上 下
80 / 99

80、さようなら

しおりを挟む



「はぁ…」


マーガレットに落ち着いたらピクニックに行こう、なんて誘ったけど…。


この仕事はいつ終わるんだろう…。


城内の雇用の件はほぼ終わりが見えてきたけど…。城の決算書類等を確認すればするほど出てくる不正たち…。終わりが全然見えない…。



「ん、んん、」
「あ、ロンダ…どうしたの?」



部屋に誰もいないと思って机に突っ伏していると、いつの間に入ってきたのか、気まずそうに咳払いするアレックスさんが居た。


「一応何度か入出許可を伺ったのですが、返事が無かったので入らせていただきました」
「ごめんなさい、考え事をしていて聞こえてなかったみたい。それで、どうしたの?」


さっきの醜態を無かった事にするためにキリッとした顔で言えば、アレックスさんも空気を読んで真面目な顔で答えてくれる。


「皇帝より手紙を預かって参りましたので、お受け取りください」
「ありがとう」


手紙なんて1度も貰ったことがないのに、どういう風の吹き回しなんだろう。


手紙を受け取れば、アレックスさんはすぐに退出してしまったので1人で手紙を開封する。


中を確認すれば、リアムに話した内容とイザベラ様の今後について書かれていた。


リアム様からはどんな話をしたかは聞いていたけど、イザベラ様の事については全く知らされていなかったので、落ち着かない気持ちを抑えながら読んでいく。


「………した事がした事だから、仕方ない…よね」


手紙を読み終わってから、また机に突っ伏す。


前世での身近な死と言えば、老衰か事故や病気がほとんどで、死刑なんて、ニュースで聞くだけの話でしか無かった。それが今身近で起きようとしているんだと思うと、すごく複雑な気持ちになる。


国のトップを殺害したのだから、死刑になるかもしれないとは予想していた。それに、私やアイリ自身も危険な目に合わされそうになった。


だけど、いざその人が死刑に処されることを知って、平然としていられない。


前世の平和な世界で過ごしていた感覚がしっかりと残っているからこんなにも動揺してしまうんだろうな…。


皇帝が決めたことだから異を唱えるつもりは無いけど、すごく気が重くなってしまう。


リアムにはこの事はまだ伝えるつもりはないって書いていたから、リアムにイザベラ様の事が悟られないようにしないとな…。


ああ…アイリとリアムに今すぐ会いに行って抱きしめたい…。癒しが欲しい…。平和ボケした私に死刑はすぐに受け止めれるものじゃないよ…。


けど、この目の前の書類たちがそうさせてはくれないんだよね…。


「………がんばろ」


今まで、ルビアが何もさせてもらえなかったことをいい事に好きな事しかして来なかった自分が悪いと思ってするしかない。それに、仕事に集中すれば余計な事も考えなくていいんだから、良いように考えよう。


そうやって仕事に打ち込めば、気付けば1ヶ月が経っていた。


1ヶ月もすれば、城の中はかなり落ち着きを取り戻し、お父様やワイズ公爵の助けもなく仕事が回るようになっていた。


そして、イザベラ様は皇帝の言った通り、死刑が執行された。イザベラ様の死刑については、イザベラ様を皇后に、と支持していた貴族達から反対の声が上がったけど、その人達を調べると、次々と不正が見つかり、イザベラ様を庇う所ではなくなった。


結果として、イザベラ様の刑は執行され、不正を行っていた貴族達も粛清された。その事で、皇帝も仕事がしやすくなったと言っていたらしい。


正直、あんなにも皇后に執着していたイザベラ様が大人しく牢に入り、刑を執行されるまで逃げる素振りすら見せなかった事には驚いた。


イザベラ様は、あの夜から一体何を考えて過ごしていたんだろう…。母親に騙されていたこと?それとも、ギルバートに騙されていたこと?


どちらにしろ、イザベラ様にとっては可哀想なことでしかない。純粋な女の子を殺人者にしてしまった2人の罪は重い。


因みに、ギルバートは、私の証言でイザベラ様と共犯だった事、パーティで声を上げた男と同一人物だと知ったアレックスさんによって捕まえられ、イザベラ様と共に死刑に処された。


まさか、隣国にまで逃げているとは思わなくて、探し出すのにかなり時間がかかったようだ。それに、本当はパーティで名乗っていた家とは全く無関係だった為、余計に捜索に手間取ったらしい。


捕まって洗いざらい話した内容は、なかなかに酷いものだった。幼いイザベラ様を騙し、利用するだけして捨てるなんて…それに、妻子までいるなんて本当に最低な男だ。


もし…イザベラ様のお母様が子供思いで、ギルバートみたいな悪どい男と出会ってなければ、あんな風にはならなかったのかな…。


考えたところで答えは出ないけど、ふとした時に考えてしまう。


ルビアや皇帝、リアムやアイリにとって最低な人ではあったけど、彼女よ生い立ちには同情してしまう。


どうか…イザベラ様の来世が幸せな物でありますように。


空にそっと祈りを捧げながら、リアムと手を繋ぎながら庭を散歩する。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...