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7、何故また来たんですか?
しおりを挟むまた突然現れた皇帝に、つい敵意丸出しで対応してしまう。
「なにか御用でしょうか?」
「…風呂に入り、ここに来る前に清潔な服にも着替え、手も洗ってきました」
「あ、はい…だからなんですか?」
確かに昨日よりは清潔に見えるが、だからなんだと言うのか。私は何故ここに来たのかを尋ねているのに、全くトンチンカンな返答をされる。
「あ~…。昨日、皇后陛下が清潔にしてから来るようにと仰っていたので、お子様を見せて頂くために陛下は清潔な姿でここへ来られたのですよ」
私の質問に、フォローするかのように昨日陛下を部屋から連れ出した補佐官が答えてくれる。
なるほど、そういう事か。
自分の子供を一目見ようと私の言いつけを守ったっということか。
「そういう事なら、どうぞ中へ」
本当は昨日言われたことを根に持っているから赤ちゃんに会わせたくはないけど、一応赤ちゃんの父親ではあるので我慢する。
私の私情で父親に会わせないのは、子供にとって良くないことかもしれないので、ぐっと我慢だ。
これは子供のため…。
これは子供のため…。
心の中でそう念じながら、赤ちゃんのベッドへと案内する。
「おいで、アイリ」
「アイリ?もう名前が付いているのですか?」
「はい。何か問題でもありますか」
ずっと赤ちゃんなんて呼べないし、一応皇帝の事はアイリの父親と認めるけど、だからって私の子供の名前を相談する気にもなれないので昨日勝手に命名させてもらった。
「子供の名前は、父親や家族が付けるものではないのでしょうか」
「そうなのですか?ですが、この子を産んだ時には私しか居ませんでしたし、相談出来るような方も居ないので私が付けても問題ないのではありませんか?」
「それは…そうだが…私に一言あってもよかったのではないかと」
私のことを、子供を殺すかもしれない!って疑いまくってた人にどうやって相談しろと?頼まれても相談なんてしたくないんですけど。
「まぁまぁ、もう決まったことですし、ルミリオ陛下も国外へ行ったりでそれどころではなかったのですから、仕方ないではありませんか」
「だが、マーガレット…」
「それにしても、可愛らしいお名前だと思いませんか?ねぇ、アイリ様」
不服そうな皇帝と、皇帝の言葉に機嫌が悪くなっていく私の間を取り持つ様にマーガレットが会話に混ざってくれる。
「それより、ルミリオ陛下はアイリ様を見に来られたのですから、抱っこされてはいかがですか」
「それは…」
「嫌なら、別に無理してしなくていいです。ねぇ、アイリ。アイリはママに抱っこされてた方が良いもんね」
可愛いわが子を抱き上げたくないなら別にそれでいい。その代わり、私がその分抱っこすればいいだけなのだから。
ああ、本当に可愛い。
我が子ながら天使でしかない。
ぷにぷにほっぺを触れば、自然と笑顔になる。
「オホン」
アイリと戯れていると、わざとらしく皇帝が咳払いをしてくる。
「別に嫌だとは言っていません」
「それって、アイリを抱っこしたいと言うことですか?」
「私の子供なのですから、抱き上げても問題は無いだのではありませんか?」
問題は無いけど、ぶっきらぼうな言い方にイラッとくる。
抱っこしたいと言えばいいだけなのに、抱っこしても問題ないだろうってなんなのよ。私の中では問題大ありなんですけど!貴方みたいな、人を苛立たせる言い方しか出来ない人間にアイリが似たらどうしてくれるのよ!
「絶対に落とさないでくださいね」
「分かっています…」
渡したくはないけれど、父親の権利として抱っこさせてあげる。けど、抱き方がすごく危なっかしい。
「何してるんですか!まだ首が座ってないんですから、しっかりと支えて下さい!」
「首?こ、こうですか?」
「違います。こうです」
皇帝の手を掴んで安全な抱き方を伝える。手を掴んだ瞬間、皇帝の身体に力が入ったが、アイリの安全の方が大事なので無視させていただいた。
というか、この人には既に側室の子供が居るはずなのに、どうして赤ちゃんの抱き方すら知らないんだろう。もう5年前になるから忘れた、とか?
どうでもいいけど、アイリの安全だけは守っていただきたい。
「小さいですね…」
「まだ生まれて2週間も経ってませんからね」
「そうですか…」
「オンギャ、オンギャ!」
「な、泣き出しました!」
皇帝に抱かれてアイリが泣き出すと、皇帝が焦ったように私にアイリを突き出してきた。その姿に呆れながら、アイリを受け取ってあやす。
「よーしより、アイリはいい子だねぇ。よしよし」
「泣き止んだ…」
奇跡を目の当たりにした様に皇帝がポツリと呟いた。
「母親の元が1番安心出来る場所なので仕方ありませんよ。それに、ルミリオ陛下はルビア様から警戒されていますので、アイリ様に泣かれるのは仕方のないことです」
マーガレットがアイリに泣かれた皇帝にフォローを入れるが、あまりフォローにはなっていないようで、皇帝は何故か少しだけ落ち込んでいるように見えた。
「皇后から警戒されなければアイリは泣かなくなるのか?」
「はい。赤ちゃんは母親の感情を敏感に察知するのです。ですから、ルビア様が安心して預けられる方には、アイリ様も泣いたりはしないのですよ」
それなら、皇帝はアイリが赤ちゃんの間はずっと抱っこ出来ないということだな。でもこれも仕方ないこと。なので、諦めてください皇帝陛下。
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