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86、皇帝視点1

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彼女に会う決心が付かず、ずっと彼女を避けて生活していれば、アレックスの小言が日に日に酷くなっていく。


「また皇后陛下にお断りの返事をするんですか。嗚呼、あんなにもルミリオ様の事を心配されているのに、会ってもらえないなんて……なんてお可哀想な皇后陛下……」
「泣き真似をするな、鬱陶しい」
「それはこちらの台詞です。鬱陶しいくらいに嫌われていたらどうしよう…って呟いてるのは誰ですか」
「そんな……言い方はしていない…」


ただ、彼女の気持ちが気になってしまうだけだ。


「そもそも、お前が "離婚" なんて言葉を使うからここまで悩んでいるんだろ…」
「何回断っても面会しようとして下さってるんですから離婚しようなんて思われてませんよ」
「……そんなことは分からないだろ」


彼女に対してしてきた数々の言動を思い返すほどに、彼女が私と共に居たいと思える要素が見つからない。それに、元は私に恋していたのに、もう私からの愛を求めないと言われたのだから尚更だ。


「皇后陛下はただ、ルミリオ様を心配されているだけですって。それに、俺は『そんな事をされたら俺ならとっくに離婚してます』って言っただけで、皇后陛下が離婚したいだろう。なんて言ってませんから」
「だとしても、彼女の立場になって考えたお前が離婚したいと思ったのだろ。なら、彼女もそう思っている可能性が高いだろ」


そう言えば、アレックスは心底呆れたような顔をする。


「なんで悪い方向ばっかに考えるんですか…。ああ、もう面倒臭い……」
「お前から話を始めたのに、面倒臭いとはなんだ」
「少し前までは皇后陛下の事を気にも止めていなかったくせに…」
「それは……」


彼女の事を勘違いしていたからで…。


だが、イザベラを信じて彼女を知ろうともせず、視界にさえ入れようともしてこなかったのは私だ。やはり、こんな私が今更彼女と仲良くなりたいと思うのはおこがましいのでは無いだろうか。


こんなにも面会を希望するのは、私に離婚を切り出そうとしているのでは無いか…。そう心配になって、会う決心がなかなか着かない。


「やはり、彼女にはまだ会えない…」
「なんでですか!もう!」


アレックスがイライラしたように髪をかきあげる。


「いつまで皇后陛下を避けるつもりですか!いい加減、皇后陛下と会って話をすればいいじゃないですか!」
「話とは…何を」
「私の事が嫌いですか?好きですか?って」
「なっ!そんなこと聞けるわけがないだろ!」
「どうしてですか」


どうしてって…そんなの決まっている。


「もし嫌いと言われれば……立ち直れる気がしない…」
「それは、どうしてですか?」
「どうしてと言われても……」


私もよく分からない。
少し前までは、彼女にどう思われようと気にならなかった。だが、彼女と話すようになり、彼女と会う度に、彼女の事をもっと知りたいと思うようになった。


それと同時に、彼女は私の事をどう思っているのかが気になり始めた。そして、パーティの夜に彼女の部屋で聞かされた言葉に一喜一憂した。


私に恋していたと聞いた時、今まで感じたことの無い高揚感で満たされた。だが、今はそうでは無いと知り、自分でも信じられない程にショックを受けた。


それなのに、彼女に嫌いと言われてしまえば、私はどうなってしまうのか…。


想像しただけでも胸が張り裂けそうなのだから、実際に言われれば、自分でもどうなるのか分からない。


だが、どうして私はこんなにも彼女に嫌われることを恐れているんだ…。ここまで誰かに嫌われる事を恐れたことなどなかったのに。


「好きだから、じゃないんですか?」
「 ……?確かに、皇后の事は好ましいと思っているが?」



だからと言って、ここまで嫌われることを恐れるものか?


「マジ…ですか?」
「何がだ?」
「まさかここまで恋愛に疎いとは思っていませんでした…」
「なんの話しだ」


呆れたように言ったかと思えば、次は驚愕したように言ってくるアレックスに眉を顰める。


「俺が言ってる "好き" と、ルミリオ様が考えている "好き" が噛み合ってないんですよ」
「どこがだ?」
「俺が言ってる "好き" は、異性としてどうかという話です」
「?そんなことくらい分かっている。彼女の母親としての姿も好いているぞ」


そう返せば、アレックスが片手で顔を覆って天を仰いだ。


「マジかぁ…ここまで感覚が違うのかぁ…」
「何をブツブツ言っているんだ」
「ルミリオ様が思ったよりも子供…いや、幼児でビビってるだけです」
「私のどこが幼児だ」


失礼にも程がある。これがアレックスでなければ刑罰を科している所だ。


「いや、恋愛に関しては…幼児でしょ」
「だから、誰が幼児だ」


アレックスの物言いに腹を立てるが、アレックスは気にせず呆れ口調で話し続ける。


「じゃあ、もっと分かりやすく言いますね。ルミリオ様は、皇后陛下とあれこれしたいですか?」
「あれこれ、とはなんだ」


何故そんな濁した言い方をするんだ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろうが。


「そっか、ルミリオ様にはこれでは通じないのか…。じゃあ、皇后陛下と手を繋いだり、キスしたり、ハグしたり、夜を共にしたいですか?」


そう聞かれて、顔が段々と熱くなるのを感じる。


「に、日中になんて話をするんだ!」
「いや、だってこう言わないとルミリオ様が理解できなかったんですから仕方ないでしょ」
「だからと言って、なんてハレンチな!」
「ハレンチって…子供までいるのに何を言ってるんですか…」


それはそうだが…。



 
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