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90、皇帝視点5
しおりを挟む少しでも落ち着くように、動揺する彼女の手をそっと離す。
「突然告げられれば驚くのも無理はない。私も今自分の気持ちに気付いたのだから」
「そう…なんですか?」
「ああ。気付いてしまったから、貴女に知ってほしいと思い衝動的に告げてしまったんだ。だが、今すぐ貴女の気持ちを教えてくとれは言わないから安心してほしい」
そう言えば、彼女は分かりやすく肩から力を抜いて、火照った顔を冷ますように手で顔を扇ぎ始める。
「暑いのなら、戻って冷たい飲み物でも飲むか?」
「いえ、それでは治まらないと思うので大丈夫です…。ただ、あまりこちらを見ないでもらえると助かります」
私に見えないように手で顔を隠す仕草が可愛い。何故私はこんなにも可愛らしい彼女を避けていたんだ。
「あの…ですから、あまり見ないでください」
「悪いがそれは出来そうにない」
「どうしてですか」
「貴女が愛おし過ぎて、目を離すことが出来ないんだ」
「なっ、」
私の言葉に顔を真っ赤にして固まってしまった。
「大丈夫か?」
固まってしまった彼女の頬に手を添えようとすると、触れる前に彼女が身体ごと後ろに飛び退いてしまう。
「だ、大丈夫!それより、皇帝陛下が私に対して砕けた口調になったことですし、戻りましょうか!」
そう言って足早に私の前から去ろうとする彼女の手首を掴んで動きを止める。
「まだだ」
「ど、どうしてですか!」
「まだお互いの事を名前で読んでいないだろ?」
「それは…おいおいでも…」
「リアムが納得するだろうか」
「うっ…」
呼び方は今後徐々に変えていくという事でも良いとは思うが、私が彼女の事を名前で呼び、彼女にも私の名前を呼んでほしくてリアムの名前を出させてもらった。そうすれば、彼女はおずおずと声を発する。
「ルミリオ様…」
「っ、」
「これでいいですか…」
名前を言われることを期待していたが、実際に彼女の口から名前を呼ばれると、今まで感じたことの無い幸福感で満たされる。
この胸が暖かくなる感覚をなんと表せばいいんだ。
「あの…私だけ呼ぶのは不公平だと思うのですが…」
名前を呼ばれただけでも幸せなのに、私にも名前を呼んで欲しいと言われると、思わず彼女を抱きしめてしまいたくなる。
彼女のことが好きだと認めてから自分でも驚くほど積極的な考えになっているが、急に触れられると彼女が警戒だろうから、今は彼女の名前を呼ぶだけで我慢しよう。
どこか拗ねたような、照れたような表情をする彼女の名前を呼んでみる。
「ルビア」
「はい」
ただ名前を呼んで返事をされただけなのに、再び胸が暖かくなる。
「名前も呼べた事ですし、戻りましょうか」
そう言って踵を返す彼女の頬が少し赤く染まっていたのは、きっと私の見間違いではなかったと思う。
その反応に、彼女も少なからず私の事を意識してくれているのだと感じて嬉しくなる。彼女にもっと私の事を意識してほしいと思うが、今はこれくらいで満足しておくか。
せっかく彼女と話すことが出来、自分の感情に気付けたのだから、欲望のまま行動して彼女に警戒されたくはない。
だから、今はこれくらいの距離感で良い。
彼女は私と共に居てくれると言ったのだから、これから徐々に距離に詰めて行ければそれで良い。
「あの……後ではなく、並んで歩きませんか?」
彼女の後ろ姿を見ながら今後の事を考えゆったりと歩いていると、彼女が振り返って恥ずかしそうにそう言う。
「戻った時に、変に距離があるとリアム達が納得してくれないと思うので」
「それもそうだな。なんなら、手を繋いで戻るか?」
「い、いえ、それは…!」
「ふ、冗談だ」
私の言葉でアタフタする彼女を見ているのがすごく楽しい。自分でも意地悪なことを言っている自覚はあるが、彼女の反応が可愛いらしくてつい言ってしまう。
「冗談だから、そこまで警戒しないでくれ。貴女に嫌われるのは本意ではないからな」
「………わかりました」
呟くように返事をした後、ルビアは少し緊張しながらも私と並んで歩き続けた。
あと少し歩けばリアム達の姿が見える所に来た時、ルビアが急に立ち止まり、静止するには弱過ぎる力で私の服の端を掴んだ。
「あの…遅くなりましたが、私とアイリを守ってくれて、ありがとうございました。命に別状がなくて、本当に良かったです…。今日は、不参加だと言われていたのに参加してくれてありがとうございます」
「いや……。私こそ、貴女を守れて良かった。そして、私を誘ったくれた事、感謝する」
てっきり、マーガレットから参加すると伝えられたと思っていたがそうではなかったたんだな。まぁ、今はそんな些細なことはどうでもいい。
参加したことで自分の気持ちに気付け、彼女との距離も少し近付いた気がする。マーガレットやアレックスに無理やり参加させられる形だったが、彼らにも感謝しなければいけないな。
リアム達の所へ戻ってからルビアとはあまり会話することは無かったが、リアムはとくに文句を言うことは無かった。
マーガレットとアレックスは、私達を見て微笑ましそうにしていた。その表情の意味は分からないが、ピクニックが終わるまでルビアの隣で過ごせたので、2人の視線はあまり気にならなかった。
ピクニックが終わり、ルビアと別れることに寂しさを感じたが、また彼女に会いに行けばいい事だ、と自分を納得させて部屋へと戻った。
次の日から、時間が空けば無意識にルビアの所へ向かってしまう自分に困惑したが、ルビアは私を拒むことなく共に時間を過ごしてくれるので、この日からまた、仕事以外の時間はルビアと過ごすことが日課になっていった。
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