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69、頭のおかしな人にはビンタを

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長々と自分勝手な行動を取ってきた事を誇らしげに語るイザベラ様に、いい加減腹が立ってきた。


そんな自分勝手な理由で、ルビアも、リアム様の事も苦しめていたの…。それに、イザベラ様を信じていた皇帝に対してもあんまりだ。


母親を亡くして居るのに、父親を殺そうとするなんて、それも、第1発見者にするなんて頭がおかしい過ぎる。どうしてそこまで自分勝手な行動が取れるの。


お母様が亡くなって辛い思いをしたのかもしれない。だけど、それが人を傷つけていい理由になんてならないし、そもそも皇族の血が入っていないのに女帝になれるなんて思っていること自体おかしい。


今は、うわ言のように「ギルバートに裏切られた…」なんて言っているけど、そんな事知るか!


アイリを危険にさらされた事も本当に腹が立つし、ここは1発殴らないと気が済まない!


そう思って、いつの間にか泣き疲れて寝てしまったアイリをマーガレットに預けようとするとーーー。


パシィィイン!


ものすごく痛そうな音と共に、横に立っていたはずのマーガレットが右手でイザベラ様の頬を思いっきり叩いた姿が目に入った。


「え…?」



叩かれたイザベラ様は、状況が飲み込めない様子で呆然と赤くなった頬を押さえていた。そして、一拍遅れてようやくマーガレットに向かって怒った顔をして手を上げた。


「使用人ごときが私の顔を叩くだなんっ、!?」


パシィィイン!


仕返しでマーガレットを叩こうとしたイザベラ様は、無表情のマーガレットに再び頬を強く叩かれた。


叩かれたイザベラ様はマーガレットを睨み返しているけど、マーガレットは全く気にする様子も無く、真っ直ぐとイザベラ様を見ていた。


いつも穏やかな雰囲気を醸し出しているマーガレットとは違い、絶対零度の空気を漂わせる彼女に驚きが隠せない。


皇帝もこんなマーガレットを見るのは初めてなのか、イザベラ様の告白にショックを受けて俯いていた顔が少しだけ上昇した。


長年信じていた人から父親を殺したと告白されれば、衝撃も相当だったんだろう。僅かに上げた顔は暗い表情のままだ。


ルビアになってから皇帝に悪い印象を抱くことが多かったけど、その原因が全て皇帝にある訳では無くて、皇帝自身もイザベラ様の被害者だった。


それを知ってしまった以上、今までの自分の行動に罪悪感を感じる。だけど、今はそれよりも皇帝の心理状況がすごく心配だ。


今、一体どんなことを考えているんだろう。


今すぐ皇帝に話し掛けたいけど、イザベラ様が再びマーガレットに反撃しようとしているのが見えて皇帝から視線を外す。


「2回もぶつなんて…!」
「痛かったですか?」


頬を押えて憤るイザベラ様に、マーガレットは冷静に質問する。


「痛いに決まってるじゃないの!この国の次期支配者に対してなんて事をするの!」
「頭のおかしい方にはこうする方が分かっていただけるかと思いまして」
「どういう意味よ!?」
「貴女が感じた痛みを、はるかに超えるほどの痛みをルミリオ様もルビア様も感じてきたのです。お2人のことを思えば、これくらいでは全く叩き足りません」


皇帝に手を抑えられているとはいえ、刃物を持って怒るイザベラ様に対して怯むことなくマーガレットは毅然と言い返す。


私たちのために、こんなにも怒ってくれるなんて思っても居なかったのですごく嬉しいけど、様子がかなりおかしいイザベラ様を叩いて大丈夫なのか心配になる。


アイリを抱いたままなので成り行きを見守るしかないけど、マーガレットに何かあったらどうしよう。


心配でマーガレットの背中を見ていると、マーガレットが感情を押し殺すように、ゆっくりと口を開いた。


「リナリー様だけではなく、ゼノン様までも親子で命を奪うだなんて……。どういうつもりですか…。ゼノン様はあなた方に出来る限りのことをなさったというのに…!」
「出来る限り?それは、お母様を下衆な人間と結婚せざるを得ない状況にした事?それとも、お母様を処刑したこと?」


嘲笑うように応えるイザベラ様の言葉を聞き、マーガレットは1度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「貴女は…事実を何も教えてはもらえなかったのですね」
「どういう事かしら?」
「そのままの意味です。貴女のお母様は、事実とは異なることを貴女に伝えていたようですね」
「私のお母様が嘘をついているとでも言いたいの!」


お母様の事を言われて腹が立ったのか、イザベラ様は刃物を持った手に力を入れる。だけど、皇帝がそれを押さえているのでマーガレットに切っ先は届かなかった。


それでもイザベラ様は手に力を入れて声を荒らげる。


「私のお母様を侮辱する気!?あの最悪な環境の家で私を守り育てて下さったお母様を!城へと連れてきて下さったお母様が嘘なんて付くはずがないでしょ!?」
「………貴女は信じたくはないでしょうが、私が知っている事実をお話しましょう」


そう言って、マーガレットはゆっくりと話し始めた。

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