平和への使者

Daisaku

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進学と出会い

21話 天敵

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マリが入学して3週間が過ぎた、高校生活にもだいぶ慣れてきた。
入学当初は色々と覚えることが多くて周りのことを見る余裕はなかったが、今は周りのことも、見ることができるようになっっていた。
だいたい、最初の1週間で男子や女子はある程度のグループに分かれて、グループ以外の人とはあまり会話もしない様子だった。
でも、その中でユウキと飯沢と松田祥子はつるむのが嫌いのようで、誰とでも普通に会話していた。ユウキの場合は相変わらず特に女子に人気があるため、次から次へといろんな女子が話しかけてきた。
その時はいつもユウキの隣にいる私のことを1回にらみつけてから、話をするようになっていた。そんなある日の昼休み、松田祥子が、ある女子と一緒にユウキのそばにきた。
祥子はユウキとはできるだけ距離を置いていたが、偶然そばにいたため、その流れでユウキに話しかけた。

「ねえ、私のこと知ってる?」

「え、あ~、松田さんだよね」

「そうよ、前からあなたに聞きたいことがあったの。よろしいかしら」

「はい、どうぞ」

マリはユウキの隣の席に座っていたが、いつもユウキに話かけてくる女子には無視されているため、スケッチブックで大好きな絵を描いていた。

「高校入試のテスト、あなた、ほぼ満点だったよね。学校の先生だって、全科目をあんな点数とれないわよ。いったい毎日、どんな勉強をしているの」

「別にたいしたことはしていないけど、教科書を読んだり、試験の傾向を分析してみたり、特に変わったことはしていないよ」

「私ね、最初はあなたのことが、とても嫌いだったわ。いつも誰にも負けなかった私が、初めて、試験で負けたんですもの。でもね、自分なりにもその後、よく考えたんだけど、やっぱり、素直に負けを認めて、今以上にもっと上を目指したいから、恥をしのんで、あなたから、教えていただこうと思ったの、だから正直に答えて」

ユウキは困ったなと思った。なぜなら、ユウキは本やテレビ、会話など、あらゆる情報を一度聞いたら、すべて記憶してしまう、瞬間記憶能力を持っているからだ。ここで、松田祥子にそんな話をしたら、間接的にあなたは、記憶力が悪いんだよ、と言っているようになる。
でも、ユウキはクスクスと笑ってしまった。
かつて、僕につっかっかってきた、少女を思い出した。たしか彼女も僕に最初は敵対心をむき出しにしていたが、しばらくして、素直に自分の能力向上のために教えを請いにきた。ただでさえ、人間の中では、ライバルがいないほど、記憶力が良いというのに、たしか、その時に
こう言ってたな。

「聞くは一時の恥、聞かずは一生の恥」

だと、遺伝子構造というものは、全く不思議なものだ。能力を引き継ぐのもそうだが、ここまで、同じような行動を取るなんて・・・かつての英雄、松田マツのことが頭に浮かんだ。

「橘くん、私のことをバカにしているの。笑っているじゃない」

「ごめん、ごめん、つい松田さんが知っている人にあまりにも似てたものだから、松田さん
試験は時の運ということもある。あの時は、たまたま、僕が勉強した内容がたくさん出たから、点が高かったんだと思う。だから、次のテストはどうなるか、わからないよ。それに、僕たちはまだ高校1年生、勉強だけがすべてじゃないしね」

松田祥子は何か、はぐらかされた気がした、そして、もっと聞きたいことがあり、
強い口調で言い放った。

「ねえ、橘くん」

「はい」

「そこの隣にいる、おかっぱ頭の飛島さんだっけ、なんでいつも一緒にいるの?
失礼だとは思うけど、特に勉強ができるわけでもないし、まあ、目立っているといえば、
体育の時間だけだよね。たしかに運動能力だけはクラスでは一番かもしれないけど」

