嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

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66、イザベラ様の様子がおかしい!

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「くっ、」


襲いかかって来るイザベラ様に枕を投げて抵抗する。


「あら、避けられてしまったわね」
「来ないで!」


アイリを抱いているのに刃物を向けてくるなんて正気じゃない!


泣いているアイリの背中を撫でながらイザベラ様と出来るだけ距離をとる。


「すぐに殺す気はなかったんじゃないんですか!?」


何とかイザベラ様から逃げる為にも、少しでも隙が生まれるように話しかける。


「ええ、この部屋に来てから、貴女とは話し合えば分かり合えるのじゃないかと思ったのだけど…やはりそれは無理みたい」
「どうしてですか?私は別に皇后の地位に執着はありませんし、出て行けと言われればアイリと一緒にすぐにでも出ていきますよ」
「そうね…。今の貴女ならその言葉を信じられるわ。だけど、無理なの」


頬に手を当てて微笑むイザベラ様は、無邪気で可愛いご令嬢そのものだ。だけど、手に持ったナイフのせいで、その表情は狂気じみたものにしか見えない。


イザベラ様には裏の顔があると知っていたけど、まさかこんなにも狂気に満ちていたなんて思いもしなかった。あの人から、なんとしてでもアイリを守らないと。


「どうして無理なのですか?」
「だって…貴女が悪いの。貴女が…私とギルバートの仲を引き裂いたのだから」


どういう意味?昨日はあんなに愛し合っていたのに、私が2人を引き裂いた?


イザベラ様の言っている意味が全く理解できない。だけど、話している間はナイフを向けてこようとしないから、このまま話を続けて外に逃げる隙を伺おう。


「ギルバート、さん?とは、一体誰のことでしょう?」
「母以外で私の事を愛してくれた、ただ一人の人よ。だけど、貴女のせいで…そうではなくなったわ」
「それはどういうことでしょう…私は、そのギルバートさんとは面識もありませんし、私がイザベラ様達の仲を引き裂く事はしていないと思うのですが…」


そう言えば、ナイフを持ったイザベラ様の手に力が入ったようにピクリと動く。


「ふふふ」


なにか、地雷でも踏んでしまったのだろうか…。


私の言葉ににこにこと笑うイザベラ様に冷や汗が止まらない。


「貴女って、私の神経を逆撫でするのが上手よね?公爵家出身と言うだけでも鼻につくのに、ルミリオの婚約者になろうとしていた私を差し置いてルミリオと婚約して、簡単に皇后の座を手に入れるだなんて…。本当に許せないわ」
「っ、でも、私が婚約を申し込んだ時には、まだイザベラ様と婚約をされていませんでしたよね?」


イザベラ様の怒気を含んだ声に気圧されそうになるが、皇帝の婚約者の座を無理やり奪い取った訳では無い事だけは、ルビアの名誉のために言っておく。


「そうね…。前皇帝が私の事を嫌っていたようだから、上手く事が運ばなかったのよ」
「前皇帝陛下が、ですか?」


イザベラ様は皇帝の父親から嫌われていた…?それはどうして?


「私とルミリオが仲良くなる事を快く思っていなかったみたい。もしかすると、私の母を冤罪で処刑したことに負い目を感じていたのかもしれないわね」


イザベラ様の母親が冤罪で処刑された…?イザベラ様のお母様は、ルミリオとルミリオの母親のせいで殺されたって言ってなかったっけ…。


話がよく分からないけど、話しているおかげでこちらに刃物を向けてこようとしないので、このまま話を続けないと。


「冤罪で処刑されるなんて、酷い話ですね」
「貴女もそう思う?ふふふ、初めて貴女と話してみるのも悪くないと思えたわ。けれど残念…。貴女も私の大切な人を奪うからいけないのよ」
「っ、」


ヤバイ、またスイッチが入ったのか、刃物をこちらに向けてこようとしている!


今までは私の悪評を広めて追い出そうとしていただけじゃなかったの!?それなのに急に攻撃してこようとする意味がわからないんだけど!


「前皇帝の様に死になさい!」
「っ!」


刃物を向けて走ってくるイザベラ様に何か投げたいけど、近くに何も無い!今から出口に向かって走ろうとしても、途中でイザベラ様に捕まってしまう。


それに、アイリを抱かえながらでは早くは走れないし、下手に動けばアイリが刺されるかもしれない!アイリだけでも何とか守らないと!


目の前まで向かってくるイザベラ様に、咄嗟に背を向けてアイリを守れるように胸に抱き抱える。


刺されることを覚悟して、アイリを抱く手に力を込めながら目を瞑る。


「やめろ!イザベラ!」
「っ、どうして!」


目を瞑ったと同時に聞こえてきた声に振り向けば、額に汗を滲ませた皇帝が、刃物を持ったイザベラ様の腕を握っていた。


どうしてここに皇帝が…?


「ルビア様!アイリ様!ご無事ですか!」
「マーガ、レット…?」


皇帝より少し遅れて部屋に入ってきたマーガレットが、アイリを抱えて床に座る私の方へと駆けてきた。


そう言えば、マーガレットが床に倒れる音は聞こえていなかった。もしかして、ミリアナがイザベラ様に掴まっている間に外に出て皇帝を呼びに行ってくれたの…?


「もう大丈夫ですよ。後はルミリオ様に任せましょう。本当に、ご無事で何よりです…」


マーガレットに背中を撫でられて、安心して涙が出そうになる。だけど、皇帝が来てくれたとはいえ、様子がおかしいイザベラ様が居る以上、まだ安心は出来ない。


「っ、離しなさいよ!どうして貴女がここに居るのよ!」
「イザベラ、一体何をしようとしていたんだ!」


聞いたことも無い皇帝の怒気を含んだ声に、私が言われてい訳では無いのにビクリとしてしまう。こんなに怒っている皇帝を見るのは初めてだ。


だけど、イザベラ様は気にした様子もなく嘲笑うように皇帝に話しかける。


「あら、見ていてわからなかったかしら?邪魔な女を消そうとしただけよ?」
「皇后に刃物を向けるなんて、一体何を考えているんだ!」
「だって、私の邪魔ばかりするんだもの仕方ないでしょ?邪魔者は消さないと、ね?」


可愛く笑いながら言う姿は異様でしかない。皇帝もイザベラ様が普通では無いと気付き、表情が怒りから困惑へと変わっていった。


「皇后が邪魔だなんて、何を言っているんだ…」
「邪魔なのはあの女だけじゃないわよ?貴方もよ、ルミリオ」
「なにを…」


言われた言葉に戸惑いを隠せない様子の皇帝に、イザベラ様は追い討ちをかけるように話を続ける。


「貴方はね、私と私の母の幸せと地位を奪ったの。だから、本当に許せないわ」
「私が、いつそんなことを…」
「そうね…貴方は知らないでしょうね。でも、全ての元凶は貴方の母親なのよ」
「母上が…?」
「ええ、いい機会だから教えてあげるわ。何も知らずに殺されるのは可哀想だものね」


困惑する皇帝に笑いかけ、まるで舞台に立っているかのようにイザベラ様は語り始める。


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