平和への使者

Daisaku

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平和への使者

3話 傷心少女

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いつもいじめ対象だった自分だったが、ユウキのおかげで結果的にいじめられなかった。
そんなことをあれこれ考えていたら、ユウキがこっちを見て

「マリちゃ~ん、一緒に帰ろうよ」

朝はあれだけ震えていたマリだったが、少し恐怖心も消えてきて、

「私はいつも一人で帰るの、でも、帰り道がたぶん一緒だから、近くを歩くことはあるかもね」

と少し突き放した。いきなり、こんなわけのわからない人と一緒に帰れるわけないじゃないと
思った。学校も今日は無事に終わり、マリはいつも通り一人で家に向かって歩いていた。
今日は少し気分がいい、こんな日もあるんだと久しぶりの感覚にマリは浮かれていた。
しかし、しばらく歩いて後ろを見ると、この間の夜と同じくユウキがすぐ後ろに音もたてずに
立っていた。
マリはまた、急に震えだして

「いやあ~、近づかないで」

と言って、また走り出した。

「マリちゃ~ん、走らないでよ。この前も今日も脅かしてごめんよ。ちょっと落ち着いて話さない?」

マリはこんな変な人と関わりたくないと心底思っていたが、
こんなにもいつも近くにいられるのも迷惑なので家の近くの緑道にベンチがあるので、
ここで少しだけ話すことにした。

「ねえ、あなたなんなの、私の廻りにいつもいるけど、あと昨日最初に見たときは確か
50歳ぐらいだったような気がするんだけど」

ユウキはしばらく考えて

「マリちゃん、今から言うことは本当のことだから、最後までちゃんと聞いてくれる?」
「わかったわ、聞くわよ」

ユウキはス~と深呼吸をしてまじめな顔に変わった

「まず僕は 宇・宙・人です。そして、自分の体の老化や若返りを自由に行えます」

マリはその話をあっけに取られて聞いていた。

「マリちゃんはこの地球で平和への使者になることに選ばれました、だから、僕がマリちゃんのそばにいてサポートをします」

マリは何を言ってるのという顔で、

「宇宙人なら、宇宙船はどこなの?昨日はいきなりあらわれたじゃない」
「う~ん、説明してもいいけど理解できるかな」

ユウキはできるだけマリにわかるように説明しようとしばらく考えた。

「そうだ、マリちゃん紙持ってる?1枚ちょうだい」

マリはいつも持ち歩いているスケッチブックを1枚破って、ユウキに渡した。

「え~とね。ここが僕の星、そして、ここが地球」

ユウキは紙にスラスラと星の地図のようなものを描きだした。

「時間って毎日同じスピードで進んでいるよね、マリちゃんが夜空を見ている星の光の
ひとつ、ひとつが違う時間の光なのはわかるかな」

マリは頭をかしげた。

「う~ん、例えば近くの星の光は1日前に出て地球に届く。また遠い星の光は千年かけて今届く。だから、夜空の星の光は違う時間から届いてきている」

「なんとなくわかるかな」

マリはうなずいた。

「よしよし、僕の星は地球から、かなり離れている、でも一度届いた光には
道のようなラインができるんだ、それを利用して一瞬の内に目的地に着く」

「まあ簡単に言うとこんな感じかな」

マリはやっぱりちんぷんかんぷんだった。

「う~ん、もうちょっと簡単に説明するには」

また考えた、ユウキは基本的に優しく、一生懸命で、マリが理解しないと納得できないようだった。

「わかった、マリちゃん、もっと簡単にいうと、この紙に書いてある、地球と僕の星を紙を折ってくっつける、ほら一瞬でしょ。
地球人にはまだ、理解できないと思うけど、簡単に言うとこんな感じ」

マリはなるほどといった顔をしていたがユウキは多分、理解できてないなと思った。

「でも、宇宙船あるんでしょ」
「だからね宇宙船なんかいらないんだよ。あんな意味のないものは造らないんだよ」
「人間は本当に宇宙空間ではもろい存在でね、宇宙船ではこの宇宙では人間を守りきれないんだよ」
「え~知らないの、地球人だって月とか衛星とか宇宙に行っているんだよ」
「もちろん知っているよ。近くに行くにはそんな危険はないからね。僕が言っているのはこの星系を出た時のことを言っているんだ」

はっとした顔でユウキが

「マリちゃん、こんなことを説明するために僕は地球に来たんじゃない、君に早く成長してもらい、この星を守ってほしいんだ、僕はそのために来た」

マリは不思議そうに

「何言ってるの、今すごい平和よ、私自身は平和じゃないけど・・・」

マリは少し悲しそうな顔をした。

「ねえ、マリちゃん、学校で少しだけ見てわかったけど、いじめにあってるの」

マリは目にいっぱい涙を浮かべてうなずいた。いじめられて
今までだれにも相談できなくて苦しい思いが急にこみあげてきた。

「こんなに普通に会話できるのにどうしてかな?」

マリは何でユウキにはこんなに色々と話せるのだろうと不思議だったが、
こみ上げてきた気持ちが息苦しいながらも言葉になった。

「1年ぐらい前かな、うちのクラスにいるでしょ大柄で声が大きい、スミコっていう子が」

「あ~、いたな、声がでかい子かなりハスキーな」

「そうその子よ。クラスでもかなり幅を利かせていて、その子に嫌われるとだいたい、いじめの対象になるの」

「ほかのクラスにも結構いるのよ、でも私は最悪スミコと同じクラスだから」

「でもなんで、嫌われたの、マリちゃんはそんな変なことしないでしょ」

「スミコがね、好きな男の子がいるの、ほら、今日あなたがマラソンでぶっちぎった」

「え~、あ、橋本くんか」

「そうよ、彼ね、前に私のことが好きでことあるごとに話かけてきて、しかも、私は彼が好きじゃなかったから、言ってやったの」

「あなたみたいな、しつこい男、いやなの、もう話しかけてこないでって」

「そうしたら、たまたま、スミコがそばにいて、すごい目つきで私を睨んできたの、
まあそれからよ」

スミコはクラスでもリーダー格でみんなにも一目を置かれていた。ユウキはなるほどと思った。

いつの間にか、廻りは少し薄暗くなってきた。
ユウキは立ち上がって、いきなり思い切り笑った。

「マリちゃんはこれから、世界をこの地球を救う人間だよ。そんな、いじめで悩まないでよ、大丈夫、大丈夫」

マリはこの人、私の話を聞いていたのとあきれて、はあ~なんでこんな人に悩みを
打ち明けたのだろうと思い、自分を責めてしまった。

「とにかく、マリちゃん明日からも頑張ろう」

そういって、ユウキは緑道を歩いて帰っていった。
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