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93、メリーに罰を…

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事情を大まかに知っているリアムは、メリーに断られても優しく話しかける。


「メリー、僕を助けようとしてくれてありがとう。僕ね、メリーが居てくれたから、ずっとは悲しくなかったんだよ」


黙り込んだメリーにリアムは笑顔をのまま話しかける。


「母上にね…嫌われて悲しかったけど、メリーがずっと一緒に居てくれたから、大丈夫だったんだよ」
「私は……貴方様を監視しろと命じられて居たので……お傍にいただけです」


それは半分本当かもしれない。だけど、私にはそれだけの理由でリアムと一緒に居るようには見えなかった。それに、監視だけが目的なら、自分がどんな罰を受けるかを理解していながらも、監禁されそうになったリアムを助けようとは思わなかったはず。


その事が分かっているからだろう、リアムはメリーの突き放す言い方にも動じずに話し続ける。


「そうだったとしても、他の人が居ない時に僕とちゃんと話をしてくれたり、内緒でお菓子をくれたメリーの事が、僕は大好きだよ」
「………」
「だから、メリーが僕のこと助けようとして怪我をしたって聞いて、本当に心配したんだよ」
「………」
「僕ね、メリーにまた会えて本当にうれしい。またメリーと一緒にいたいから。だから、これ食べて元気になって」


そう言ってリアムが差し出したお皿をメリーは泣きそうな顔で見つめる。そんなメリーに対してリアムは、お皿から木の実をつまんでメリーに手渡そうとする。


「メリーがこれを食べる資格がないって言うなら、僕がその資格をあげる。誰がなんて言ったって、僕がメリーの事を守るから、だから、食べて」
 

手渡そうとするリアムの手を見て、メリーは堪えきれない様に涙が頬に伝った。


「っ、私には…本当に、そんな資格はありません……家族の為に、リアム様がどんな仕打ちをされようと見て見ぬふりをし続けていたのに……衝動的にリアム様をお助けしようとして、余計にリアム様を苦しめる事結果を招いた私には……」


それは、リアムが毒で苦しんだ事を言っているのかもしれない。もしもあの時、メリーがいたのなら、イザベラ様がリアムに毒を飲ませようと思い至るまでに対処が出来た、のかもしれない。


実際に、リアムを苦しめようと、イザベラ様がわざとアレルギー反応が出る食品を食事に出させていた時は、リアムの世話をするフリをして、バレないように食品を吐き出させたりしていたらしい。なので、メリーがいたのなら、リアムが毒で苦しむこともなかったのかもしれない。


だけど、それは憶測でしかないし、メリーにはなんの罪もない。仮に、メリーの行動が私の事で気が立っていたイザベラ様を更に苛立たせ、リアムに毒を盛るという結果を招いたとしても、メリーは何も悪くはない。


だと言うのに、リアムが毒で苦しんだことも自分の責任だと言って自分自身を責め続けている。


「どうか…わたしを罰してください…。なにも出来ない私には、なんの価値もありません…」


そう言って泣き崩れるメリーに、見守ろうとしていた私も声が出そうになる。だけど、メリーに先に声をかけたのは、リアムでも私でなかった。


「君に罰を与える気は無いと言っただろ」
「ルミリオ…様?」
「父上?」


どうしてここにルミリオ様が?


来るなんて聞いていなかった人物の登場で私もリアムも驚くが、メリーは驚くよりも懇願する。


「陛下…何度も、言いましたが…やはり、私は…ばつをあたえられなければいけません…。おねがい、いたします…わたしを、ばっして、ください」



そんなメリーに、ルミリオ様は冷たい表情で言い放った。


「いいだろう。そんなに罰が受けたいのなら、与えてやろう」
「父上!?」
「ルミリオ様…?」


少し前まで、私と同じでメリーに罰を与える気は無いと、アレックスから聞いていたのに…。どうして急に現れてそんな事を言うの…。それも、リアムの前で。


ルミリオ様の言葉に困惑していると、ルミリオ様は淡々とメリーに告げる。


「では、君をこれからリアムの専属メイドに命じる。そして、リアムに生涯仕え続ける事を君への罰とする」
「………ルミリオ様、それは……一体どういうことでしょうか…?」


ルミリオ様の言葉が理解出来ずに困惑するメリーを無視し、ルミリオ様は続けて言う。


「君が犯した罪を償ってもらうには、死刑では甘過ぎる。罪の意識を抱えたままリアムに仕えることで贖ってもらう」
「そんな…。リアム様にお仕えできることは、私にとってなんの罰でもありません」
「罰かどうかは私が決める。それから、君の罪は、君の家族にも償ってもらう事とする」
「っ、私が出来ることなら何でもします!ですが、家族は私のしてきた事を何も知らないのです!ですか、家族には…!」
「それはきけぬ相談だ」


家族の事を出され、地面に頭を擦り付ける勢いでルミリオ様に言い募るメリーの言葉を遮りルミリオ様は冷たく言い放つ。


「では、罰を言渡す。君の家族は、本日よりこの城で住み込みの使用人となってもらう」
「そんな…」


罰の内容を聞いて、メリーは信じられない、とでも言いたげな表情でルミリオ様の顔を見つめる。


「確か、幼い兄弟もいるも言っていたな。では、働くには幼い者には、ここで教育を受けてもらい、適齢になれば、すぐに仕事につかせることとする」
「どうして……どうして、私の家族にも、ここまでの慈悲をくださるのですか…」
「慈悲ではない。訳あって、城の働き手が不足しているのでちょうど良かっただけだ」


それは嘘ではないだろうけど、平民を皇城で働かす事はよくあることでは無い。むしろ稀な事だ。


皇城で働くのは大体が貴族出身か、平民だったとしても貴族並に教育を受けた人しかいない。それなのに、十分な教育を受けできたかどうかも分からない人を雇うと言うのだから、メリーが驚くのも無理はない。


それに、皇城での待遇は貴族の模範となるため、この世界でも福利厚生はかなりいい方だ。そんな場所で仕事が出来るのだから、メリーの家族にとっても悪い話ではない。むしろ、これ程にもなく幸運な話のはず。


メリーもきっとそう思っているから、さっきとは違う涙を流しているのだろう。


「………皇帝陛下の広いお心に感謝致します…」
「その感謝は仕事で返してくれ。リアムを悲しませる事が無いように任せたぞ」
「はい、誠心誠意、お仕えさせて頂きます」


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