読ができたら、私と一緒に学会で発表しないか。もちろん、礼金はたっぷり弾まさせてもらうよ。どうだろう?」
「共同作業ということで、私も連名で名前を出してくれるなら喜んで、その申し出を受けますよ。実のところ、資金が乏しくて、どうしようかと思っていましたから」
「ハハハ・・・それなら話が早い、当面の資金を明日、君の口座に入金しておくよ」
「ありがとうございます」
モーリスやミッシェルとそして、調査に従事した職員がこの博物館に運ばれ、棺を設置されている作業を悲しそうな目で見ていた。調査チームの最後の仕事、博物館への棺の移送は無事終了した。
「葉子さん、今日も車まで出してもらって、つき合わせてすみません」
「何を言ってるんですか。私の仕事はマリさんの警護なんですから、こんな身近にいられるなら、警護しやすいですし、わたしも今日は楽しみにしてたんですよ」
ユウキは笑いながら、
「葉子さんや如月さんもこのホテルでの滞在も長くなり、毎日のようにお会いしていると、
まるで家族のような感じになってきましたね」
「私達は、マリさんとは良い距離を取って接するようにしています。あくまでも我々は警護官ですから」
「そうですよね。それが普通ですよね。その言葉を聞くとホットします」
イブも国土監視局のクロードやポーラに監視をされているのだが、この三人は妙に仲良くなってしまっていて、今では無二の親友のような関係になっていた。
「イブ~、その服おかしいでしょ。なんでいつもいつも、そんな時代遅れのような服着るのよ。私とこの間、お店で買ったでしょ。あれ着なさいよ」
「いいでしょ。私は~自分の買ったお気に入りの服を着てるんだから~」
葉子はロビーでの待ち合わせ時間になっても降りてこない、ポーラとイブの様子を見に行った。
「あの~下でマリさんがイライラして待っていますよ。二人とも早くしてください」
「ほら~ポーラがごちゃごちゃ言うから、遅れちゃったじゃな~い」
「わたしのせいじゃないでしょ。もういいわ、そのダサい服でいいから、行きましょ」
「あなた、いちいち、嫌みな事いわないでよ」
二人でブツブツいいながら、やっとロビーまで降りてきた。
「もう~二人とも遅~い」
「ごめんなさい。マリ、このポ~ラが色々と邪魔するから」
「邪魔なんかしてないでしょ~」
「フ~、イブ、ポーラさんはイブがこの世界になじめるようにイブのことを誰よりも大事に思って色々と言ってくれてるのよ。どうでもいい人なら、何も普通は言わないからね。そのことをよ~く理解してね」
「うん、わかった」
「ポーラさんも、もう少し、やわらかく、イブに接していただけますか。イブはこれでも昔は高貴な存在だったそうなので」
「はい、気を付けます」
また小さな声で二人は
「ほら、マリにしかられたじゃない」
と言っているのが聞こえ、マリはとりあえず、二人が仲が良くて良かったと小さく笑ってしまった。
「え~と、それでは、今日はこの6人でナイトミュージアムを満喫します。まず、マリさんの希望で日本人街で食事をして、それから、ロスなく美術館を中心に回っていきます。イブとユウキさんの希望で最後に博物館に行って終了となります。ただし、国立博物館は例の古代の遺物展の開催初日のため、混雑が予想されますから、状況を見て行くことにします」
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