マリは隣の席にいて、松田祥子がなにげなく言った、おかっぱ頭に反応した。
マリは小さいころおばあちゃんから、この髪型が一番似合うと言われて、うれしくて、ずっとこの髪型をしてきた。自分自身も髪の手入れもしやすくて、かなり気にいっていた。

「おかっぱ頭?」

マリは中学の頃からいじめられてはいたが、髪の毛だけはバカにされたことはなかった。
マリはおばあちゃんが似合うと言われた、髪型をバカにされたと思い、
怒りのスィッチが入ってしまった。そして、松田祥子のことをギロリとにらんだ。

「ねえ、今、私のこと、おかっぱ頭と言ったよね」

いつも、おだやかで、少し冷めているようなマリが大きい声を出した。
ユウキと松田祥子が驚いてマリの方を見た。

「私はね、多少のことは、何を言われても別にどうでもいいの、慣れてるから、でもね、髪の毛だけはバカにされることは、がまんできないのよ」

だんだんマリの声が大きくなって教室中の生徒がマリの方を見た。

「あなた、勉強はできるみたいだけど、人のことを上から見下して、バカにする能力も高いみたいね、一体どういう親に育てられたら、
そういうクズ人間になるのかしら」

今度は松田祥子が親とクズ人間に反応した。

「私の親は立派な人よ、この学校の校長と理事長をしているわ。髪の毛のことぐらいで、小さい女ね、橘くんいつも一緒にいるのは、
何か、橘くんの弱みでも握っているのかしら、この性悪女」

だんだん、やばい雰囲気になってきたとユウキは思った。

「やっぱり、言葉使いが汚いわね。本性がでてきたみたいね。きっと理事長もこんな汚い言葉使いをする孫がいたら、悲しむだろうね」

さらに、松田祥子が興奮してきた。

「私はね、小さいころから、おばあさまに育てられたのよ。あなたとは比べ物にならないほど努力してきたのよ。私が本気を出したら、あなたなんか、すぐに倒されて、きっと、泣きながら、私に謝ってくるわ」

今度はマリが凍り付くような笑みで

「弱い犬ほどよく吠える・・・とはこのことね」

二人はにらみ合い、一触即発の雰囲気になった。ユウキがまずいと思って止めようとした瞬間、二人は近づき、にらみあった瞬間、
マリの机の横に置いてあった、カバンの中から、青い閃光のような光が教室中に広がった。

「シュパー 」

と大きい音がした。教室中に包まれたその光は目も開けていられないほどの光で、
教室中の生徒は慌てて目を閉じた。

「マリちゃん、松田さんから離れて!」

ユウキが大きい声で言い放った。
マリはその声を聞きすぐに、松田祥子から離れた、そうしたら、光は消え、いつもの教室に戻った。

「今の光は何?」

教室中の生徒が驚いて、あたりを見渡した。あまりにもすごい閃光だったため、誰もマリのかばんの中からの光だとは気が付かなかった。
そして、いがみ合っていた二人も、少し落ち着きを取り戻し、見つめ合いながら

「ふ~、私としたことが、少し熱くなってしまったわ、飛島さん、あなた今度、私の家に来ない?学校で闘ったら、私達、停学もしくは退学処分になってしまうものね。
この続きは私の家の武道会館でやりましょう。
正式な審判もつけて行えば、問題ないので、でも、怖かったら来なくてもいいわよ。
私は強いから、震えてしまっても、しょうがないもの」

マリも、まだ怒りが収まっていないようで、

「わかったわ、今度の日曜日の9時にいくわ。でも松田さん、ひとつだけ約束してくれる」

「なによ」

「その日、どんなことが起きても、口外しないでほしいの」

「口外?そうね、あなたが負けて、私に泣きながら謝ってきたなんて、みんなが知ったら
恥ずかしいでしょうからね」

松田祥子は笑いながらそう言った。マリは黙って松田祥子のことを感じ取っていた。
そう、マリは向き合っただけで、相手の技量を見抜いてしまう能力を持っている、
そして松田祥子はたしかに常人よりは強いが、自分の実力には遠くおよばないことがわかっていた。
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